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日経大予測 2002年版表紙写真

日経大予測 2002年版

編  者:日本経済新聞社
出 版 社:日本経済新聞社
定  価:1,524円(税別)
ISBN:4−532−21911−6

  • 第1部 日本経済大予測―――長引く不況をいつ脱け出せるか?
  • 第2部 産業・科学技術大予想―――リーディング産業はどこにある?
  • 第3部 政治・世界大予想―――政治と世界のバランスはどう変わる?
の3部に区分され、さらに小分類として67に分れている。

なお、予測の仕方は
「本命」=80%以上、最も実現する可能性が高いシナリオ
「対抗」=50%程度、「本命」ほどではないにせよ、十分に起こり得るシナリオ
「大穴」=20%以下、可能性はかなり低いもの、ないとは言い切れないシナリオ
以上の3つの構成になっている。

巻頭言は野口悠紀雄氏である。

小泉内閣は、「構造改革」を政策の中心に掲げている。これまで、政治的には短期的な経済刺激策が主張されることが多かったので、長期的な観点から構造改革の必要性を認識したことは評価される。しかし、構造改革と叫ぶことは誰にでも出来るが、問題はそれを実行できるかどうかだ。内閣発足当初は上昇した株価も、その後は下落を続けている。世論の圧倒的な支持にもかかわらず、株式市場は小泉内閣の経済政策を評価していないようである。

将来を考える第一歩は、失われた10年と言われる1990年代に何故日本の経済的地位が低下してきたのかを考えることだ。多くの人はバブル崩壊がその原因だと考えている。確かにバブル崩壊は、金融システムを中心として日本経済に甚大な影響を与えた。しかし、(海外投資が被った損失を除けば)日本から富が失われたわけではないことに注意する必要がある。それは自然災害や戦争で富が失われたり、生産施設が破壊されることとは、本質的に違う現象である。

日本の経済的パフォーマンスが悪化した基本的原因は、経済の基礎条件の変化にある。とりわけ重要なのは、次の2つである。第1は、アジア諸国での工業化の進展によって、輸出中心の製品がもはや日本のお家芸ではなくなったこと。第2は、情報処理技術が大型コンピュータによる集中システムからIT型分散システムに移行したことである。60年代に日本が高度成長できたのは、その当時の技術や国際環境が日本にとって有利なものだったからだ。しかし、経済の基礎条件は、70年代の末頃から徐々に変質し始めた。そして、80年代にアジアの工業化が進展し、ITへの移行が始まっていたのだ。日本に有利にアメリカに不利に作用した条件が、アメリカに有利に日本に不利に作用し始めた。そして、90年代になって、そうした変化の結果が明らかになったのである。日本社会の構造を根本から変えない限り、日本は21世紀に生きのびていくことは出来ない。「数年すれば日米逆転」という類いの議論は、まことに無責任なものだと考えざるを得ないのである。

◆景気回復に向かうシナリオ
本命=低成長が続き、本格回復は2003年度以降。

米景気が順調に回復しても、日本経済にはいくつかの不安材料がある。1つには経済のグローバル化による影響だ。IT分野だけでなく、製造業の大手企業は海外生産の強化に向けた投資に力を入れているが、海外での設備投資は国内総生産の増加につながりにくく、その分国内投資を削ればマイナス要因になってしまう。衣料品や食料品メーカーも、人件費の安い中国などで生産した商品を国内に輸入する動きを加速している。輸入の増加は国内需要を食うのでGDPの押し下げ要因となる。収益力を高めようとする企業の動きが必ずしも国内景気にプラスとは限らない。もう一つの不安材料は小泉純一郎首相の掲げた構造改革だ。最大の柱は、不良債権の抜本的な処理により、銀行と企業の再生を進めることにある。ただ、不良債権処理は企業倒産や失業増という副作用を伴う。国債の新規発行額を30兆円以下に抑制するための歳出削減もデフレ圧力となる。景気底割れは回避できても、規制緩和などを含めた構造改革の効果が現れるまでには時間がかかるため、景気が本格的な回復軌道に乗るのは2003年度以降になる。

◆提言「日本経済 長期低脱出への道」 小林慶一郎(経済産業研究所研究員)

小渕政権以降の財政政策の拡大、ゼロ金利政策などの超金融緩和によって無理矢理持ち上げられていた経済は、政策の効果が少なく、弱まると、あっという間に下降しはじめた。日本経済は、いわば薬でようやく生きながらえているような状態で薬(財政政策・金融政策)が切れると途端に動けなくなる重病人なのである。では、何が日本経済の病気なのか。

問題は、経済の血液循環をつかさどる心臓、すなわち、銀行などの金融システムが極めて脆弱な状態にあることだと私は考える。金融システムが脆弱であるために、資金を必要とする成長産業に十分な資金が行き渡らず、経済成長が停滞する。また、金融不安の懸念が拭いきれず、景気がちょっとしたきっかけで失速するおそれを国民が持つ。こうしたことから人々の将来不安が増幅され、消費や購買が低迷し、ますます経済が脆弱化する。

こう考えれば、日本経済が目指すべき方向は明らかだ。「強靭な金融システムの再建」である。しかし、そのための政策手順は必ずしも明らかではない。私は不良債権の一斉処理を迅速に進め、その間の倒産や失業の「痛み」に財政支出(失業者の救済等に限定)や金融緩和という鎮痛剤で緩和するという政策を行うべきだと考えている。不良債権処理が進めば、銀行等の財政体質が改善し、金融システムの改革も進むと期待できるからである。

巻頭言の野口悠紀雄は、「小泉内閣に対し構造改革と叫ぶことは誰にでも出来るが、問題はそれを実行できるかどうかだ」とし、世論の圧倒的な支持にもかかわらず、株式市場は小泉内閣の経済政策を評価していないことを指摘している。手厳しい論調である。結論は、「日本社会の構造を根本から変えないと日本は21世紀に生きのびられない。そして、数年すれば日米逆転という類の議論は無責任だ」と付け加えている。

提言の小林慶一朗は、不良債権処理を迅速に進めるべきだ、としている。この意見も、リチャード・クーの意見とは異なる。主力銀行13行の2002年3月の不良債権処理額は、6兆2620億に上る予定である。株価が下がり、土地の価格も下落し、倒産予備軍を多く抱える現状では、不良債権がいつまでたっても減らない状況にある。2002年度はかなり厳しい年になりそうである。


北原 秀猛

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•  不良債権処理問題
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