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ビッグ・アイデアを探せ!表紙写真

ビッグ・アイデアを探せ! 会社を救う経営戦略とキーパーソン

著  者:トーマス・H・ダベンポート、ローレンス・プルサック、H・ジェームズ・ウィルソン
訳  者:嶋田 水子
出 版 社:阪急コミュニケ−ションズ
定  価:2,000円(税別)
ISBNコード:4−484−03107−8

本書は、ビジネスには新しいアイデアが絶対的に必要だと考える人々、または、少なくともそう思いたい人々のために書かれている。利益さえ出せればいいというのではなく、組織がどうやって結果をだすかが大切だ、と考えるマネジャーや専門家にこそ、この本を読んでもらいたいと著者は言う。

わたしたちがここでいう「アイデア」とは、業績や経営を改善するためのアプローチのことを指している。ここで扱うのは、組織内部の動きを勢いづけるアイデア、例えば、総合品質管理、リエンジニアリング、ナレッジ・マネジメント、活動基準のコスト算定、従業員への権限委譲、バランス・スコアカードなどなど、事業をよりよい形にしていく可能性を秘めたさまざまな経営理念だ。

アメリカの経済が絶好調だった80年代、90年代には、新しいビジネス・アイデアが続々と誕生した。一方、日本は全般に新しいビジネス・アイデアの採用に熱心ではないが、製造業セクターが品質管理にかける情熱には特筆すべきものがある。日本が世界に先駆けて品質追求に熱意を燃やしていた時期には、日本経済は繁栄を謳歌していた。だが、世界がそれに追いついてからというもの、日本経済は低迷している。

ビジネスにおける経営アイデアというテーマは、少なくとも3つの理由から、これまでになく重要性を増していると思う。第1に、経営アイデアの問題点は大型化しつつあるようだ。第2は、アイデアの供給者とチャネルが増加したことに加え、80年代以降、アイデアのサイクルが加速して短くなっている。リエンジニアリングの人気は5年で終わった。電子商取引が脚光を浴びていたのはわずか3年だった。第3の理由は、会社の製品やサービスを作るうえで、革新的なビジネス・アイデアが重要性を増しているためだ。

アイデア・プラクティショナーは、新しいアイデアを企業に導入して実行するという全体的なプロセスにおいて、もっとも重要な役割を果たしている。わたしたちはアイデア・プラクショナーを、ビジネス改善のアイデアを駆使して組織に変化をもたらす人々、と定義づける。アイデア・プラクショナーがまず最初にとるステップは、そのアイデアが追いかける値打ちのあるものかどうか、見極めることである。

ビジネス・アイデアの理想的な形は、新しいアプローチを最初は会社のなかで実行し、その後に製品またはサービスとして外に売り出すというものだ。アイデア・プラクティショナーは以下のような役割を含んでいる。
・全社的な顧客戦略とブランディング
・戦略立案
・カルチャー、リーダーシップ、業務プロセスなどの組織能力の開発
・ナレッジ、ラーニングを含む人的管理

どんなアイデアでも、効率性改善、実行性の向上、製品またはプロセスのイノベーションというビジネスの3大目標のうち、1つないし2つは必ず共有しているはずだ。この3つの目標を誰にでもわかる言葉で言い直すと、適切な方法で実行する、適切なことを実行する、何か新しいことをする、という具合になるだろうか。景況が厳しい時期には、会社はコストを削減して、業務を効率よく実行するためのアイデアを探すことが多い。事業をもっと拡張したいと思う経営者は、革新的な新製品、サービスを探し出す方法を求める。

効率性 活動コスト計算、活動価値分析、ベンチマーキング、集権化、EVA、費用対効果分析、ダウンサイジング、スケールメリット、学習曲線
実効性 アテンション・マネジメント、人工知能、バランス・スコアカード、ブランド管理、ビジネスモデル、変革経営、コア・コンピタンス、コア能力、コーポレート・カルチャー、顧客関係管理、分権化、デシジョン・ツリー
イノベーション 適応型企業、ブレインストーミング、カオス 複雑性、創造的破壊、コンカレント・エンジニアリング、多角化、エンパワーメント、ダブルループ・ラーニング、起業家精神

目標は効率性、実効性、イノベーションの3つに限られているわけではなく、リーダーシップや組織としての目標にもっと心理的な性格のものもあるが、ほとんどの経営理念が追い求める目標の根底には、この3つがあると言っても過言ではない。上の表は、アイデアの一部を選び、目標別にそれを分類した。

ビジネス・アイデアは本や雑誌、新聞からでも手に入れることができる。だが、アイデアを作り出すのはこうしたメディアではなく、人間なのである。実業界など新しい運動を起こすためには、そのアイデアを広めてくれるグル(Guru=指導者)がどうしても必要だ。新しいアプローチのパワーと可能性を全国津々浦々まで伝えてくれる人物である。グルはアイデアをどこからともなく手に入れ、それに骨組みを与え肉付けする。ビジネス界の新しい運動は、グルなしでは本格的なものへと発展することはできない。例えば、ジェームズ・コリンズが「ビジョナリー・カンパニー2−飛躍の法則−」で説いているアイデアは、理論の緻密さ、機能性、スタイルをバランスよく兼ね備えていると考える。

  • 機能性:機能性の基準は、規範的で、行動志向で、実際的で、測定に重点を置いたもの。
  • スタイル:スタイルの基準は書き方に関するもので、おもしろくストーリがあるか、セ ンスがいいか、感動的かが焦点となる。
  • 理論の緻密さ:この基準は、情報を新たにまとめあげたものや、既存のナレッジの集積を総合的に分析したものに適用される。理論の緻密さを基準に評価されるアイデアは、調査・研究を中心としたもので、経験主義的かつデータ重視のものだ。

医薬品会社のブリストル・マイヤーズ・スクイブでは、研究開発が主な重点分野だが、マーケティングも重視されている。情報プログラムを監督しているアイデア・プラクティショナーのキャロル・ベカーは、これまでずっとアイデアの導入やその売り込みプロセスの管理に極めて周到な姿勢を貫いてきた。現在は、アイデアを会社の他の重点分野まで広げる一方、経営資源や予算をあまり分散させないためにはどうすればいいか、という課題に挑戦している。「2年ほど前までは、わが社は研究開発一辺倒の会社だった。例えば、知的財産の保護とか、活発な特許活動がうちの命綱だった。だから、“いまの”わたしの関心は、これまで研究開発につぎ込んできた努力を、資源を浪費することなく、全体の効率性を削ぐことなく、いかにマーケティングに活用していくかに向かっている」。ベカーの努力が実って、指導部は研究開発部門で情報管理が力を発揮していることを認め、それを会社全体に広げたいと言い始めた。こういうときは、少し後戻りしてみるのも一法かもしれない。ベカーは昔ながらの売り込みキャンペーンを試みた。会社で進展中のテーマの流れに沿って、情報管理を導入するのに一役買ったのだ。指導部と連携し、彼女の表現を借りると「擁護者をみつけた」。社内外で人間関係、信頼、ネットワークを構築した。まずは小さくスタートし、実際の業務上の問題に対応した当初のプログラムを、身近な言葉で表現した(彼女はこの構想を、すでに確立されている「情報化科学」の用語で説明した)。そしてプロジェクトを進めながら期待感を育んでいった。一方、彼女はまた、周到に「価値を実証」していった。大型薬の開発が何より重要な医薬品業界においては、情報管理のスピードがしばしばカギを握る。彼女は、あるプログラムを実施したときのことをこう説明する。「あるとき、複合的な物流グループを担当していたのだが、ロボットを使って自動化した複合記録・検索システムの事業価値は、スクリーニングの処理能力を高め、新薬の候補を迅速に見つけ出すところにあった。より速く、より効率的な“研究開発を可能にすることによって価値を実証したのだ”」。

アイデアの価値を示し、広めることは、基本的に社会的な活動だ。これは信頼、熱意、所有意識を育むことを意味する。アイデア・プラクティショナーは、いかにすれば善意と合理的な利己心に訴えることができるかを、理解する必要がある。

ビジネス・アイデア、経営アイデアの実践を成功させるためには、アイデア・プラクティショナー以外のリーダーが必要なことに疑いの余地はない。リーダーが、アイデアを促進するような戦略を策定し、カルチャーを育まなければ、会社はアイデアを効果的に活用することができない。

GEでは、新しいビジネス・アイデアが貧欲に求められ、それが会社になくてはならないものだと考えられていた。ウェルチ指揮下の80年代、90年代のGEは、非の打ち所のないアイデア(そして利益)マシンだった。ウェルチがリーダーになった後も、GEはもちろん、コングリマリットではあったが、彼はその言葉を禁句にしたし、関連事業の統合に力を入れていた。彼が好んで口にしていたコンセプトには、ワークアウト、バウンダリレス、スピード、シンプルさ、自信、シックスシグマ、デジタル化などがある。

ウェルチとGEはアイデアを口先で語っただけではなく、全社を挙げてそれを推進した。このアプローチはいまも続いている。あるアイデアがいったん会社目標に据えられると、それがオペレーティング・システムと呼ばれる会社の運営の仕組みに深く根を下ろす。GEはまた、アイデアに腰を据えて取り組み、その場限りで終わったりはしない。グローバリゼーションには12年以上取り組んでいるし、シックスシグマは5年、サービス重視は6年、eビジネスは3年間、重点課題に据えられている。

以上が本書の概要である。最後のGEの事例を載せているが、本書の中にはいろいろな企業の事例が盛りだくさんにわかりやすく記載されている。冒頭にもあるが、「アイデア」というのは、業績や経営を改善するためのアプローチのことを指している。適切にアイデアが実施されれば、新しいビジネス・アイデアはさまざまな形で組織を助けてくれる。他の概念と同じように、新しいアイデアがあると、個人も組織も奮い立ち、やる気とエネルギーをかきたてられる。特に現在はいままでのビジネスモデルが役に立たなくなっている。日本企業のアスクルの例に見るように、従来オフィス用品の購入に際して不便を感じていた事業所に対し、その要望に沿った品揃えや低価格の商品を当日または翌日配送するシクミを構築して現在売上高1000億円を獲得する企業に作り変えた。本書の事例に出てくるDELLなど見ればよくわかることである。企業としてのこれからの考え方や、そのプロセスなどが非常に参考になる本書である。


北原 秀猛

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