2000年6月にヒトゲノム解読の発表があった。それからゲノムと言う言葉が頻繁に使われるようになっている。ドラマの主役はクレイグ・ベンターである。彼はNIH(国立衛生研究所)を飛び出し、私立研究所のセレーラと言うベンチャー企業の研究所を立ち上げた。
セレーラ社の名前は医薬品業界に位置する者であれば誰でも知る名前であり、今年、日本にも進出し日本法人を設立した。しかも武田薬品、山之内製薬の2社はセレーラ社とゲノム・データベースの利用で契約を結んでいる。
ヒトゲノムとは、生物は日々色々なタンパク質を作って組織を新しくし、消化や免疫などの生命活動を維持している。タンパク質を作る設計図が遺伝子であり、人間のもつ全遺伝子をまとめてヒトゲノムと呼ぶ。この本の原題は「CRACKING THE GENOME」で、直訳すれば「素晴らしきゲノム」となるが、内容をより分りやすく伝えたいという編集部の意向で「ゲノムを支配する者は誰か」になったようである。
遺伝子がDNAで構成されていることは1944年に証明され、1970年代になると遺伝子工学が生まれ、1980年代半ばに科学者のなかにヒトDNAの30億の塩基配列完読という計画を表明する人が出始めた。1990年にはヒトゲノムのプロジェクトが動き出した。「私はこの40年間、生物学のなかで素晴らしい成果をたくさん見てきた。それでもヒトゲノムの概要を説明する論文を初めて読んだときに背筋がぞくぞくした」と言うのは、ノーベル賞受賞者のデイヴイット・ボルモアである。
この本に書かれているのは、ヒトゲノム解析という生物研究では初めてと言える大きなプロジェクトが立ち上がってから、現在に至るまでの経緯を詳細に述べた人間ドラマと言える。遺伝子は私達が生まれ、育ち、老い、死んでいくという営みを支えるためにあるのであり、時にそのうちどれかがうまく働かないと支障をきたす。それを病気と呼ぶのである。
また、この本のなかで一卵性双生児の一方が癌になっても他方がそうでない場合が90%という数字がある。この現象は他の病気でも同じであり、癌の遺伝子をもっていたからといって必ず癌になるわけではない。それだけゲノムでことは決まらない。ましてや遺伝子では決まらないのである。それだけに、この技術をどのように使うかが問われてくる。
ゲノムに興味のある人、また医薬品業界に携わる人には一読をおすすめします。
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