セジデム・ストラテジックデータ株式会社ユート・ブレーン事業部(本社大阪市)では、毎年恒例となっている2011年度の世界の大型医薬品売上高ランキングをまとめた。これはメーカー各社の大型医薬品売上げを単純に並び替えてランキングしたものではなく、同じオリジナル成分を販売している各社のブランド品売上げや創製メーカーのロイヤリティを加えた合計による世界の大型医薬品売上高ランキングであり、創製された1つの成分が世界でどれだけの売上高となったのかを見たもの(ブランド品のみ)。為替レートは2011年、2010年とも年末の米ドル換算値を使用している。2011年は1ユーロ=1.2949ドル、100円=1.2920ドル(1ドル=77.40円)で換算しており、2010年末のドル換算値に比べてユーロは▲2.3%、円は5.4%上昇しており、日本のメーカーの売上げが大きいものはドル換算値が増えている。2011年末の英ポンドは前年比で▲0.1%、スイスフランは0.1%上昇であまり変わっていないが、スイスフランはユーロやドルに対して2010年から強いため、スイスのロシュの医薬品売上げはドル換算値が減少したものが多い。
(表の注:日本のメーカーは多くが2012年3月期決算の数字で、欧米メーカーの多くは2011年12月期決算の数字である。2010年の医薬品売上げを変更したメーカーもあり、その場合は2010年の数字を変更しているため、昨年のランキング掲載の数字と合わないものもある。1社だけの売上げの場合、前期比の%は決算通貨での伸びや為替固定ベースでの実伸び率を使っているため、ドル換算値の伸びではない。製品名のアミ掛けはバイオ医薬品、一般名のアミ掛けは日本のメーカーの創製品であることを示す。)
世界で40億ドルを超えた超大型品は、2009年に20、2010年に21だったが、2011年には4つ増えて25となった。今回新たに加わったのは、2型糖尿病薬でDPP-4阻害剤の「ジャヌビア」、SNRIの抗うつ剤の「サインバルタ」、ファイザーの小児肺炎球菌ワクチンの「プレベナー」(7価及び13価の合計、日本の製品は7価)、多発性硬化症の注射剤「コパキソン」、COPD治療薬の「スピリーバ」の5製品で、エポエチン製剤の「エポジェン/エスポー」は欧米での使用基準の引き下げと持続型製剤の「ネスプ/アラネスプ」等への切り替え、バイオシミラーの増加により、2010年の18位から2011年には29位に下落して37.31億ドルとなり、40億ドルを割った。1位「リピトール」、2位「プラビックス」、3位「レミケード」は2010年と同じで、「ヒュミラ」は2010年の10位から4位へ上昇した。40億ドル超のバイオ医薬品の数は、両年とも8つだが、「エポジェン/エスポー」が外れてワクチンの「プレベナー7/13」がランクインした。40億ドル超の製品の売上高合計は、2010年の21製品では1341.4億ドルだったが(昨年公表のリリース掲載値)、2011年の25製品は1534.9億ドルとなり、14.4%増加した。表にはないが、20〜40億ドルの製品は2010年の36から、2011年には30へ減少しており、2011年は40億ドルを超える超大型品への集中がさらに進んだ。
順 | 製品名 | 一般名 | 薬効等 | メーカー | 2011年 | 前期比 | 2010年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | リピトール | アトルバスタチン | 高脂血症/スタチン | ファイザー/アステラス他 | 10,860 | -10% | 12,023 |
2 | プラビックス | クロピドグレル | 抗血小板薬 | サノフィ/BMS | 9,729 | 3% | 9,426 |
3 | レミケード | インフリキシマブ | リウマチ/クローン病他 | J&J/メルク/田辺三菱 | 9,016 | 12% | 8,065 |
4 | ヒュミラ | アダリムマブ | 関節リウマチ | アボット/エーザイ | 8,242 | 22% | 6,752 |
5 | クレストール | ロスバスタチン | 高脂血症/スタチン | 塩野義/アストラゼネカ | 7,919 | 16% | 6,834 |
6 | エンブレル | エタネルセプト | リウマチ他 | アムジェン/ファイザー/武田 | 7,902 | 9% | 7,279 |
7 | アドエア/セレタイド | サルメテロール+フルチカゾン | 抗喘息薬 | GSK/アルミラル | 7,891 | -2% | 8,029 |
8 | リツキサン | リツキシマブ | 非ホジキンリンパ腫 | ロシュ/バイオジェン・アイデック | 7,386 | -6% | 7,833 |
9 | ディオバン/ニシス | バルサルタン | 降圧剤/ARB | ノバルティス/イプセン/UCB | 6,984 | -1% | 7,074 |
10 | セロクエル | フマル酸クエチアピン | 統合失調症薬 | アストラゼネカ/アステラス | 6,187 | 10% | 5,626 |
11 | シングレア/キプレス | モンテルカスト | 抗喘息薬 | メルク/キョーリン | 5,954 | 10% | 5,410 |
12 | アバスチン | ベバシズマブ | 転移性結腸がん | ロシュ/中外製薬 | 5,631 | -7% | 6,867 |
13 | ハーセプチン | トラスツズマブ | 乳がん | ロシュ/中外製薬 | 5,589 | 9% | 5,770 |
14 | エビリファイ | アリピプラゾール | 統合失調症 | 大塚製薬/BMS | 5,318 | 5% | 4,814 |
15 | ジャヌビア | シタグリプチン | 2型糖尿病/DPP4 | メルク/小野薬品/アルミラル | 5,095 | 45% | 3,509 |
16 | ランタス | インスリングラルギン | 糖尿病 | サノフィ | 5,071 | 15% | 4,651 |
17 | グリベック | イマチニブ | 抗がん剤 | ノバルティス | 4,659 | 5% | 4,265 |
18 | ジプレキサ | オランザピン | 統合失調症薬 | イーライリリー | 4,622 | -8% | 5,026 |
19 | ネキシウム | エソメプラゾール | 抗潰瘍剤/PPI | アストラゼネカ/第一三共 | 4,513 | -9% | 4,974 |
20 | ブロプレス/アタカンド | カンデサルタン | 降圧剤/ARB | 武田薬品/AZ/アルミラル | 4,307 | 2% | 4,220 |
21 | サインバルタ | デュロキセチン | SNRI/抗うつ他 | イーライリリー/塩野義 | 4,247 | 21% | 3,514 |
22 | プレベナー7/13 | 小児肺炎球菌ワクチン | ファイザー | 4,145 | 13% | 3,669 | |
23 | コパキソン | グラチラメル | 多発性硬化症 | テバ製薬/サノフィ | 4,135 | 3% | 3,996 |
24 | スピリーバ | チオトロピウム | COPD/抗喘息 | ベーリンガー・I/ファイザー | 4,083 | 10% | 3,794 |
25 | アクトス | ピオグリタゾン | 2型糖尿病 | 武田薬品/リリー | 4,007 | -19% | 4,946 |
40億ドル超 | 小計 | 153,492 | 3% | 148,366 |
※単位:百万ドル
1位のファイザーのリピトールは2011年からパテントが切れ始め(米国は11月30日)、同社の2012年第1四半期の売上げは9.9億ドル減少して14.0億ドルとなった。年間では50億ドル以上が消える見込み。2位のプラビックスは、2011年に欧州主要国、2012年5月には米国でジェネリックが登場した。米国のプラビックス75mg錠のジェネリック(クロピドグレル)は30錠が15ドル以下で買える薬局もあり、約240ドルしているブランド品の6%強まで下落している(注:米国は薬局が自由にマージンを決めるため、薬局によって価格は異なる)。ブリストル・マイヤーズスクイブのプラビックスの売上げは、2012年4〜6月に▲60%、11.2億ドル減少して7.4億ドルとなった。サノフィの上半期の売上げを考慮すれば、2012年のプラビックスは32億ドル以上減少して65億ドル以下となる見込み。これらの状況から、低分子薬が世界のトップ製品の時代は2011年でいったん終了し、2012年のトップ製品はバイオ製剤のレミケードまたはヒュミラとなる。レミケードは、J&J、メルク、田辺三菱製薬を合わせて1位と予想されるが、一部が次世代のシンポニーに切り替わっている。ヨーロッパではドイツやオランダなどすでにヒュミラがトップ製品であり、米国でも2012年上半期はヒュミラ(18.3億ドル)がレミケード(17.7億ドル)を3%上回ったことから、ヒュミラが1位となる可能性もある。ただし、田辺三菱のレミケードの売上げが米ドルでは8億ドルを超えており、日本を加えるとレミケードが1位になると見込まれる。世界のトップ医薬品の変遷を見ると、1990年代は抗潰瘍剤の時代で、前半のザンタックから後半はオメプラゾールに切り替わり、2001年からコレステロール低下剤のリピトールがトップに立った。2011年までの11年間はリピトールがトップの時代が続いたが、2012年からついにバイオ医薬品がトップとなり、時代が大きく変わることになる。
2012年には、表で9位のディオバン、10位のセロクエル、11位のシングレア、18位のジプレキサ、19位のネキシウム、20位のブロプレス/アタカンド、25位のアクトスがパテント・クリフの影響で減収となり、表の25製品のうちの9製品はマイナスが確実だ。2011年の上位25製品のうち、パテント・クリフに直面している低分子薬の2012年の減収額の合計は190億ドル前後と予想しており、欧米先進国の医薬品市場はジェネリックを含めて全体でもマイナスと予想される。つまり、医薬品市場は2011年を1つのピークとして2012年から大きく変化しており、それに対応できないメーカーは生き残れないだろう。 上位の低分子医薬品はパテント切れによって今後も売上げが減少するものが多い上、例えばリピトールのパテント切れにより、同クラスのスタチン製剤で表で5位のクレストールは、2012年上半期のアストラゼネカの売上げが実伸び率ベースで▲2%の30.9億ドルと減少し始めた。9位の降圧剤でARB製剤トップのディオバンは米国で9月にジェネリックが登場する。ヨーロッパではARBのブランド品を医師が処方できない国が増え、米国でも保険会社がブランド品の処方を制限しており、スタチンやARB製剤の市場は今後急速に縮小する。
表にある上位25製品のうちのバイオ医薬品は、ロシュの大型3製品(リツキサン、アバスチン、ハーセプチン)のドル換算値が減少した影響で、バイオ8製品の合計額は2010年の508.9億ドルから2011年には4.1%増の529.8億ドルに増えただけだった。バイオ以外の低分子薬は、3.1%増の1005.1億ドルなので、バイオ医薬品の伸びの方が高い。 ここでは、世界の上位50製品におけるバイオ医薬品と低分子医薬品の売上げ合計額を紹介する。2011年の上位50製品では、低分子薬の売上げ合計が初めてマイナスとなり、バイオ医薬品は10.5%増の783.0億ドルへ拡大した。バイオ医薬品の占める割合は、2010年の31.6%から2011年には34.0%へ拡大しており、バイオ医薬品の重要性が高まっている。ただし、上位のバイオ医薬品は毎年ほぼ同じ製品で、売上げが急増した最近の新製品が加わったわけではない。
比率 | 2011年 | 前期比 | 2010年 | 比率 | |
---|---|---|---|---|---|
低分子医薬品 | 151,961 | 66% | -0.9% | 153,307 | 68.4% |
バイオ医薬品 | 78,301 | 34% | 10.5% | 70,832 | 31.6% |
大型50品目合計 | 230,262 | 100% | 2.7% | 224,139 | 100.0% |
※単位:百万ドル
日本メーカーの創製品:40億ドル以上では、塩野義製薬のスタチン製剤クレストール、大塚製薬の抗精神病薬エビリファイ、武田薬品のARB製剤のブロプレス、2型糖尿病薬のアクトスがランクインした。クレストールの世界5位は日本の創製品として最も上位にランクインした。ランクインした製品は2010年と同じだが、アクトスは発がんのリスクからすでに減少しており、米国で今年8月のジェネリック登場後は激減が予想される。ブロプレス/アタカンドは他のARB製剤のジェネリックのため、欧米の2012年上半期は2桁減となっている。
この世界の大型医薬品売上高ランキングの詳細は、月刊情報誌「ファルマ・フューチャー」の2012年6月号に掲載しています。このランキングでは医薬品売上高が4億ドル以上の275製品に加え、参考データとして3.2億ドルまでの製品を合わせて308製品を掲載しています。このほか、現在重要となっている抗がん剤のランキング、抗生物質のランキングを掲載しています。
「ファルマ・フューチャー」誌の詳細、お申込みはこちらをご覧ください。
http://www.utobrain.co.jp/pharma_future.shtml
連絡先
セジデム・ストラテジックデータ株式会社
ユート・ブレーン事業部
〒541-0045 大阪市中央区道修町1-7-10 扶桑道修町ビル9F
TEL:06-6202-7787
Email: ubinternational@utobrain.co.jp
世界の大型医薬品売上高ランキングは、過去には厚労省の「新医薬品産業ビジョン」でも使われたほか、業界誌や日本経済新聞、朝日新聞等の一般紙、週刊東洋経済等の経済誌などで利用されています。利用される場合は、上記本社宛にご連絡をいただき、掲載誌をお送り下さいますようお願い申し上げます。メールの場合は、ubinternational@utobrain.co.jp へご連絡下さい。(ランキングを作成した担当アナリストの永江研太郎に届くようになっておりますが、不在の場合は連絡が遅くなることもありますのでご了承下さい。)
CSD 世界の大型医薬品売上高ランキング2011(pdf)