日本経済が「10年の停滞」を余儀なくされている理由は明確だ。日本経済の病状について「正しい診断書」がないことである。「正しい診断書」がなければ、それにもとづく処方がことごとく失敗に終わるのは当然だ。本書は「日本経済の真実」を明らかにすべく、「正しいカルテ」を書き上げ、それにもとづく「正しい処方箋」を提示することを目的にしている。
本書は3部・7章と終章という構成になっている。第1部は「強行着陸」と資本主義の一時停止、第2部は「10年デフレ」の経済学、第3部は2005年復活への海図――である。
日本経済の難病はもはや、伝統的な財政金融政策をベースとする「軟着陸手法」では解決が不可能なだけでなく、むしろ日本経済に巣食う「病根」を放置、先送りするだけで、このままでは、日本経済は「墜落(クラッシュ・ランデイング)」に追い込まれかねないという「危機シナリオ」すら現実化してきた。日本経済の病根は、一言でいえば「復合デフレ」だ。その根本原因は、大略して国内のものとグローバルなものの二つである。国内要因とは「資産デフレ(後半に「債務デフレ」に転化)」、グローバルな要因とは「大競争圧力」だと言う。右肩上がりの終わりが日本のシステムを機能不全にさせたのである。戦後の日本経済が「土地神話」と「株神話」を謳歌できたのは、一貫して右肩上がり構造のもとにあった。その右肩上がり構造を享受できたのは、欧米先進諸国へのキャッチアップ過程にあったことと、冷戦構造のもとで欧米諸国は国家戦略の最優先度を対ソ軍事力の強化に置いたため、世界市場で日本はひとり勝ち状況を享受できたからである。
90年代に入り、キャッチアップ過程の終了と冷戦終焉にともなうグローバル・メガコンペテイション時代の到来により、戦後半世紀に渡って日本経済を支えてきた右肩上がり構造の基本要件が消滅してしまったのである。この現実をしっかり認識しないと、正しい処方がなされないと言える。著者は戦後的な思考構造そのものに問題があると指摘している。すなわち、「アンシャン・レジーム(旧体制)」と化している戦後的構造を破壊しなければならない。そして、「ヌーボー・レジーム(新世紀体制)」に日本経済のシステム転換を行うことであると述べている。
われわれは構造改革の標的から視線をはずしてはならない。日本経済は2010年以降に本格的な高齢化時代に突入するが、これは戦後50年の旧体制を支えた経済・行政基盤では対応が不可能だ。安定し、安心できる成熟社会を支える新たな経済・行政基盤の構築が不可欠である。
以上のように問題点を整理し、著者の論点でIT革命の本質論まで交え、処方箋を書いている。具体的な数字も駆使し、分りやすく解説している。2001年3月末の国債残高は364兆円ある。10年前の1991年3月末の残高は166兆円であり、10年の比較では2.2倍に膨らんでいる。それに対して名目GDPは同じ期で見ると513兆円と439兆円である。GDP対国債残高比は91年3月で37.8%、2001年3月では70.9%となっている。この10年間の国債増発額は198兆円、GDPの増加額74兆円である。
今後5年間に毎年30兆円の国債増発を続ければ、国債増加額150兆円、それにより国債残高は514兆円になる。GDPは増加額を含み推計合計は531〜544兆円とすれば国債残高対GDP比は何と94.5〜96.7%になってしまう。
これらの状態から考えても日本経済には3つの問題を乗り越えなければならない。
- 冷戦終焉にともなう大競争時代が、今後さらにグローバリゼーションの大波を作り出して行く。
- 2010年頃からは少子・高齢化社会が本格的に展開してくる。そのため年金・税制を含む日本の経済システムの大改造が不可欠となる。
- ITの長波が、今後10年〜20年かけて時々は現在のような調整過程の踊り場をいくつか経つつ、経済構造を21世紀型産業革命に巻き込んでいく。
われわれに対しても意識改革を促す本である。一読をお勧めしたい。
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