常磐文克氏がかつて出版した「知と経営」の本を読んで、内容が素晴らしく感銘したことがある。今回は2001年8月1日に出版された「知の経営を深める」を取り上げた。
本のはしがきに著者が述べているように、「会社の仕事にも日々の生活にも通底する根幹知は大自然の中にある。そうした大自然の知を中心に、時には先人の自然哲学、あるいは自然と共に暮らす日と人々の素朴な感覚、さらには各民族が歴史的な年月をかけて、自然の知を体系化した伝統医学の知などに拠りながら、私なりに考えてきたことを集約したものである」「いまの混迷の時代、性急に仕事の解を求めるのではなく、時には立ち止まって、この大自然の知を基盤に何を変革すべきか、問題の本質を自分なりに考えてみることが大切ではないか」とも述べている。
<時代を変える潮流を読む>
- デジタル・ネットワーク時代の到来
- グローバル化の一層の進展
- 資源・エネルギーの確保や地球環境の保全に関する問題
- 技術革新、ITとならんでBT(バイオ技術)
自然をよく観察せよと言うが、どこを見るかが大切なのである。双眼鏡を持つと、私たち素人はすぐに目に当ててしまうが、その前に鳥の棲み家について知識を持ち、鳥の囀りに耳を澄ませ、自然の中で大きく鳥の位置を捉えてから、双眼鏡を覗くのだ。最初から双眼鏡で見ようとすると、周りが見えなくなってしまうからである。
南アメリカにウオクイコウモリが棲んでいる。このコウモリが獲物を捕る瞬間を写真に収めようとするならば、そのコウモリの習性を徹底的に観察し、コウモリを知り尽くして、それからシャッターを切る。まず暗い川面に光を当てると、これに誘われて虫が寄ってくる。その虫を食べようと魚が水面に集まって顔を出す。その魚を目当てにウオクイコウモリが現れ、足の鋭い爪で魚を捕まえる。その瞬間にシャッターを切る。
先に述べているように、この大自然の知を基盤に何を変革すべきか問題の本質を自分なりに考える。われわれは最初から双眼鏡でものを見ようとしていないだろうか、顧客の立場で物事を考えずにシャッターを切ろうとしてはいないだろうか。「見る」は、軽い気持ちで見るであり、「観」は見方、考え方といった意味が含まれている。
著者は「掛け算とはすなわち部門と部門との有機的な関係性に他ならず、そこから生まれてくるものこそ企業の知であり力なのである」と言う。「勝ちは偶然、負けは必然」だ。
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