この本の執筆者は10人の大学教授陣である。章ごとに担当を決めて進めている。名前と大学を紹介すると、以下の通りである。
- 淺羽茂:学習院大学経済学部教授
- 新宅純二郎:東京大学大学院経済学研究科助教授
- 網倉久永:上智大学経済学部教授
- 野田智義:インシアード欧州経営大学大学院助教授
- 遠藤妙子:東京経済大学経済学部専任講師
- 柳川範之:東京大学大学院経済学研究科助教授
- 柴田高:東京経済大学経済学部助教授
- 成田達彦:京都大学大学院経済学研究科教授
- 森田正隆:立正大学経済学部専任講師
- 西村清彦:東京大学大学院経済学研究科教授
現在、競争力の再構築を模索している日本企業にとっても、競争戦略の研究成果を取り込んだり、研究の世界と対話することはきわめて有意義である。とりわけ大胆な戦略構築の面で劣位にあるという日本企業にとって、競争戦略の理論を体系的に理解する意味は大きい。11月現在、一部上場の企業のうち株価が100円を切っている会社数は何と98社に上っている。一部上場企業の約10%である。それは、既存企業の事業内容が環境にマッチしていないか、新しい技術の登場によって競争条件が大きく変わっているのに企業が従来のやり方を踏襲しているからである。この本はマイケル・ポーターの「競争戦略論」なども分析し、企業の事例などもふんだんに入れて論を進めている。内容は一章から第七章に分かれている。
第一章「競争戦略論の展開」では、競争戦略研究を発展させる契機として、既存研究に対する内省、外的環境の変化と並んで、競争戦略研究と密接な関係を有する経済学、とりわけ産業組織論の変化、発展があるとされ、その隣接分野の研究がどのように競争戦略研究に影響を及ぼしてきたかを中心にこれまでの競争戦略論を振り返り、そして今後の研究を展望している。
第二章「戦略スキーマの相互作用」。個人の企業が独自に保有する経営資源、なかでも「組織能力=organizational capabilities」に着目し、事例の検討を通じて競争優位の持続メカニズムに関する構築のプロセスを分析している。
第三章「戦略のダイナミック理論構築を目指して」。同一産業内の複数の企業が異なる行動をとり、異なる業績を上げているのはなぜかについて、アメリカのベビーベル7社のセルラー電話サービスの事業展開を比較することによって検討されている。
第四章「製品標準化の経済学的分析」。ゲーム理論を用いたモデル分析が行われている。そこでは競争を通じて標準が選ばれるデファクト・スタンダードのケースや話し合いによる標準の選択のケースが分析され、企業がネットワークサイズをコントロールする方法、規格変更の戦略、競争の結果社会的に最適ではない標準の移行が起こることなどが明らかにされている。
第五章「技術規格の業界標準化プロセス」。ネットワーク外部性から生じるバンドワゴン効果を組込んだマーケットシェア推移が比較される。その結果、同一世代内技術規格間競争では、世帯普及率2〜3%の時点で優位に立った技術規格が業界標準となって市場を支配することが検証されている。
第六章「チャネルの競争優位と製販提携」。メーカー、卸、小売業者によって構成されるチャネル全体の競争が議論されている。チャネル全体のパフォーマンスが競争優位を確立する上では重要となった背景には、消費者の個性化、多様化に対応する多品種小量販売の進展がある。
第七章「情報技術が流通戦略を変える」。企業を取り巻く外部環境の重要な変化であるデジタル化、ネットワーク化によって、自動車流通で何が起こり、今後どのような展開が予想されるかが議論されている。アメリカでは「組み合わせの最適化」を目指す小売主導の業態革新、「モジュラー型」に基づく「水平展開型」モデルを目指すインターネット販売仲介業、「垂直囲い込み型」モデルを狙うメーカーの動きが見られるのに対し、日本ではメーカー主導の「プロセスの最適化」戦略パターンが広く見られる。
各章の内容は多様である。これは、現実の企業が直面している課題が多様であり、それに対して各企業が取る対応がさまざまであるからだ。競争戦略の研究と実業界における実際の競争戦略の関係は一方的なものではない。事例の企業を自社に置き換えて考え、新しビジネルモデルを組み上げるうえで参考になる本である。
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