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文明の衝突

原  題:The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order
著  者:サミュエル・ハンチントン(ハーバード大学政治学教授)
訳  者:鈴木 主税 出 版 社:集英社(1998年6月30日第一版、2001年10月15日第13版)
定  価:2,800円(税別)
ISBN:4−08−773292−4

2001年9月11日、NY世界貿易センタービルとバージニアの国防総省が同時多発テロにより爆破された。ブッシュ大統領はこのテロ行為を戦争と呼び、10月に入りテロ根絶の旗を振り、アフガニスタンのタリバン勢力、特にウサマ・ビンラデイン氏率いるテロ組織「アルカイダ」と戦闘状態に入った。この本を読むと今日のテロが起きることを予感させるものである。

冷戦終結後の世界では経済を大きく変えているが、一方で民族紛争が大きな問題となっている。ボスニア・ヘルツェゴビナの内戦、コソボ自治州における紛争、イスラエルとパレスチナの対立など、異民族間の戦いが後をたたない。著者はこうした紛争を「異文明間の衝突」としてとらえ、冷戦後の世界では、イデオロギーではなく文明のアイデンティティによって統合や分裂のパターンがつくられていると主張する。このアイデンティティの追求とは、「自分は何者か」を問うことであり、自分という存在の意味を明らかにしようとすることと言い換えられる。それぞれの民族が自己のアイデンティティを主張し、自分の存在を他者に認めさせようとするとき、異なるアイデンティティを主張する相手との間に対立が生じる。この対立こそが著者の言う「文明の衝突」である。

1980年代に共産主義世界が崩壊し、冷戦という国際関係は過去のものとなった。冷戦後の世界でさまざまな民族の間の最も重要な違いは、イデオロギーや政治、経済ではなくなった。文化が違うのだ。民族も国家人間が直面する最も基本的問いに答えようとしている。「われわれはいったい何者なのか」と。文明と文化は、いずれも人々との生活様式全般を言い、文明は文化を拡大したものであると言う。

イスラム世界では、イスラム教の復興や「再イスラム」が至上命題となっている。イスラム諸国では人口が増加しており、なかでも拡大しつつある15歳から24歳の年齢層から原理主義、テロ活動、反乱、そして移民などの活動に人材を提供している。人口増はイスラム諸国の政府と非イスラム諸国に脅威を与えている。1965年から1996年の間に世界の総人口は33億人から53億人に増加した(年率1.85%)。これに対しイスラム諸国の人口はほぼ一貫して年2%を超える勢いで増加し、年率2.5%を超えることも珍しくなく、3%以上の数字を記録することさえあった。イスラム圏全体では1980年現在、世界人口の18%を占め、2000年20%を超え、2025年には30%を超えると予想されている。

イスラム教徒たちは、自らの宗教に向きなおりアイデンティティ、存在意義、安定性、正統性、發展、力、そして希望の源泉として見つめようとしている。「イスラムが解決策である」というスローガンには、イスラム教徒がイスラム教に希望を見出そうとしていることが如実にあらわれている。イスラム教徒が圧倒的多数を占めるすべての国が1995年の段階で文化的、社会的、政治的に15年前の状態よりもイスラム的色彩を強めていたという事実である。文化の共通性によって人間同士の協力関係や連帯がうながされ、文化の差異によって分裂や紛争が助長される。その理由は以下の通りである。

  1. 自分たちとは非常に異なると認識される人々に対する優越感(また、ときには劣等感)
  2. そのような人々に対する恐れや信頼の欠如
  3. 言語や礼儀正しいと見なされる行動の相違から生じる意思の疎通の困難
  4. 他の人々の前提や動機付け、社会的関係、社会的慣習に関する知識の欠如

これらの意見はわれわれ日本人としても考えさせられるものである。そこで日本人について著者はどのような指摘をしているかをまとめると次のようなことだ。

日本では明治維新が起こり、強力な改革派の集団が権力を握った。彼らは西欧の技術、習慣、制度を学んで移入し、日本の近代化に取りかかった。しかし、日本人はその過程で伝統的な自国文化の重要な部分は保とうと心がけた。伝統的な要素はさまざまな点で近代化に寄与したし、またそれゆえに日本は自国の文化的要素を利用、改革し、基盤としながら1930年代と1940年代には帝国主義への支持を集め、それを正当化することができたのである。日本の独特な文化を共有する国はなく、他国に移民した日本人はその国で重要な意味を持つほどの人口に達することもなく、また移民先の国の文化にも同化してしまう(例えば日系アメリカ人がそうだ)。日本の孤立の度がさらに高まるのは日本文化が高度に排他的で広く支持される可能性のある宗教(キリスト教やイスラム教)やイデオロギー(自由主義や共産主義)をともなわないという事実からであり、そのような宗教やイデオロギーを持たないために、他の社会にそれを伝えてその社会の人々と文化的な関係を築くことができないのである、と日本の排他性を指摘している。

著者は最後の章で、世界の主要文明の中核国家を巻き込む世界戦争は起こりそうもないが、あり得ないわけではない。そのような戦争は異なる文明を背景にした集団同士のフォルト・ライン戦争(断層線=紛争が暴力化したもの)がエスカレートすることから起こり、特に一方のイスラム教徒と他方の非イスラム教徒が分かれる場合が問題になるとしている。来るべき時代には文明の衝突こそが世界平和にとって最大の脅威である。文明にもとづいて国際秩序を維持することが世界戦争を防ぐ最も確実な安全装置なのであると結んでいる。


北原 秀猛

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