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2003/11/04

転ばぬ先の「意識改革」

「新聞は政談を載せ、政略を議するのみの具ではない。広く江湖(世の中)の新話を記して世道人心の革正に務めなければならない」――。これは朝日新聞を弱冠29歳の若さで1879年に創刊した村山龍平氏の言葉です。それから120年余りが経った今、日本には発行部数で世界1位、2位の読売、朝日を含め、100万部を超す新聞が10紙以上あるものの、2000年を境に3年連続で総発行部数が減少しているそうです。おまけに、40年ほど前からマスメディアの王座を守っているテレビの視聴方法もインターネットの影響で、常にチャンネルを切り替えながら複数のテレビ番組の面白い部分だけを視聴する「いいとこどり」タイプや、特に見たい番組がなくてもテレビを点けたまま別のことをする「常時接続」タイプが増えていると聞きます。このようなメディアとの接し方をする消費者が活字離れも手伝って、新聞業界や出版業界を窮地に追い込んでいるようですが、そんな最中、編集者の意識改革が“ベストセラーを作った”事例が本以上に大きな話題になっています。

今月はその舞台裏から、どの企業にも求められる意識改革について書き綴ってみました。

博報堂生活総合研究所が行ったメディアとの接し方に関する定点調査の結果からは、テレビの視聴方法が変わったことに加え、新聞のような解説型メディアや広告のような一方的な情報提供が「自分を取り巻く情報の一つに過ぎない」という受け止め方が強まったことで、社会的影響力が低下しているように受け取れます。

その結果が総発行部数の減少につながっているようで、日本新聞協会がまとめた02年10月現在の発行部数と普及度によれば、5319万8000部(対前年同月比▲0.9%)、1世帯当たり1.09部(同▲0.03部)という状況です。

どんな商品も売れ行きが鈍化した場合の対策は、営業力と商品力の強化しかありませんが、その前提として一番大切なことは当事者の意識改革なのです。新聞も「ビジュアル化」や「分かりやすいニュース解説」など紙面刷新が相次いでいますが、今こそ村山龍平氏が遺された言葉を思い起こす時ではないでしょうか。

一方、新聞業界より厳しい状態にある出版業界では、「バカの壁」(養老孟司著、新潮新書)というムックが4月10日の発売以来、わずか5ヵ月間で130万部を突破する超ヒットになっています。この本は、養老孟司氏が89年に著した「唯脳論」のリメイク版で、新潮社の編集部スタッフが従来の著者と編集者という垣根を破って、養老孟司の知的世界を分かりやすく翻訳したものです。「唯脳論」から「バカの壁」への転換は、ネーミンングの巧みさもさることながら、難解なテキストから平易なテキストへ、特定の個人への著作から不特定多数への著作への転換でもあり、行き詰まりにある出版業界の新たな生き残り策のように映ります。

仏教用語に由来する「意識」は(眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識)の第六識で、知・情・意といった自己の内面の認識能力のことを指します。特に、日本人の意識の場合、「集団依存的」、「中央集権的」な考え方をすることから、基本的に他者模倣による認識とか、それに基づいた行動になってしまうことが多く、自分自身を自立させようとする自然な心の動きが封殺されているように思えてなりません。つまり、「内的な欲求に従っていられない状況」とは、外敵の存在や環境の変化による危機が迫っている場合であって、それらをはっきり表す痛みが伴わなければ意識改革は起こらないということです。

右肩上がりの時代は、企業自らが社員を「依存」と「同質」のマインドに染め上げてきました。この「依存」と「同質」の意識を持つ社員こそが、経営効率を高める原動力になってきたのも事実です。しかし、時代の変遷と共に発想と常識認識の転換が求められる現在では、「自立」と「個性」に向けての意識の改革が迫られるようになってきました。過去程の拡大成長が望み得ない市場では、個性的な企業でないと存在価値が認められないからです。

深刻な経営危機に見舞われた松下電器産業では、赤字の原因を「会社は潰れないと言うおごりと慢心があった」とし、“破壊と創造”をスローガンにビジネスモデルを見直しつつあります。同様に、医薬品業界でも破壊と創造ができる若手経営者に経営の軸が移行しつつあることから、外敵の存在や環境の変化による危機が迫っていることが分かります。

痛みを伴ってからでは遅すぎます。今こそ旧来の日本的な意識を改める時ではないでしょうか。


堀井 輝夫

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