HOME
会社概要
セミナー
教育関連
海外情報
書籍
お問い合わせ
ワールドネット
HOMEUBブックレビュー詳細





戦略なき日本再生の知恵表紙写真

戦略なき日本再生の知恵

著  者:佐藤隆三
出 版 社:ぎょうせい
定  価:1,429円(税別)
ISBN:4−324−06551−9

著者の佐藤隆三氏は、現在ニューヨーク大学とハーバード大学の教授を兼ねている。

この本は、5章に分かれ、第1章は「戦略なき日本の諸問題」の見出しで始まる。この中で、「閉鎖社会」日本は、このままでは世界の過疎地になると警告する。経済学には「変化の経済学」と「現状維持の経済学」という相反する二つの現象を説明する分野がある。人間の行動は、現状を変えたい希求と、未知への不安から現状を維持したいと望む心理のバランスで決定される。「変化は欲しいが現状が激変するのも怖い」という日本人の心理は、アメリカ人から見ると不可欠だという。

第2章の「アメリカに見る再生への知恵」では、まず犯罪の少ない街に変身しつつあるNYを取り上げ、その成功の秘密は身近な問題処理が大改革につながる例として挙げている。検事出身のジュリアーニ市長のとった手は、「凶悪犯罪を防止する最善の方法は軽犯罪を徹底的に取り締まること」という新しい手法である。公園のゴミ箱を歩道にぶちまけようが、深夜に携帯ラジオのボリュームを最大にして住宅街を歩こうが、かつての警察はまともに取り締まらなかった。これらを徹底的にやったことが効を奏したのである。一方で日本とアメリカのCMの違いも指摘している。日本のCMの特徴の一つは、有名人や外国人の登場である。反対にアメリカ製CMには、有名タレントはほとんど出てこない。プライドの高いアメリカの芸能人は、「CMで稼ぐほど落ちぶれたくない」と言う。特に芸術家を自認している人々はそう思っている。

第3章「日本の現実とアメリカ社会」。日本の政治が、内圧ではなく外圧と永田町の論理だけで動くのは、国民の声が聞こえない政府だからだ。一方アメリカのように、内圧には敏感だが外圧には原則的に反発するのは、唯我独尊の大国エゴであるという。京都議定書に反対するのもそこにある。すなわちアメリカの国内事情があるのである。その一つには、100以上の国家が議定書に参加しているが、先進国で批准をした国はまだない。とか、2012年までに温室効果ガスを7%下げることを企業に強要すれば、アメリカ経済に大打撃を与え、ひいては世界経済にもマイナスとなる、などである。

第4章「認識すべき日米の文化差」。アメリカの結婚式に関する費用は、すべて花嫁側の負担になる。披露宴から招待客の宿泊費まで全部お嫁さん側が出すようだ。アメリカでの最近の結婚費用の平均は、大体1万5000ドルから2万ドル位だ。逆にアメリカから日本の結婚というイベントをみると、二つの特徴が目立つ。一つは莫大な出費、もう一つはアクセサリーとしか宗教を考えない日本人の精神性だと言う。71年以降、アメリカではタバコのテレビコマーシャルは禁止されている。日本では夜の10時54分から午前5時までという時間制限付きとはいえ、堂々と広告を流している。現在、ロサンゼルスやサンフランシスコでは市条例でホテルの自室やバーを除きレストランや職場での喫煙はすべて禁止されている。日本からの観光客がうっかり一服すると、1回目250ドル、2回目だと350ドルの罰金を払わされる、と注意を促している。

第5章「ちょっと特殊な日本事情」。かつての信用は失墜したものの、それでも根強い大銀行への信頼感をもつ日本人として、ペイオフが始まる中で銀行神話を捨てられるか、という問いかけがある。アメリカ人は預金口座を開く前に、その金融機関が連邦預金保険機構(FDIC)に加盟しているかどうかを必ずチェックする。通常の日本人の感覚には、銀行は強大な組織と資金力を持つ100%安全な機関だと信じている。倒産した時にいくらまで保険金で保証されているか、なんてことを一度でも考えてから金を預ける人が果たしているだろうか。一口でいえば、日本経済システムとは、銀行が主役の資産先行型資本主義である。資産を担保に銀行が信用を創造し、ここから所得を生み出す。得た所得は再びより大きい資産形成に還流され、銀行はそれに対し再び貸し出しを行う。このサイクルが経済のエンジンだ。こうした日本独自の資産先行型経済行動が、バブル時に狂乱の資産インフレをもたらしたのである、など日本の特殊性を指摘しながら、アメリカと比較し、特にバブル崩壊を境に比較優位が比較劣位に変わり、強さが弱さに、弱さが強さに変わる、それに対応する戦略がなかったのである、とし、これが日本の問題だと著者は言う。比較論として大変に面白い本だ。


北原 秀猛

関連情報
この記事はお役にたちましたか?Yes | No
この記事に対する問い合わせ

この記事に対する
キーワード
•  変化の経済学
•  現状維持の経済学
•  ジュリアーニ市長
•  連邦預金保険機構
•  ペイオフ
•  佐藤隆三


HOMEUBブックレビュー詳細 Page Top



掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はセジデム・ストラテジックデータ株式会社またはその情報提供機関に帰属します。
Copyright © CEGEDIM All Rights Reserved.