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2003/09/01

冷夏と低予算がもたらす「経済的悪寒」

大都市部の気温が郊外より7〜8℃高くなる「ヒートアイランド現象」や、18年ぶりにやってきた「ヒートタイガーズ現象」とは裏腹に、気象庁も予測し切れなかった冷夏が慢性的な冷え性に悩む日本経済をさらに冷え込ませています。気象庁の予報精度は、1950年代に70%程度だったものが、観測網の発達やスーパーコンピュータを使った予報技術の進歩で80%を超えるまでに向上しているそうですが、今夏はコンピュータが解析し切れない局所的な風向きも影響して予報と違う天気になってしまったそうです。

一方、医療・医薬品業界にとっては、予想が的中してほしくない04年度予算概算要求基準(シーリング)が7月末に最終決着しました。その中身をみると、社会保障関係費の自然増分を2200億円程度圧縮して、前年度比6900億円程度に抑えるよう求めています。この2200億円は国庫負担分であり、実質的にはその4倍に当たる8900億円を医療や年金、介護などから削らなければなりません。

冷夏や長雨で打撃を受けやすい企業には天候デリバティブという損保商品がありますが、医療・医薬品業界は国庫負担削減に伴うリスクを避けることはできません。今月は、コンピュータさえ狂わせた今夏の顛末と予想通り関係費の縮減を強いられた医療・医薬品業界の行方を書き綴ってみます。

今夏は93年に匹敵する記録的な冷夏に陥ってしまいました。気象庁では、9、10月の平均気温を「高い」に修正しましたが、今夏の宝くじのような的中率からみて長期予報を信じる企業は少ないはずです。

日本フランチャイズチェーン協会が発表した7月のコンビニエンスストア統計(13社)によると、既存店売上高は前年同月比7.3%減で、全国的に気温が低く推移したことから、夏の季節商品であるアイスクリーム、清涼飲料水などが絶不調だったと聞いています。また、海水浴場やビアガーデンに閑古鳥が鳴く一方で、映画館や遊園地など手近なレジャーが賑わったようです。

飲料メーカーでは、最高気温29℃から売り上げのピークを迎え、33℃を超えると逆に伸び悩むという経験則を持っているそうですが、医療・医薬品業界でもシーリングの削減幅で来年度の市場を読む経験則が備わっています。

7月末に政府が閣議決定した社会保障関係費の2004年度予算概算要求基準(シーリング)では、自然増分として6871億円が認められました。財務省では来年度の自然増分を約9100億円とみていたので、およそ2200億円の削減が求められることになりました。財務省の皮算用によると、来年度に年金制度改革で最大1050億円の給付抑制を行い、残りの1100億円程度を診療報酬・薬価の引き下げなどで削減する考えです。

力関係では、診療報酬よりも薬価の引き下げが先ですから、薬価だけで1100億円分、つまり薬剤費ベースで約4500億円を削減するとなれば、薬剤費を6兆円とした場合、実に7.5%もの引き下げ幅になります。しかも、これは年金の給付抑制が成功したと仮定した場合のことで、失敗すれば2200億円(実質8900億円)の削減が医療・薬価のノルマになってしまいます。

厚生労働省が発表した2002年度の概算医療費(自己負担、労災などを含まない。国民医療費の97%程度)によると、医療費総額は、診療報酬マイナス改定や高齢者の医療費自己負担増によって、前年度比0.7%減の30兆2000億円で着地しました。医療費総額は2000年にも減少しましたが、介護保険導入で高齢者医療費の一部が介護に移行したことによるものだったので、実質的な減少は今回が初めてということになります。

この意味で冷夏(低予算)は実体経済(医療経済)にもさまざまな低位不安定の影響を及ぼすことになるでしょう。

ユート・ブレーンでは11月初旬に04年度医療・医薬品市場予測レポートをまとめる予定にしています。この予測は気象庁の長期予報より精度が高いのでぜひ参考にしてもらいたいと思います。


堀井 輝夫

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