HOME
会社概要
セミナー
教育関連
海外情報
書籍
お問い合わせ
ワールドネット
HOMEUBレター詳細





2005/11/01

「続・三方一両損」 冬支度が必要な医療サービスの今後

中国で考案された季節を表す「七十二候」によると、11月下旬は、北風が木の葉を払い除ける「朔風払葉」にあたります。この時期には街路や山を彩ったイチョウもほとんど落葉し、白と黒のモノトーンに被われる季節の足音が聞こえ出します。

同時に、社会保障という名の政府が管理する林の中で、医療の木に茂った“給付の葉”が「木そのものを枯らせる原因になる」として、一葉ずつ切り払われようとしています。郵政民営化に闘志を燃やした小泉首相も、まさか「医療保険民営化」を打ち出すことはないでしょうが、国民所得に対する医療給付費の“伸び率管理”という形で公的医療保険の守備範囲をどんどん縮小していくことは間違いなさそうです。そのツケを支払わされるのは、いつも決まって国民と製薬企業でしたが、今回は新たに医師を含む医療従事者が加わり改革は待ったなしの状況であります。

今月は、その全貌が明らかになりつつある医療制度改革の方向について書き綴ってみます。

小泉自民党が圧勝した勢いを受け、今や主要政策は改革一辺倒の印象さえ受けます。予想されたこととは言え、現状の見通しでは、2006年4月に施行される薬価改定も診療報酬改定も大幅に引き下げられそうな雲行きです。

医薬品業界にとっては、来年度の展望予測は難しいものがありますが、財務省が描いた医療制度改革の論点では、既収載品の薬価引き下げにとどまらず、後発品薬価を基準にした参照価格制度が再び俎上に上されていることから見て「新薬を上市できない製薬企業は存在価値がない」と暗に言っているように思えてなりません。

新薬が開発できないメーカーはこの厳しくパイ縮小される医療市場からは撤退せざるを得ない状況になるという事がいよいよ真実味を帯びてきました。

その背景には、以前書いたよりも、さらに厳しい医療給付費の“身の丈基準”があります。これまで総額管理に消極的だった厚生労働省も、経済財政諮問会議に背中を押される形で国民所得に対する医療給付費の比率を2025年度まで9%以内に抑える目標を設定する検討に入ったことは周知の通りです。直近の国民所得の総額は約350兆円、これに対して医療給付費が約26兆円ですから、現在の比率は7.4%になります。厚生労働省の試算では、現行の制度を維持すれば、25年度の医療給付費は59兆円に達するとしていますから、対国民所得比で15%台を超えることは間違いありません。そのため、「国の財政に悪影響を及ぼし、将来的な国民負担を押し上げる恐れが大きい」としていますが、裏を返せば、「自然増分を家計で負担してもらいたい」ということに他なりません。

ただ、これまでと異なる点は、薬剤費以外に従来、聖域に近かった医師等のお手当て(診療報酬本体)まで引き下げようとしている点です。推測の域を出ませんが、診療報酬本体で1〜2%、薬価で5〜6%引き下げられる可能性があるということですから、医療費ベースでは6000億円〜9000億円が削られる計算になります。

これで「三方一両損」になるわけですが、果たしてこれでよいのでしょうか?政府から家計への移転支出である社会保障は、重要な使命ではないのでしょうか?画期的な新薬の創生・上市は国家戦略ではないのでしょうか?医師等の報酬を一律に引き下げて質の高い医療が提供できるのでしょうか?

否応なく医療環境は激変します。その変化に巧みに柔軟に対応する知恵が国民にも、製薬業にも、そして医療機関にも求められているのです。


堀井 輝夫

この記事はお役にたちましたか?Yes | No
この記事に対する問い合わせ

この記事に対する
キーワード
•  国民所得
•  医療給付費
•  後発品
•  参照価格制度
•  製薬企業の産業ビジョン
•  総額管理
•  経済財政諮問会議


HOMEUBレター詳細 Page Top



掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はセジデム・ストラテジックデータ株式会社またはその情報提供機関に帰属します。
Copyright © CEGEDIM All Rights Reserved.