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2005/07/01

医療費を“身の丈に合わせる方策”で変わる医薬品マーケティグ

ご利用は計画的に」――。テレビCMなどでよく耳にする言葉ですが、赤字公債という名の借り入れ限度額のないカードローンを乱発して膨大な借金を抱えたヒノマル君が、家族(国民)へ返済額の支払いか、生活レベルのダウンをお願いしている、というのが今の日本の実情でしょう。財務相の諮問機関にあたる財政制度等審議会は、国の基礎的財政収支を10年後に均衡させるための方策として、(1)歳出を3割カットする、(2)消費税率を19%に引き上げる、(3)消費税率12%前後引き上げ&歳出削減の三択から、(3)が現実的な回答としていますが、歳出削減の矛先が社会保障費の中の「年金」ではなく「医療費」に向くことだけは明らかです。

今回は借金大国ニッポンの医療費を“身の丈に合わせる方策”(医療費抑制策)と製薬企業にもたらす影響について書き綴ってみました。

月々の給与が44万円しかないのに20万円の赤字を出していては、500万円を超える借金も益々増えるばかりです。44万の収入を増やす手立て(増税)以外にこの20万円の赤字を何とかやりくりして、10年後には給与に見合った範囲内に抑えたいというのが政府の考えです。

財政制度等審議会がまとめた建議「06年度予算編成の基本的考え方について」は、実効性のある借金返済計画を提示したもので、「(遅かれ早かれ消費税率の引き上げは避けて通れないが、)当面は聖域なき歳出削減を進めていくべき」としています。とりわけ、一般歳出の4割以上を占める社会保障関係費の伸びを経済成長に見合う程度に抑制することは、「わが国財政の持続可能性確保に向けた最大の課題」と指摘しています。

確かに、社会保障関係費は少子高齢化を背景に、自然増分だけで年間3兆円ずつ増え続けており、現役世代が高齢者の面倒をみるという今の社会保障システムではいつか破綻をきたすことは明らかです。ただ、即効的で、実効性の高い歳出削減分野として、医療にターゲットが当てられていることは困ったものです。

財政制度等審議会は、医療費について、今後とも経済の伸びを大きく上回って伸びる見込みで、「現行のまま放置すると国民負担が継続的に上昇していかざるを得ない」とし、国民負担の増加を極力抑え、公的医療保険制度を持続可能な制度にしていくためには、「早急に給付の抑制に厳しく取り組んでいく必要がある」として、具体的な医療費抑制策を打ち出しています。

<公的医療保険がカバーする範囲の見直し>

  1. 混合診療、特定療養費の弾力化・抜本的拡充
    (後発品が存在する先発品の使用についてはその価格差分が保険対象外)
  2. 入院における日常生活費用の保険適用のあり方の見直し
    (食事・ホテルコストの保険給付対象外)
  3. 一定金額までの保険適用免責制度の導入
  4. 後発品の使用を促進するための薬価制度の見直し
  5. 医薬品に関わる保険適用の見直し
    (市販類似医薬品等)

<医療の効率化の徹底>

  1. 高齢者医療コストの削減
    (診療報酬の包括化の推進、入院から介護・在宅医療への円滑移行に伴う平均在院日数の短縮、電子カルテの普及・医療機関の連携強化による重複検査の解消)
  2. 地域・保険者による医療費適正化への取り組み強化
    (医療費の地域部分の適正化を促す仕組みの導入)

これらの医療費抑制策が反映されることになっていた政府の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」(骨太方針2005)は、与党関係議員の圧力で具体的項目が削除され、今のところ“玉虫色”に変色してしまいましたが、診療報酬や薬価の改定率が決まる06年度予算案取りまとめ段階や06年通常国会に提出される医療制度改革案で再び遡上に上げられることは確かです。

中でも特に、即効性の高い薬剤給付の縮減については、自民党社会保障調査会の丹羽雄哉会長も自身の政策理念をまとめた冊子の中で、医療用医薬品に係る公的医療保険の守備範囲を見直す際には、一度廃案になった「日本版参照価格制度」(医療保険から給付する基準額を定め、薬価との差額分を自己負担にする制度)の検討が避けて通れないとしています。

一方、厚生労働省では後発品の使用促進策として、一般名処方だけでなく医師の処方で圧倒的に多いブランド名処方の代替調剤を保険薬局に認める方向で、処方せん標準書式改正案をまとめつつあります。

経済協力開発機構(OECD)が公表した「ヘルスデータ2005」によると、日本の薬剤費比率は18.4%で、OECD平均に比べまだ0.6ポイント高い水準にあります。薬剤費比率が高いからと言って、給付率を下げ、受益者に負担を押し付けるという安直な論理のみでは大方の国民の賛同は得られないでしょう。

ましてや、今以上に医療費負担が増えれば安価で適切な医療を国民は求めていくでしょうし、薬剤選択においてもブランド品とノーブランド品(薬価の安い長期収載品や後発品)との使い分けが広がってくるのは必定です。

そういう前提に立てば、来年度以降は患者が財布の中身と相談して医療機関と医薬品を選別する考えがもっと急速に広まってくるものと考えられます。病院・医院ターゲッテイング患者マーケティングの優劣が製薬企業の盛衰を分けることになるでしょう。


堀井 輝夫

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•  赤字公債
•  財政制度等審議会
•  聖域なき歳出削減
•  骨太方針2005
•  日本版参照価格制度
•  代替調剤
•  経済協力開発機構(OECD)


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