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チャイナ・インパクト

著  者:大前 研一
出 版 社:講談社
定  価:1,600円(税別)
ISBN:4−06−211152−7

中国は完全に目覚めてしまった。「眠れる獅子」と呼ばれた時代は、沿岸部にかぎっていえば、すでに過去のものとなっている。12億人を超える人口を背景にした安価で良質な労働力と、最新鋭設備を取り入れた産業基盤を背景に発展する中国の力強さは、もはや疑いようがない。この巨大な国家は、政治的にはまだ北京の中央集権国家なのだが、経済的にはすでに別の国に生まれ変わってしまった。朱鎔基が首相になって始めた改革により、経済面では地方に権限が委譲され、実質的には連邦制の統治機構になってしまった。その中でも特に発展し、経済的な自立を果たしているのが、「東北三省」、「北京・天津回廊」、「山東半島」、「長江デルタ」、「福建省」、「珠江デルタ」という、沿岸部の六つの地域である。これらの地域は、それぞれが独自性をもって発展しており、独立性が高い。面積や人口、経済力からみても、中国の一部というよりは、一つの国家として認識したほうがより正確に把握できる。著者はこれらを「メガリージョン」と呼んでいる。

本書は第1部、第2部、第3部、第4部に分かれ、その中で章が10章に区分されている。新しい目で中国をみており、非常に参考になる本だと思う。私(北原)も昨年までに5回中国を訪問しているが、最近の中国は目を見張るものがあり、大前氏の言うことを理解することが出来る。

中国の人口は、12億7000万人を超え、世界一である。アメリカ2億7800万人、日本1億2700万人と比べるとその多さは際立っている。さらにGDP規模を見ると、アメリカや日本、ヨーロッパ諸国に次いで、7位にランキングされている。8位のカナダに大きな差をつけてのランクインである。中国の輸出額は全世界の3.9%を占め、第7位である。しかも香港を加えると4位のフランスを抜き、3位の日本に肉薄する勢いである。輸入は中国と香港を足して見ると、日本を抜きアメリカ、ドイツに次ぐ3位になってしまう。また、中国はすでに、特定の分野においては世界一のシエアを確立している。例えばエアコンでは、全世界における生産台数のおよそ半数を占めるまでになっている。オートバイも48.9%を占める。他にも電子レンジで世界最大の生産能力と世界最低の生産コストを誇る格蘭仕(Galanz)、カラーテレビで世界最大の長虹(Changhong)など、日本人にとってはまだまだ知らざる巨大企業が次々と誕生しつつある。

著者が中国の発展を確信するのには、幾つかの根拠がある。キーワードは、「富の創出機構」、「連邦制」、「4つのC」だ。これらが互いに相乗効果を発揮しながら、中国の爆発的成長を支えているのである。「4つのC」とは、キャピタル(資本)、コーポレーション(企業)、コンシューマー(消費者)、コミュニケーション(情報)の4つが国境を越え流入してくることが不可欠だ。国家の中の一部の地域や、あるいは二ヵ国、三ヵ国にまたがる地域を一つの経済単位として認識するほうが、現実に即した見方になってきたのだ。主権国家の枠組みが時代遅れのものになり、実際にはもっと自然な「経済単位」が徐々に形成されてきたのである。さらにこの4つの要素を世界中から取り込むことが、その地域の経済発展に重要な役割を果すようになってきた。

中国には、海外で学んだ人間が多い。6000万人いる華僑が再び祖国・中国に回帰しだしていることもあるが、それ以上に、かつてはアメリカに移住するのが目的で留学していった学生が、現在ではかなりの割合で祖国に帰ってきていることが大きい。

中国沿岸部の通信事情はこの1、2年で飛躍的に向上した。中国網絡通信(チャイナ・ネットコム)や中国電信電話集団(チャイナ・テレコム)といった会社が非常に強くなり、サービスも向上してきた。電力も停電はほとんどない。それに携帯電話網は日本を凌駕している。加入者数が1億4500万人であり、日本の加入者数7400万人、アメリカ1億3100万人である。

中国というのは、国全体が保税区といえるような国だ。市長が申請すれば、すぐにその認可が取れてしまう。中国のメガリージョンは、内部の農村と都市が強い力で連結している。まず、労賃を上げたくないという考えがあるために、低賃金の労働者を刈り込んでくるヒンターランド(後背地)としての農村を抱えておく必要がある。中国では言語、文化、交通によってメガリージョンができあがり、一つの経済単位となっている。ここが特異な点だ。また、中国のメガリージョンは、およそ1億人規模の人口単位になる。6つのメガリージョンを北から順に挙げると、次のようになる。

  • 東北三省(大連、瀋陽を中心に広がる、遼寧省、吉林省、黒竜江省)
  • 北京・天津回廊(北京市中関村を中心に、その南東に位置する天津市とを結ぶ地域)
  • 山東半島(青島、煙台を中心とした地域)
  • 長江デルタ(上海を中心とした長江河口地域)
  • 福建省(アモイ、福州を中心とした地域)
  • 珠江デルタ(深?から広州にいたる珠江河口地域)

そうしてこれら6つのメガリージョンが、お互いに競争し、特徴を出しながら発展しているのが、現代の中国の姿なのだ。

現代中国の発展を支える6つのメガリージョンのうち、もっとも早くから自由市場経済を導入し発展を始めたのが、珠江デルタと長江デルタである。珠江デルタは広東省に位置し、香港の北側、経済特区として有名な深せんから、広州、東莞など珠江河口流域に広がる地域を指す。一方、長江デルタは、中央政府の直轄地である上海市から、蘇州、無錫、南京を擁する江蘇省、浙江省へとまたがる長江流域に広がる、中国最大の工業地帯のことである。

首都・北京から天津へと延びる一帯は、6つのメガリージョンの中でもとりわけハイテク分野、IT分野の産業が集積している地域だ。とくに北京の中関村は中国のシリコンバレーと呼ばれ、産学一体となった研究開発機関の一大集積地となっている。中関村にはエリートが集う教育機関がたくさんある。北京大学、清華大学、北京理工大学、北京師範大学、北京計算機学院という、ハイレベルな教育機関がおよそ70あり、有能な人材を大量に輩出している。

シンガポールの場合、国内の製造業界はどう転んでも中国とは勝負にならない。そこでシンガポールはアジアのスイスのような形で、中国と競争するのではなく、中国の発展に投資し、そのリターンで300万人の人口を食わせていこうという戦略に切り替えた。

中国では、この10年間、これだけ経済が過熱してもブルーカラーの人件費は30%しか上がらなかった。今でも90〜120ドル。日本円で14000円程度である。中国の農村には9億人の予備軍がいるのである。

今の中国、つまり事実上の中華連邦が、世界史へ登場したのは1998年以降、この数年のことだが、100年前にアメリカが世界史に台頭し始めたのと同じぐらいのインパクトがある。中国が今後、紆余曲折はあるにしても、世界の中で有力は国家、特にアメリカと主導権を二分するような国家になっていくのは間違いない。そして、私がもっとも危惧していることだが、日本は下手をすると中国の周辺国家に成り下がってしまう可能性があるのだ。周辺国家とは、つまり「10パーセント国家」という存在である。アメリカに対するカナダ、ドイツに対するデンマークやオーストリア、そういった関係の国家のことだ。

日本は100年、200年、300年とズルズル衰退をしていったポルトガル、スペインのパターンに陥り、反転のきっかけすらつかめなくなる可能性がある。これからの企業の優劣を分けるのは、「誰が中国を一番うまく使ったか」というポイントに大きくかかってくる。

以上が本書の概要である。本書では中国と日本を対比しながら、今後の日本のありかたについても述べているが、日本は世界の流れに逆流しているように思える。今の政治家や官僚は自分たちを守ることにきゅうきゅうとしており、このグローバル化の流れに目をそむけているとしか言いようがない。著者が指摘しているように。日本はやがて中国の周辺国家に成り下がる可能性が強いのではないか。ねぎ、しいたけ、畳おもてに対してセーフガードを引いたように小手先の対応ばかりをやり、根本的解決策を打ち出さないようでは、恥ずかしいかぎりである。中国のみならず世界全体の動きに敏感でなければ、このグローバル経済のなかで遅れをとるばかりである。日本低迷の原因もその辺にあるのではなかろうかと思える。


北原 秀猛

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