イチローが大リーグで84年ぶりの偉業を達成したことは、久方ぶりの快挙であります。大リーグに移籍して4年、打率と安打数の成果でそれなりに活躍はしていましたが、一発逆転を求める豪快なホームランを良しとする日米の野球フアンには今一の評価でありました。しかし今回、262本のシーズン最多安打という大リーグ新記録を打ち立てたわけです。
バブル崩壊後の日本の状況は、アメリカの後塵を拝してばかりいましたが、この記録は久方ぶりに日本をアピールすることとなり、これからの若い人に勇気を与えてくれる一助になろうかとも思います。このイチローの活躍に思いをはせながら、一文を書き綴ってみます。
最多安打――あまり意識されない記録でありますが、一つ一つ地道に積み上げるしか達成できないものであり、よく考えますと我々にともすれば欠けがちな「日頃の精進、ひたむきさ」という言葉の持つ重さ、重要さを認識させてくれます。
目先の勝負、しかも大きく勝ったか否かが人の印象に残る現代の風潮の中で、わき目も振らず、求道者の如く自ら決めた道を黙々と進むことにその大きな価値があることでしょう。
イチローのユニークなところは、周りの雑音に耳を傾けることなく、自身の決めた目標を一つずつクリアしていくというその発想です。まさしく“千里の道も一歩から”でありましょう。結果はその努力の積み重ねの後についてくる、という考えであります。
今あることを懸命に、愚直なまでに成し遂げるその行為が結果を生み出すわけであり、途中のプロセスはあくまでも単なるプロセスで、「結果を意識するプロセス」が重要なことと教えているような気がします。そのため、彼の報道に対する受け答えは非常に素っ気無く、途中の経過に関する状況コメントは言わば一時の通過点であるような鼻を括ったような受け答えをしております。絶えず工夫し、次なる高い目標に挑戦する気持ちの現れでしょう。
国民栄誉賞を2回も辞退したその姿勢は、今は単なる通過点であって、さらに高い目標に達する途中であるという発想だからでしょう。まさしく“百尺竿頭一歩を進む”の精神であります。
日頃、私達が仕事を遂行する姿勢もこれに学ぶものがあり、成果を無意識に意識する「暗黙知」スタイルの取り組み姿勢と、その高い目標設定が必要ではないでしょうか。
プロセスが良かったら結果は駄目でも仕様がない、やむを得ないという言葉を良く聞きます。確かに、これはこれで評価しても良いかも知れませんが、このイチロー風目標設定と、それに地道にひたむきに取り組む姿勢を、今一度よく噛み締めてみたらいかがでしょうか。
この記録は、恐らく当分の間は破られないでしょうが、この高い目標・姿勢とそれに取り組む彼のポリシーは、ビジネスの社会でも十分活用できるものでありましょう。
注)百尺竿頭一歩を進む=本来の進歩というものは、高い頂上を極めてもなお満足せず、その上にさらに工夫を凝らして進歩向上を考える姿勢が必要であるという意味
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