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ブランドと百円ショップ表紙写真

ブランドと百円ショップ 知恵働きの時代

著  者:堺屋 太一
出 版 社:朝日新聞社
価  格:1,680円(税込)
ISBNコード:4−02−257996−X

本書は『週刊朝日』2001年11月30日号〜2004年11月5日号より抜粋し、まとめたものである。構成は、第1章:「平成日本、一挙総括」、第2章:「何もしなかった平成日本の政治」、第3章:「世界の知価革命は進行中」、第4章:「激動するニッポン」、第5章:「ブランドと百円ショップ・知価革命社会へ」となっている。

インフレは過去を軽くするが、デフレは過去を重くする。供給不足と物価上昇のインフレなら、過去に積んだ貯金の値打ちは下がり、借金の重圧は軽くなる。新規投資が進み、新設備や新製品も広まる。世の中全体が未来志向になる。逆に昨今のような供給過剰と物価下落が続くデフレになると、過去の貯蓄の値打ちが上がり、借金の重みが日々拡大する。企業は過剰施設と過大な債務に苦しみ設備投資の余力を失うから、古い施設や昔ながらの規格品がいつまでも続く。失業率が上がり求人数が減ると、誰もが現在の職場にしがみつくから組織や制度も変わらない。「改革」を叫びながらも実行は進まず、世の中は守旧化する。デフレ下での改革は、享保の改革や寛政の改革のような官僚統制の強化に陥りやすい。

バブル景気と冷戦構造が消滅してから10余年、日本で増えたのはコンビニエンスストアと携帯電話と時間決めの駐車場やマッサージという。後者の2つは地価下落やコンピューター事務の増加の結果だろうが、前者2つは便利さの追求、いわば手間と計画性を省いて生きる道具だ。最近の若者の特性は、「質」を求めないことだ。音質には至って無神経だ。味の質にも拘らない。冷凍ご飯を解凍した弁当でも良く売れる。

「エビと名画とタレントは豊かなところに集まる」という。これが本当なら、日本は急速に「豊かな国」ではなくなっているようだ。エビの輸入量は金額では1991年の4130億円を、数量では1994年の32万トンをピークに減りだした。2001年には、金額で3割近くもピーク時を下回った。エビは不況の日本を避けだしているのだ。名画の流動性は意外に高く、富裕な国に集中する。1992年の絵画の輸入金額が340億円、輸出額は15億円。圧倒的な輸入超過、つまり名画は日本に集まっていたのである。ところが、2001年では、輸入が151億円と激減したのに、輸出は76億円に跳ね上がった。音楽やスポーツの才能はもとより、学者も技術者も美人女優や作家物書きの類も、世に名の出るような才能は、富み栄えた国の繁華な都会に集まる。日本でも、経済成長とともに外国人タレントの来訪が増え、音楽界やスポーツ界を賑わした。だが、昨今はそうでもない。音楽家やスポーツ選手の来日数は減り気味で、顔ぶれは固定化している。スポンサーも興行主も余裕と冒険心を失い、前例のある安全な催しを選ぶようになっているのだ。

「日本の何かが変だ」――今、そう思っている人が多いのではないだろうか。例えば、2003年の秋、お米が刈り取られたり、果物がもぎ取られたりする事件が報道された。窃盗としては金額が少ないから、その後の捜査状況はあまり報道されていないが、軽い冗談で済ませることはできない。日本社会の重大な変化だ。この国では、財政や年金の崩壊よりもずっと早く貧困層が広まり、倫理観の退廃が始まったことになる。「日本が変だ」と思うもう一つの現象は、家計における貯蓄の減少だ。つい数年前まで、日本の貯蓄率は15、6%。最近では4%程度である。

明治維新から50年間、日本外交のコンセプトは、「イギリス陣営に属して産業社会の近代化を目指す」というものだった。この方針は当った。戦後の日本は、「日米同盟を基軸として西側陣営に属して、経済大国軍事小国を目指す」、という外交コンセプトを立ててきた。これは大成功し、半世紀近くに渡って、日本は平和と繁栄を享受できた。ところが、1990年に冷戦が終わったことで、この外交コンセプトも通用しなくなった。西側陣営がなくなったからだ。以来15年間、日本にはこれに代わる外交コンセプトはできていない。

この数年間に小泉内閣がやったことは、金融機関に対する個別指導や監督強化、金融リスクの国有化を目指す再生プログラムなど、官僚統制強化ばかりである。外交面でも官僚の失政が目立つ。北朝鮮との関係は、小泉総理の志に反して一段と悪化した。対イラク問題では、フランスの不戦の意志の強さも、アメリカの開戦決意をも読み間違えた。このため、国民への説明も諸外国への説得もできない状況に陥ってしまった。政府首脳が行った恒例の外国歴訪も、さしたる成果もなく終わった。そもそも世界秩序や国連のあり方に何のビジョンも持たずに「まあまあよろしく」というだけでは、諸外国が乗るはずがない。国際社会は顔さえ合わせれば何かが得られる対面情報社会ではないのだ。

戦後の日本には二つの概念があった。その第一は、官僚主導の体制で規格大量生産型の近代工業社会を確立する、という経済コンセプトであり、第二は日米同盟を基軸として西側陣営に属し、経済大国・軍事小国を目指す、という外交コンセプトである。幸いこの二つの基本概念は、時代の流れに沿ったものだった。「官僚主導体制で規格大量生産型の近代工業社会を確立する」、という経済コンセプトが破綻して10数年、今なおこれに代わるものが樹立されていない。始まりかけた金融政策も2000年で止まってしまった。「西側陣営に属して経済大国・軍事小国を目指す」、という外交コンセプトが破綻したあと、外務官僚が持ち出した外交目標は、北方領土の返還と国際連合の安全保障理事会の常任理事国になることだった。

東西冷戦構造が消滅し、貿易と資本移動の自由化が実効を挙げだした90年代、アジア諸国や中国には、外国の資金で外国の技術と設備を導入、外国向けの輸出品を生産する「水際製造業」が急増した。先進工業国との自由貿易こそ途上国の工業化の鍵であることがわかったのだ。これに対して先進工業国の側には、途上国からの安価な製品や部品の流入が自国の工業を破滅させ、失業と退廃を招くという警戒感が強かった。ところが90年代も末期になると、情報産業やブランドビジネスの拡大で、製造工程よりも開発や宣伝情報分野の方がずっと取り分の多いことがわかった。決定的なことは、研究開発や情報宣伝はもちろん、観光イベントまで、労働集約的な工程ほど賃金の高い先進国に集中する、という事実である。これら知創造的な工程には、膨大な知的後背地が必要だからだ。

大阪の不況は深刻だ。景気の悪さに経済的地位の沈下が重なっている。地価の下落も依然激しい。オフィスビルの空室率は11%強、新築高層ビルの急増で空室率の上昇が心配された東京を上回っている。大企業の本社機能が東京に移転するからだ。社会面での劣化も著しい。ひったくりの発生件数やホームレスの人数は日本一多い。生活保護世帯も多く、2001年度実績で人口千人当り17.3人に達している。全国平均9.0人を大きく上回り、北海道に次いで全国2位である。全国で人口の流出がいちばん多いのも大阪府である。

人類は、足りないものは「節約」することを正義と考え、あり余るものは多消費するのをカッコよいと思う本能を持つ。大きく膨らましたスカートで汽車に乗るのが19世紀(近代前半)の貴婦人、ショートスカートで大型車を運転するのが20世紀(近代後半)のレディー、Tシャツスタイルでノートパソコンを抱えて携帯で話しながら都心を歩くのが21世紀(知価社会)のカッコよさだ。農産物から石油へ、そして情報へと多消費の対象が変わった。

2004年夏、国際原油価格が1バレル50ドルを超えた。何が原因か、どんな影響が出るか、どのような対策を採るべきか、ほとんど議論がない。70年頃から、既に3つの危険信号が点滅していた。国際石油価格のジリ高、年々の石油生産量に対する可採埋蔵量の比率(いわゆる石油の寿命)は急激に低下、そして中東地域への依存度の集中である。20世紀の初頭から約80年間、近代工業を持つ地域の人口は全世界人口の8分の1だった。それがこの20年間のアジア諸国や中国沿海部の工業化で5分の1に拡大した。この人達が、先進工業国の人々が通過したのと同じ物財志向を経験するとなれば、大量な資源が費やされて、膨大な数量の工業製品が作り出されるだろう。当分の間、世界は「原料高、製品安」になるに違いない。

80年代には中国は石油の輸出国だったが、期待したほどに資源は多くなく、工業化で需要の増えた今では国内生産では需要の4割ほどしか賄えない。今後もいくつかの開発プロジェクトはあるものの、この傾向は変わらないだろう。中国は石油を始め金属材料や食料の大輸入国であり、資源や食料の国際価格を引き上げる要因ともなりやすい。中国の石油輸入量は年間約15億バレル、20ドルも値上がりすれば年間300億ドルほどの外貨流出になる。第二の問題は水だ。北の黄河流域は水不足、特に近年は土地の砂漠化や灌漑利用の増加で水涸れが著しい。水不足は農業の不振を招く。もう一つは、急速な人口の高齢化だ。一人っ子政策のため30歳以下の人口は劇的に少ない。

東京の銀座や表参道、大阪の御堂筋周辺には、大型のブランドショップが増えている。日本全国で地価下落が続いているが、大型ブランドショップが出店するところだけは値上がりし出した。不況だ、消費不振だ、と言われる中でも、高価なブランド品は売れているのだ。その一方で、安売り物価の下落は続いている。エルメスやグッチなら2万円もするネクタイが、百円ショップでは百円で売られている。価格差なんと200倍、それでどちらも伸びている。日本でも知価革命が本格化しているのだ。規格品ブランドの効果は、一定の品質と機能を保証することで、買い手に安心感を与えることだ。無名の商品では品質と機能に不安がある。それなら少々高くとも、知名の商品にしておこうということになる。この「少々高くとも」がブランド価値だ。規格大量生産ゆえに築き上げ、維持される工業社会的ブランドだ。今やイメージブランドは一般化し、伝統技術の商品よりもはるかに高い。大量生産利益ではなく、イメージによる主観的満足感を売る点、知価社会的なブランドである。

日本では、2006年頃から人口減少になる。20歳から60歳までの「働き盛り人口」は、これから10年間に630万人、約8.8%も減少すると見られている。この国が猛烈なヒト不足になることは確かである。今日の不況は、戦後の消費をリードしてきた若者の激減に由来するところが大きい。

交通通信が便利になれば、地方の経済も文化も栄える。日本でもそう言われてきた。外国は確かにそのようになった。戦後、欧米諸国ではみな首都圏の経済文化における比重が低下した。特に知価革命の進んだ80年以降はそれが著しい。ところが日本だけは、新幹線や高速道路網ができても、電話やファクスが便利になっても、必ず東京一極集中が進んだ。特に最近は、インターネットの普及が東京集中の梃子になっている。IT関係の若い事業家や技術者がどっと東京に移住してきた。作家や評論家の類は、東京圏の中でも港区を中心とした半径10キロに集中している。「IT時代には鎌倉や湘南どころか、世田谷でも遠すぎる」というのだ。その根底は対面情報の慣習だ。「とにかく会って、面突き合わせて語らなければ本当のことがわからない」という社会だから、この国の真の実力者、官僚機構にすり寄らざるを得ない。

大相撲で昨今目立つのは、外国人力士の躍進である。幕内力士41人のうち8人が外国人だ。国籍別に見ると、横綱朝青龍を始めとしたモンゴル人が5人とダントツ多いがロシア、グルジア、ブルガリアが各1人。こうした傾向を、「日本人が弱くなった」と嘆く見方もあるが、「外国人が強くなった」と喜びたい。アメリカの野球のメジャーリーグでも、ヨーロッパのサッカーでも、魅力のあるところはみな多国籍多人種化している。

日本が未来においても魅力的な国であるためには、外国の才能を受け入れるべきだ。大相撲に外国人力士が増えれば日本の伝統が損なわれるというのも狭量だ。外国人力士も魅力を感じて従い守るような伝統を創造しよう。

以上が本書の概要である。本書の中にあるが、バブル景気の崩壊と経済のグローバル化で過去のやり方の踏襲では勝ち残れない。すなわち、調整型のマネジメントの時代から、

  1. よく観ること。基礎知識を積み、世の流れを知る観察である。
  2. 練ること。事業企画から製品開発まで、常の構想を練ることだ。
  3. そして決めることだ。
観る、練る、決める」の3つほど苦しいことはない。戦国時代の武将は、天下の形成を知り、術を究めて策を練り、いよいよの場合の決断のために日々精神を鍛えた、とされている。

世界は激動している。日本はこの変化に着いて行っていない。このままでは、遠からず世界から取り残されてしまう。先に著者が示した「観る、練る、決める」の基本に返って、もう一度、日本人全員が現状を踏まえて、行動を起こさなければならない。

『バカの壁』で大ヒットを飛ばした養老孟子氏は、われわれ社会人として道を歩んでいるが、変化が激しくなればなるほど、われわれの歩む道に穴が開く。その穴を埋めることが大切であり、マーケッティングの言葉で言えば、穴こそ「ニーズ」であり、埋めることが世のため、人のためになる。道が穴ぼこだらけになれば、人は通れなくなってしまう。日本人として、今こそやらなければならないことは何かをしっかりと見極めて、日本の明日が、世界の国から尊敬を受けられるような国となるために、躊躇してはならない。


北原 秀猛

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