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プロになるならこれをやれ!表紙写真

中谷巌の「プロになるならこれをやれ!」

著  者:中谷 巌
出 版 社:日本経済新聞社
定  価:1,200円
ISBNコード:4−532−31095−4

本書はハウツー的方法論ではなく、第1級のプロとして通用するために、「人間はどう生きるべきか」、「人生の目的は何か」、「社会に対してどういういう気持ちが必要か」、といった本質論的な内容です。世界の一流のプロとして活躍している人に共通しているポイントは、人生観に関わるものばかりです。

  1. 自分の仕事に命をかけている。自分の時間やお金をプロとしての技量を磨くためなら決して出し惜しみしない。
  2. 少しでも高いところに到達したいと常に高い目標を自らに課している。
  3. プロは必ず結果を出すということ。
  4. 「自分はまわりの人たちに支えられてここまで来ることができた」という感謝の気持ちを強く持っており、その人たちに報いることこそ自分の務めだと自覚している。
  5. 「地道な努力は必ず報われる」という信念を持っている。

一人ひとりがそれぞれの分野でプロになることを目指し、技量を磨くようになれば、自分自身が幸せになるだけでなく、そのことが社会への貢献になるのです。

本書のベースになったのは、「日経キャリアマガジン」に連載された“プロになるならこれをやれ!”という連載インタビュー記事を大幅に加筆修正したものです。1章:自分の価値観にこだわれ、2章:転機を逃がすな、3章:退路を断て、4章:“直感”を“概念化”する能力を磨け、5章:表現力を鍛えよ、6章:英語を身に付ける、7章:“鉱脈クラブ”に入会しよう、8章:“国家”に思いを馳せよ――以上8章の構成になっています。

「あいつは、ここまではいうことを聞くが、その先は一歩も妥協しないやつだ」、と周囲の人に認識させておけば、自分の価値観をまげずに済むようになります。言い換えれば、「エニバディ(anybody)」ではなく、「サムバディ(somebody)」であれ、ということです。「エニバディ」とは、別にその人でなくても、いつでも代わりがいるという存在です。それに対して、その人でなければ得られないものを持っているのが「サムバディ」です。「サムバディ」を形成するのは、その人の価値観であり、信念であり、行動パターンです。

大リーグで活躍するイチロー選手は、なぜ大きな成功を勝ち取ることができたのでしょうか。もちろん人並みはずれた技術はひとつの理由だと思います。しかし、それよりも彼が確固たる人生哲学を持っていることが重要なポイントなのではないでしょうか。彼は首位打者やMVPに輝いても、あるいはオールスターのファン投票でトップに選ばれても、傲慢さを感じさせるような態度はおくびにも出しません。そしてグラウンドのプレーはもちろん、話しぶりや歩き方ひとつを見ても、深い何かを感じさせてくれます。「自分の価値観」を確立し、それにこだわること。プロになるなら、まず自分の価値観をしっかりと構築せよ」です。

当たり前のことですが、どんな人間も生は1回しか与えられない。そのかけがえのない1度きりの人生は、成功と呼べるものだったのかどうか。もし、死を迎える時に、自分の一生を振り返ってみて「もう一度同じ人生を送りたい」と言えるならば、その人生は成功だったと言えるのではないでしょうか。

ビジョンに向かって進んでいくと、さまざまな障害に遭遇します。しかし、諦めることなく、本当に悩み続けている状態を維持していると、必ずチャンスが巡ってきます。いつもギリギリのところで考えている人は、感性が研ぎすまされていますから、幸福の青い鳥が飛んでくる時に、ぱっとつかまえる力を発揮できるのです。逆に、そうした緊迫感を持っていない人は、チャンスが目の前を通っても、まったく気がつきません。優秀な経営者は、決まって勘が鋭い。それは、常に事業について真剣に悩み、生きるか死ぬかの緊迫した時間の過ごし方をしているからです。

どうすれば自分の人生をかけて打ち込める「好きなこと」を見つけることができるのでしょうか。残念ながら、この問いに対する標準的な答えはありません。しかし、有効な方法はあります。それは、「自分が楽しさを感じ、かつ人が喜んでくれることは何か」を考えることです。私が自信をもって言えることは、「多くの人は、自分の力を過小評価している」ということです。人間に与えられた力は、それほど大差あるものではありません。肝心なのは、本気になれるかどうかです。

こんな有名な言葉があります。

「もし私が自分自身のために生きているのではないとしたら、自分はいったい誰なのかわからない。しかし逆に、もし私が自分自身のためだけに生きているとしたら、そんな人間は“人”と呼ぶに値しない」

優れたリーダーは例外なく、何が正しいのか、何をしなければならないのかについて、本質を見極める「直感力」を持っているものです。単なるデータの積み重ねや、論理的分析を超えた「ひらめき」こそ、優れたリーダーに共通した特徴です。しかし、より重要な点は、仮にリーダーが優れた直感力を持っていたとしても、それだけでは成功はおぼつかないということです。実は、より重要なのは、「直感」を「概念化」する能力なのです。「直感」というのは「暗黙知」の領域に属します。すなわち、「直感」とは、データや論理の積み重ねだけでは得られないひらめきであり、独自の境地ですから、得られた直感は当の本人には確信できることであっても、他人には容易に伝わりません。大きな組織を動かすのが使命であるリーダーにとっては、「直感」を誰にもわかる形に変換(概念化)しないと、リーダーの直感は部下に適切に伝わらないからです。

今、ビジネスの世界では、プレゼンテーション能力が重要視されています。日本では最近まで「プレゼンテーション能力」が重要視されることはあまりありませんでした。プレゼンテーション能力を磨く上で最も大切なのは、「スキル」ではないということです。言葉のなかに、相手の心に訴えかけてくる「何か」がなければ、誰もその人の話に興味を持ちません。一番大事なのはどれだけ自分の主張に深みがあり、かつ、心が込められているかということ。魂からでる叫びやメッセージを持っているかどうかです。直接、言葉として表現されなくても、その人が強く持っている志、人生哲学、価値観はオーラとなって、自然と聞く人の心に伝わるものなのです。その意味で、「プレゼンテーション能力」の向上には、全人格的な鍛錬・訓練が必要とも言えるでしょう。

いかにして、自らのより所となる専門分野を確立できるのでしょうか。私はよく「コアスキルに1万時間を注ぎ込め」と言っています。あちこちに手をつけるのではなく、1つのことに1万時間、死に物狂いで没頭すれば、その分野で必ずひとかどの人物になることができる。この1万時間は大学院で博士号を取得する時間に相当します。土日は休息するとして、1日8時間勉強すると1年で約2000時間、5年で1万時間になる。つまり、普通の能力を持った人が1つのことに1万時間、禁欲的に自己投資すれば、スペシャリストになれるという考えです。

ある分野に1万時間を費やし、「鉱脈クラブ」に入った人は、言葉にならない深いレベルでの知識を獲得しています。こうした知識は「暗黙知」と呼ばれます。多くに人はIT革命があまりにも大きな流れであるため、「自分には関係ないことだ」と思っているようです。しかし、「鉱脈クラブ」に入ることを目指すならば、IT革命によって加速するビジネス潮流の変化を十分に理解した上で、「自分が果たすべき役割」を常に考えておく必要があります。

「心のない宮本武蔵」は何の変哲もない田舎侍にすぎない。武蔵の強さは、彼の人間としての大きさそのものから生まれているのであり、決して剣を使うための技術だけから生じているのではありません。つまり、生き方について深く考え、自問自答し、その上で人生の方向性が定まって人は、何をすればよいのかが自然に見えてくる。本物のプロになるためには、自分の人生哲学を明確に持ち、「人間力」を磨くことが大前提となるのです。  人間は「自由人」と「奴隷」の2種類に分けられると思います。前者は「運命を自分で律することのできる人」、後者は「他人に運命を委ねている人」です。

現在、国と地方を合わせた借金は約700兆円にものぼります。もし、このままの状況が続けば、日本の財政赤字は数年後に1000兆円、さらに数年後には1500兆円に及ぶことは明らか。まさに日本経済玉砕のシナリオです。このような経済の実態は、改めて解説するまでもなく、すでに日本人の大部分が認識している事実です。タイタニック号は今まさに氷山に衝突しようとしているのです。では、なぜ有効な打開策が打ち出されないのでしょうか。私はその最大の理由を、日本人が自己確立を怠ってきたために、民主主義的な意思決定の仕組みを自分のものにすることができなかったからだと考えています。民主主義的な意思決定の仕組みとは、極論すれば、「投票によって選んだ人には期限付きで独裁的な権限を与える」ということです。しかし日本ではリーダーに全権を与えようとしません。小泉首相が掲げた最も明確な公約の1つは郵政事業の民営化でしたが、いざ実行に移そうとすると、郵政族のドンから「小泉は独裁者だ。けしからん」と反発にあう。また税制に手を付けようとしても、その決定は財務省と自民税調の長老議員の専売特許になってしまっています。つまり、日本の政治システムのなかでは、総理大臣は分散した権力の調整役に過ぎず、自らの理念に則した政策を打ち出すことはできないのです。

最近はITの進歩によって、経営スピードが一気に速まりました。また、FT(ファイナンシャル・テクノロジー)の発達は、デリバティブやオプションなどレバレッジ(てこ)効果の高いビジネスを生み出しています。さらに、中小企業でも中国などアジア諸国を意識する必要に迫られる状況が象徴するように、ビジネスは猛烈な勢いでグローバルな広がりを見せている。これら「スピード」「レバレッジ」「グローバル化」の3点セットにより、20世紀型の資本主義は、史上例を見ない激しい変化を遂げているのです。

19世紀半ばに活躍したフランスの政治思想学者、アレクシ・ド・トクビルは、「民主主義が成立する根本条件は、人々の公共的精神である」と言っています。これはマーケット・エコノミーも同様で、一般の人が商品・サービス・株式を購入するという形で企業に投資するシステムは、まさに「経済の民主主義」と言えます。それを支えるのも、やはり公共的精神です。つまり、マーケット・エコノミーが急激に拡大している現代ほど、ビジネスパーソンに倫理が求められている時代はないのです。

本物のプロになるために一番重要なのは「気づき」です。「気づき」が現実のものとなり、本気でプロになってみようと考えた瞬間、体中にエネルギーが湧いてくるはずです。人間というのは、他の生物と違って、唯一、「こうなりたい」と思えばそれに近づける生物です。しかし、気づいた者だけがこの人間の特権を享受できるのです。

以上が本章の概要です。著者が最初に断っているように、ハウツーものではなく本質論でプロになるための心構えを説いている。最初に目標ありきです。「人生の目的は何なのか」、「自分はどんな人生を送るべきか」。すなわち、自分の人生観をしっかり持たなければプロにはなれないでしょう。そして自分の仕事を通して、自分のやることが社会に役に立っていなければならない。「“鉱脈クラブ”に入会しよう」、という文章が出てくるが、そのためには、まず、1万時間をかけてスペシャリストを目指さなければならない。ある時期あることに熱中することです。将棋の羽生善治氏は「10年とか20年とか30年とか同じ姿勢で同じ情熱を傾き続けられることが才能だとみています」、と述べている。プロだから言える言葉です。


北原 秀猛

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