本の題名に「変革の陥穽」の名が付けられているように、今日の企業経営者は、「変革のジレンマ」に囚われている、という。それは、変化の必要性が企業にとって常に大きくなるのに対して、企業で働く人間のほうにはその変化に応じるだけの余力がなくなってきているからだ。従業員は「変革疲労」を見せはじめ、できるだけ変動の少ない道を望むようになる一方で、経営者は終わりなき変化の道を突き進もうとしている。激動の中で成功するには「安定的イノベーション」を実現させることが最も重要な経営課題であると言えるとはいえ、ビジネス環境が異なれば当然イノベーション形態も異なったものが必要になる。
本書は4つのイノベーション形態と各イノベーションに最適な組織構造を提起し、企業が乱気流に巻き込まれることなく、さらなる向上への道を示している。
現実の事業環境を見渡してみると、経済のボーダレス化、グローバル化、IT革命の進展、雇用市場の流動化、規制緩和、ベンチャー企業の勃興と隆盛・撤退、事業の再編、統合、M&Aの増加など、どの側面から見ても合理的な事業経営を進め、イノベーションを生み出すためには、変化し変革することが避けられないのは自明の理である。
今イノベーションを実現している企業とは、変化すること自体に固執する企業ではなく、イノベーションをビルトインした上で最大限の安定状態を生み出す能力をもった企業であると結論付けている。さらに、今日のような乱気流の時代における競争優位の条件とは、組織の攪乱をなくし、「安定的イノベーション」を実現することであると主張する。
本書は4部構成となっている。基本的には4つのイノベーションパターンに対応する4通りの組織安定構造として、ピラミッド構造、サイコロ構造、車輪構造、球体構造を定義し、それぞれに適応している企業名をあげて解説をしている。またそれぞれの構造に分りやすくするためにキーワードを設けている。
この激動する環境のなかで「安定的にイノベーション」を実現させたい企業にとっては参考にしたい本である。
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