下巻は、3部、4部、5部の3部の26章に分かれている。
3部は「試練の波」、4部「流れを変えるイニシアチブ」、第5部「過去を振り返る、未来を見つめる」
ウェルチは母親から受けた愛情をそのまま、何十万のGE社員をはじめ自分の周りの人、一人ひとりに注いできたと言える。その愛情が彼の行動を促し、彼の人生哲学を作り上げたと言える。下巻に出てくる文章のなかで、彼の哲学をいくつか紹介しよう。
- 人間はどんな時にも誠実な姿勢を忘れないことだ。誠実な姿勢を確立し、この姿勢をあくまで貫くことによって、経営が順調なとき苦しいときを問わず、私はどんな仕事も成し遂げることができた。
- 私に本音と建前はない。やり方はただひとつ――真っ直ぐに前進するのみ。
- 傲慢な態度が組織を殺す。あからさまに野心を遂げようとする姿勢も同じ結果をもたらす。傲慢さと自信の間には明確な一線がある。本物の自信だけが仕事の成功を約束する。自信があるかどうかは、何ごとにもオープンな姿勢を保っているかどうかだ。
- もしすべての勝利者に共通の性格があるとすれば、それは誰よりも仕事に対してこだわりを持っていることだろう。根底に流れる心、考えかたは、「情熱」である。偉大な組織であれば情熱に火をつけることができる。
- ストレッチ(stretch)とは、自分自身が思い描いている以上のことを成し遂げる、ということだ。私は常に年間予算の作成過程をストレッチのもっともよい実例として利用してきた。
- ビジネスは楽しくなければならない。「単なる仕事」になってしまっている人が多すぎる。祝福することは組織に活力を甦らせるまたとない方法だ。
- 評価基準を固定化すれば現実に合わなくなる。相手にしている市場の状況は変化し、新たな事業が開発され、新しい競争相手が現れる。評価と報酬を結びつけないことによって、求めて「いない」ものを手にすることもよくあるのだ。私にとって評価をするということは、呼吸をすることと変わらない。実力主義の世界では、これより重要なことはない。私は常に評価を欠かせない。
- 知力の最大化がもたらす効用を本当に信じている組織なら、複数の文化を並行して持つようなことはありえない。
- 事業というものは、もっともらしい計画や予測を立てるから成功するのではない。現実に起こっている変化を絶えず追いかけて、それにすばやく反応するから成功する。だからこそ事業戦略はダイナミックで、かつ先の読みがしっかりしていなければならない。
- 本社を自分がいるべきところだと考えたことは本当に一度もない。「本社は何も製造していない、何も販売していない」。現場をあちこち歩き回ることが、いま何が起こっているのか、その本当の現実を理解するもっともよい手段なのだ。
- 市場が成熟しきってしまうことはない。同じ事業を異なったシェアの観点から見直すことによって、視座が変わる。対象としている市場の見直しをさせてシェアが10%以上にならないように市場を再定義すれば、それまで成熟した市場に見えていたものがビジネスチャンスにあふれた市場にかわる。
- 「舞台裏の仕事が他の人にとっては表舞台の仕事になる」P・F ドラッカー
われわれはこれを実践している。カフェテリアを自分で経営してはならない。それは食品会社にまかせよう。社内の印刷ショップを経営してはならない。印刷会社にまかせよう。自分の本当の付加価値がどこにあるのかを理解し、最高の人材を配置してそれを支える経営資源を投入する、という意味だ。
最後にウェルチが日本について次のように話している。
私がはじめて日本を訪問したのは1966年(昭和41年)、現在、日本はその将来を切り拓こうとして経済的に苦しんでいるが、私はその姿を楽観的に眺めている。日本の将来に対するこの楽観的な見方は揺らぐものではない。日本から多くのことを学んだ。ソニーの飽くなき新製品開発の姿勢からイノベーションには終わりのないことを学んだ。トヨタからは在庫の回転と資産管理の優れた方法を学習した。東芝の「ハーフ運動」の考え方と、横河の新幹線思考を身につけることによってコストの削減や新製品開発の方法を質的に大きく転換することができた、と言う。このような謙虚な姿勢がGEを支え、またウェルチの人間的魅力の基になっていると強く感じるのである。上下卷を通し是非読んでいただきたい。
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