この本を読むきっかけは、「ウォルマート(Wal-Mart)の従業員の中には大金持ちがたくさんいる」という話を聞き、その理由、そして創業者サム・ウォルトン氏の考え方や経営哲学などに興味を抱いたからである。
著者のボブ・オルテガ氏は、コロンビア大学大学院でジャーナリズムを学び、現在は「ウォールストリート・ジャーナル」の記者をしている。
ウォルマートについては説明を要しないと思うが、売上高1913億ドル(1ドル125円として約24兆円)を誇る世界最大の流通業だ。
ウォルマート発祥の地はアメリカ南部アーカンソー州で、1945年(昭和20年)9月1日、サム・ウォルトン氏が27歳の時に開いた小さな雑貨店からアメリカンドリームが始まる。
「一番偉いのはお客様、次に大切なのは従業員」という信念に基づき、独自の経営スタイルを確立するまでの経緯が書かれている。一番偉いお客様に喜んでいただくために、「最低価格で提供する」、そのために経費を骨の髄まで削ぎ落とす努力が行われてきた。経費が多くかかれば、その分価格に転嫁せざるを得ないからだ。
例えば、出張時には社長以下全員がエコノミー、宿泊も一番安いホテルの大部屋、もちろん会議で飲むコーヒーやジュース類は自腹、会社の駐車場は創業者の専用駐車場もなく早い者勝ちという徹底ぶりである。仕入れや経費が安くできれば、その分安くするという、「エブリディ・ロープライシング」は顧客志向の発想である。その一方で、価格のみではなく、POSレジやコンピュータネットワーク、衛星通信システムの導入といった情報投資にいち早く取り組んでもいる。
つまり、新しい改革をどんどんやっていくという姿勢が貫かれているわけだ。社員には金持ちになれる約束をし、持ち株制度をどの企業よりも先駆けて導入した。その結果、社員をして「私たちの会社には魂があります!」と言わせるだけの誇りを持たせたのである。一読に値する本である。
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