セジデム・ストラテジックデータ株式会社ユート・ブレーン事業部(本社大阪市)では、毎年恒例となっている2012年度の世界の大型医薬品売上高ランキングをまとめた。これはメーカー各社の大型医薬品売上を単純に並び替えてランキングしたものではなく、同じオリジナル成分を販売している世界のメーカー各社のブランド品売上や創製メーカーのロイヤリティを加えた合計による世界の大型医薬品売上高ランキングであり、創製された1つの成分が世界でどれだけの売上高となったのかをまとめたもの(ブランド品のみ)。為替レートは2012年、2011年とも年末の米ドル換算値を使用しており、2012年は1ドル=85.903円、2011年は77.399円で換算しており、日本のメーカーの円で公表されている医薬品売上のドル換算値は前期比で9.9%減少している。1ユーロは1.3215ドルで、2011年末に比べて2.1%上昇し、スイスフランは2.8%高くなった。
(表の注:決算期の数字を用いているため、日本のメーカーは多くが2013年3月期決算、欧米メーカーの多くは2012年12月期決算の公表数字で計算。1社だけの医薬品売上の場合、前期比の%は決算通貨での伸び率や為替固定ベースでの実伸び率を使っているため、ドル換算値の伸びではない。製品名のアミ掛けはバイオ医薬品、一般名のアミ掛けは日本のメーカーの創製品であることを示す。)
2011年は過去最大の大型品のパテント切れ(パテントクリフ)とされ、2012年はそれらが大幅減となったことから、 50億ドルを超える超大型品は1つ減少して15、合計額は▲11.3%の1,018.5億ドルとなり、 40〜50億ドルの製品数は同じ9品目で売上合計は0.4%増えたが、30〜40億ドルの製品は2つ減って11品目、 売上合計は▲17.8%の374.7億ドルの大幅減となった。30億ドル以上の35製品の売上合計は▲10.5%の1,781.9億ドルで、2011年の合計と比べて208.8億ドル減少した。
2012年の30億ドル以上の35製品の合計額は、次のランキング表の下にあるように、同じ製品の前期比では▲3%だが、 前の2011年の30億ドル以上の38製品から、武田薬品の糖尿病薬「アクトス」、イーライ・リリーの統合失調症薬「ジプレキサ」、 アムジェン/協和発酵キリンのエポエチン製剤「アラネスプ/ネスプ」、ルンドベック創製の抗うつ剤「レクサプロ」の4製品が減少して30億ドルを下回る一方、 ファイザーのCOX-2阻害剤の「セレブレックス/セレコックス」が34位にランクインし、1増4減で35製品に減少した。 なお、2010年の30億ドル以上は37製品、2009年は35製品で、3年前と同数であり、2012年は初めてマイナスに転じた。
順 | 製品名 | 一般名 | 主な薬効/クラス | メーカー | 2012年 | 前期比 | 2011年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ヒュミラ | アダリムマブ | 関節リウマチ | アッヴィ/エーザイ | 9,603 | 17% | 8,242 |
2 | レミケード | インフリキシマブ | リウマチ/クローン病 | J&J/メルク/田辺三菱 | 9,071 | 1% | 9,016 |
3 | エンブレル | エタネルセプト | 関節リウマチ | アムジェン/ファイザー/武田 | 8,476 | 7% | 7,902 |
4 | アドエア/セレタイド | サルメテロール/フルチカゾン | 抗喘息薬(配合剤) | GSK/アルミラル | 8,216 | 4% | 7,891 |
5 | クレストール | ロスバスタチン | 高脂血症/スタチン | 塩野義/アストラゼネカ | 7,430 | -6% | 7,919 |
6 | リツキサン | リツキシマブ | 非ホジキンリンパ腫他 | ロシュ/バイオジェン・アイデック | 7,227 | -2% | 7,386 |
7 | ランタス | インスリングラルギン | 糖尿/インスリンアナログ | サノフィ | 6,555 | 19% | 5,071 |
8 | ハーセプチン | トラスツズマブ | 乳がん | ロシュ/中外製薬 | 6,444 | 11% | 5,589 |
9 | アバスチン | ベバシズマブ | 転移性結腸がん | ロシュ/中外製薬 | 6,307 | 6% | 5,631 |
10 | ジャヌビア | シタグリプチン/配合剤 | 2型糖尿病/DPP4 | メルク/小野薬品/アルミラル | 6,208 | 22% | 5,095 |
11 | ディオバン/ニシス | バルサルタン/配合剤 | 降圧剤/ARB | ノバルティス/イプセン/UCB | 5,793 | -17% | 6,984 |
12 | プラビックス | クロピドグレル | 抗血小板薬 | サノフィ/BMS | 5,277 | -46% | 9,729 |
13 | サインバルタ | デュロキセチン | SNRI/抗うつ他 | イーライリリー/塩野義 | 5,107 | 20% | 4,247 |
14 | エビリファイ | アリピプラゾール(経口) | 統合失調症 | 大塚製薬/BMS | 5,105 | 7% | 5,318 |
15 | リピトール | アトルバスタチン | 高脂血症/スタチン | ファイザー/アステラス他 | 5,028 | -54% | 10,860 |
16 | スピリーバ | チオトロピウム | COPD/抗喘息 | ベーリンガー・I/ファイザー | 4,707 | 13% | 4,083 |
17 | グリベック | イマチニブ | 抗がん剤 | ノバルティス | 4,675 | 4% | 4,659 |
18 | ノボラピッド/ノボミックス | インスリンアスパルト | 糖尿/インスリンアナログ | ノボ・ノルディスク | 4,436 | 19% | 3,672 |
19 | リリカ | プレガバリン | 神経疼痛/てんかん | ファイザー/エーザイ | 4,320 | 13% | 3,839 |
20 | シングレア/キプレス | モンテルカスト | 抗喘息薬 | メルク/キョーリン | 4,314 | -28% | 5,954 |
21 | ネキシウム | エソメプラゾール | 抗潰瘍剤/PPI | アストラゼネカ/第一三共 | 4,195 | -7% | 4,513 |
22 | プレベナー7/13 | 小児肺炎球菌ワクチン | 小児用ワクチン | ファイザー | 4,117 | -1% | 4,145 |
23 | ニューラスタ | ペグフィルグラスチム | 好中球減少症G-CSF | アムジェン | 4,092 | 4% | 3,952 |
24 | ルセンティス | ラニビズマブ | 黄斑変性症 | ロシュ/ノバルティス | 4,019 | 10% | 3,670 |
25 | コパキソン | グラチラメル | 多発性硬化症 | テバ製薬/サノフィ | 3,968 | -4% | 4,135 |
26 | レブリミッド/レブラミド | レナリドマイド | 多発性骨髄腫 | セルジーン | 3,767 | 17% | 3,208 |
27 | アトリプラ | ビリアード/エファビレンツ | 抗HIV薬3剤配合剤 | ギリアド・サイエンシズ/BMS | 3,574 | 11% | 3,225 |
28 | シムビコート | ブデソニド/フォルモテロール | 抗喘息薬(配合剤) | アストラゼネカ/アステラス | 3,516 | 3% | 3,406 |
29 | エポジェン/エスポー | エポエチンα | 腎性貧血 | アムジェン/J&J/協和キリン | 3,448 | -8% | 3,731 |
30 | ミカルディス | テルミサルタン | 降圧剤/ARB | ベーリンガーI/アステラス他 | 3,386 | 0% | 3,388 |
31 | ツルバダ | エムトリシタビン/テノフォビル | 抗HIV薬(配合剤) | ギリアド・サイエンシズ/鳥居 | 3,316 | 10% | 3,004 |
32 | オルメテック/ベニカー | オルメサルタン | 降圧剤/ARB | 第一三共/興和 | 3,242 | -7% | 3,479 |
33 | セロクエル | フマル酸クエチアピン | 統合失調症薬 | アストラゼネカ/アステラス | 3,135 | -49% | 6,187 |
34 | セレブレックス/セレコックス | セレコキシブ | 抗炎症剤/Cox2 | ファイザー/アステラス | 3,093 | 5% | 2,949 |
35 | ブロプレス/アタカンド | カンデサルタン | 降圧剤/ARB | 武田薬品/AZ/アルミラル | 3,025 | -30% | 4,307 |
CSDユート・ブレーン事業部の調査による | 30億ドル以上 | 小計 | 178,192 | -3% | 186,386 |
※単位:百万ドル
2011年の大型品のうち、2012年にパテント切れによる前期比の減収額が20億ドルを超えたのは次の6製品で、 これらの減収額だけで213.8億ドルあり、2012年のメーカーランキングで世界10位のイーライ・リリーの医薬品売上高205.7億ドルを上回る市場がジェネリックで消えた。
製品名 | 2012年売上 | 減収額 |
---|---|---|
リピトール | 5,028 | -5,832 |
プラビックス | 5,277 | -4,452 |
セロクエル | 3,135 | -3,052 |
ジプレキサ | 1,734 | -2,962 |
レクサプロ | 1,380 | -2,593 |
アクトス | 1,521 | -2,486 |
小計 | 18,075 | -21,377 |
一方、売上が伸びて増収額の大きかった製品は、サノフィのインスリン製剤でランキング表で7位の「ランタス」がトップで14.6億ドル増、 2012年のトップ製品「ヒュミラ」が13.6億ドル増、メルク/小野薬品の糖尿病薬「ジャヌビア/グラクティブ」が11.1億ドル増で、 前期比で10億ドル以上増えた製品はこの3製品しかない。20億ドル以上の減収となった6製品だけで▲213.8億ドル、 10億ドル以上増収の3製品が+39.3億ドルという状況を見ても、2012年の世界のブランド医薬品市場は明らかに縮小した。
例えば、欧州2位の医薬品市場であるフランスではジェネリックの増加により、 2012年の医薬品市場(小売価格ベース)が▲1.5%の272億ユーロ、 うち薬局の調剤市場は▲2.8%の211億ユーロへ減少した(仏医薬品安全庁ANSMが7月に公表した公式数字)。 米国の薬局市場では、最大手のPBM(薬剤給付管理会社)であるエクスプレス・スクリプツが薬局に支払った調剤医薬品のうち、 2012年は79.5%がジェネリックで、第4四半期(10〜12月期)は80.6%と初めて80%を超えた。 米国の薬局で調剤される5品目のうちで4品目はジェネリックであり、 リピトールのような低分子医薬品と呼ばれるブランド品市場はかなり縮小している。 特に米国の大型ブランド品はパテント切れ半年後には90%以上減、 1年でほとんどゼロという製品も増えた(レクサプロ、シングレア等)。 米国ではパテントが切れると担当MRはレイオフされるため(売上がゼロでは雇用できない)、 すでに日本と中国のMR数を下回っている。世界的に医薬品市場は2012年から大転換期に入り、 世界的大手医薬品メーカーの従来型のビジネスモデルは根本的に変わっていかざるを得ない状況にある。
2012年の世界の大型医薬品売上高ランキングを見ると、バイオ医薬品がトップ10のうちで7品目を占めており、 トップ3はいずれも関節リウマチ(RA)のバイオ医薬品となった。世界最大の医薬品は、 17%増と売上を大きく伸ばしたアッヴィ(旧アボット・ラボラトリーズ)/エーザイの「ヒュミラ」が96.0億ドル、 2位はJ&J/メルク/田辺三菱の「レミケード」で1%増の90.7億ドルとなり、 3位はアムジェン/ファイザー/武田薬品の「エンブレル」で7%増の84.8億ドルとなった。 レミケードの伸びが鈍化したのは、欧州やカナダ、中南米、中東などの販売権を持っていたメルクが2011年7月以降、 欧州とロシア、トルコ以外の販売権をJ&Jに返還しており、J&Jがメルクへ供給する販売額が減少した影響が出た (注:旧シェリング・プラウが持っていた販売権で、メルクの買収によって一部を返還したため)。
2010年 | 比率 | 前期比 | 2011年 | 比率 | 前期比 | 2012年 | 比率 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
バイオ医薬品 | 70832 | 32% | 11% | 78301 | 34% | 8% | 84327 | 39% |
低分子医薬品 | 153307 | 68% | -1% | 151961 | 66% | -14% | 130394 | 61% |
大型50品目合計 | 224139 | 100% | 3% | 230262 | 100% | -7% | 214721 | 100% |
CSDユート・ブレーン事業部の調査による
ここでは、世界の上位50品目に占めるバイオ医薬品と低分子医薬品の売上推移を紹介する。
弊社の毎年の調査によれば、上位50製品のうち、2012年にはバイオ医薬品の売上比率が39.3%まで増える一方、 低分子医薬品は売上合計が▲14.2%と大幅に減少してその比率は60.7%まで減少した。世界的大手メーカーでは、 低分子医薬品の超大型品のパテントが切れると、それを他の製品でカバーするのは難しくなり、大型のバイオ医薬品を持つことが不可欠になっている。 (注:バイオ医薬品には、抗体薬やワクチン、血液凝固因子製剤、インスリン等を含む。)
ただし、30億ドルを超えるバイオ医薬品の数は、「アラネスプ/ネスプ」が30億ドルを割ったことから(38位へ下落)、1つ減少して12となっている。 バイオの売上は増えたが、上位に入るバイオ製品はあまり変わっていない。それでも10億〜20億ドルのバイオ医薬品は2011年の12から2012年は21製品へ大幅に増えた。 一方、ワクチンでは、表の22位にあるファイザーの小児肺炎球菌ワクチンの「プレベナー」(旧製品は7つの菌種に対応する7価、新製品は13価でその合計額)が世界最大だが、 ワクチンは公的医療費や自治体等で負担されるものに採用され、今までにない革新的なものなら一挙に売上が増える一方、 対象となる人口の多くが接種した後は売上が急減するものもあり、毎年売上を伸ばせるというものではない。 プレベナーは2011年まで2桁増だったが、2012年は▲1%とわずかながら減少した。
30億ドル以上の製品では、塩野義製薬創製のコレステロール低下剤(スタチン製剤)「クレストール」、大塚製薬の抗精神病薬「エビリファイ」、第一三共の降圧剤(ARB製剤)の「オルメテック」、武田薬品の同じくARB製剤のブロプレスの4製品だけとなった。2011年にはこれらに加えて武田薬品の2型糖尿病薬アクトスが25位に入っていたが、アクトスはパテントが切れて2012年は半減以下の15.21億ドルとなり、78位へ下落した。ブロプレス/アタカンドも欧米のパテント切れで▲30%と激減したが、30億ドルを維持した。しかし、日本のメーカーの創製品のほとんどは低分子医薬品で、パテントが切れる前でも同クラスの医薬品がジェネリックになれば減少する傾向が強まっている。2013年のランキングでは、オルメテックとブロプレスが30億ドルを下回り、30億ドル以上の日本の創製品は2つだけとなる見込み。
参考:EU諸国の中には、スウェーデンのようにARB製剤で最初のメルクのニューロタン/コザール(一般名ロサルタン)のパテントが切れた後、ARB製剤ならロサルタンのジェネリックが第一選択となり、他のARB製剤は医師が必要と認めた患者以外にブランド品を処方できない国もあり、同クラスの競合品のパテントが切れると売上が減少するブランド品も増えている。米国では例えばPPIと呼ばれるクラスの抗潰瘍剤(武田薬品のタケプロン等)の多くにはジェネリックがあり、他のブランド品はPBMや医療保険会社に多くのリベートを支払い、患者向けには値引きクーポンを提供しなければ調剤につながらないため、卸価格はメーカーが自由に設定できても、21位のアストラゼネカの同クラス「ネキシウム」の米国の実売価格は、卸価格の40%に満たない。
この世界の大型医薬品売上高ランキングの詳細は、月刊情報誌「ファルマ・フューチャー」の2013年6月号に掲載しています。 このランキングでは医薬品売上高が4億ドル以上の274製品に加え、参考データとして3億ドルまでの製品を合わせて325製品を掲載しています。 このほか、現在重要となっている抗がん剤のランキング、ARB製剤、スタチン製剤のランキングを掲載しています。情報誌「ファルマ・フューチャー」誌の詳細、 お申込みはこちらをご覧ください。
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世界の大型医薬品売上高ランキングやメーカーランキングは、厚労省が今年6月にまとめた「医薬品産業ビジョン2013」で2011年のランキングが使われたほか、業界誌や日本経済新聞、朝日新聞等の一般紙、週刊東洋経済等の経済誌などで利用されています。利用される場合は、上記宛にメール・電話等でご連絡いただき、掲載誌をお送り下さいますようお願い申し上げます。引用される場合、「出所:セジデム・ストラテジックデータの調査による」「出典:セジデム・ストラテジックデータ(株)ユート・ブレーン事業部」等と入れていただけますようお願い申し上げます。ホームページ等で取り上げられる場合は、上記EメールへURLをお送り下さい。