8月20日は千束神社の祭礼である。山車屋台に町々の見得をはり、土手から郭(くるわ)までなだれこむ勢いで、若衆ばかりか子供といっても油断がならない――。これは明治の女流作家・樋口一葉が著した「たけくらべ」の一節です。下谷龍泉寺町(現在の東京都台東区竜泉3丁目)に居を構えた一葉は、生活苦を打開しようと、荒物雑貨、おもちゃ、菓子などを売る小店を開いた時の生活体験から、この名作を書き上げたそうです。吉原遊廓という虚構の空間とその周辺で慎ましく生きる人々が見事に描かれていますが、バブルという虚構からなかなか抜け出せずにいる我々を戒めるためでしょうか、来年度に発行される新紙幣5000円札の肖像に一葉が登場します。
夏祭りの後に待っているのは、耐乏生活だけなのでしょうか?今回は、思い切った手が打てない、ソリューション欠乏症の病理について書き綴ってみます。
5年連続して名目GDPマイナス基調という現象が、(1)デフレによる失業者の増加と賃下げのまん延(02年度平均完全失業率5.4%)、(2)税収の大幅な低下(99年度:47.1兆円→03年度:41.8兆円)、(3)金融資産の停滞による個人消費の低迷(02年度末の家計金融資産残高:1378兆円、うち現金・預金の構成割合56%超)など負の悪循環を誘発していることは言うまでもありません。
牛尾治朗氏(ウシオ電機会長)ら4人の民間議員が7月17日の経済財政諮問会議に提出した「平成16年度予算の全体像」では、一般会計に加え、地方、特別会計などを含む政府全体の予算改革を進め、一般歳出については平成15年度の水準(47.6兆円)以下に抑えるよう求めています。とりわけ、社会保障制度改革では、年金の物価スライドを実施する他、医療に関しても、高齢者医療費の伸びの適正化や公的保険の範囲の見直しなどが盛り込まれた「医療サービス効率化プログラム」の推進に加え、「近年の物価・賃金の下落等を踏まえ、診療報酬・薬価を引き下げ、国庫負担を削減する」としています。つまり、氏ですら、こうした悪循環が少なくとも5年は続くと判断しているわけです。
一億総耐乏生活ということになれば、一葉を凌ぐ「平成たけくらべ」が誕生するかも知れません。企業再生、金融改革、政治改革など、これ以上先送りが許されない状況にあるにも関わらず、なぜ思い切った改革の手が打てないのでしょうか?その病理を辿っていくと、政官財を問わず全てに自己認識力が欠如していることに突き当たります。
東京都の石原慎太郎知事は、「正確な自己認識が気概を生む」と述べ、東京発の改革を推し進めています。正確な自己認識を持った人間だけが、気概を持って明日を切り開けるのだとしたら、少なくとも我々から率先して、明るい展望のある組織社会を目指そうではありませんか。
そのためには、3つの基本ルールがあります。
第1は、まず現状の全てを否定することです。
取り組むべき課題を決定するため、自社の強みを縦軸に、市場の魅力を横軸にしたポートフォリオを描き、いずれも高い「勝てる土俵」に企業資産を集中する。
第2は、決められたターゲットを攻略する具体策を順序立てて(ストラテジーマップ)策定することです。
第3は、具体的な課題解決の手法・取り組み方を考え、実行に移すことです。
後は実行あるのみですが、基本的にこのパターンが明確にされていない場合、ソリューションは上手くいきません。
様々な課題が山積し、その迅速な解決を求められる今日では、正確な自己認識力とソリューション思考がなければ明日の展望は無いでしょう。
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