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日本経済 生か死かの選択〜良い改革・悪い改革〜表紙写真

日本経済 生か死かの選択〜良い改革・悪い改革〜

著  者:リチャード・クー
出 版 社:徳間書店
定  価:1,600円(税別)
ISBN:4−19−861429−6

「聖域なき構造改革」の中身には「規制緩和」「財政再建」「不良債権処理」の3つの柱がある。「規制緩和」は民営化や行政改革を含む本当の意味での構造改革の部分であるから、全速力、全力投球でやって欲しい。だが、あと2つの「財政再建」と「不良債権処理」は、バブル崩壊の戦後処理であり、これは決して急ぐべきではない。急ぐと経済全体がさらに悪化するだけでなく、政府の財政赤字も銀行の不良債権も今よりずっと増えてしまう。

日本経済を大きく減速させ、力を失わせてしまった原因は、一言で言えば「バランスシート不況」である。何十年に1回起きるか起きないか、と言われる極めて特殊な不況である。日本経済の基本的な構造を見ると、特に戦後の日本経済は2つの大きな車輪があって、その両車輪の実にうまいタイミングで回ってきたと言える。その1つは、日本人の家計に占める貯蓄率の高さである。もう1つは企業の高投資である。1980年代までの日本企業の投資比率や借金依存度は世界的に見ても大変に高かった。国民が貯蓄し、そのお金を企業が一生懸命借り入れて、新商品の開発や設備投資に投じてきたのである。

ところがバブルが崩壊し、土地の値段は6代都市の商業地でピーク時の83%ダウン、ゴルフの会員権に至っては10分の1である。このような状況におかれた経営者は、消費や投資を極力抑制して、そこで借りた資金を借金返済に回している。そうなると経済全体の需要は減少し、景気は悪化する。悪化すると資産価格はさらに下がる。これを皆が同じようにやるから「合成の誤謬」に陥ってしまっている。この10年間家計は、ほとんど行動をかえていない。すなわち1990年日本がバブルの絶好調だった時期も、10年後の1999年も家計はGDP比で7〜8%の貯金をしているのである。

3500社ある上場企業のうち借金返済に走っているのが2000社近くあり、借り入れを増やして事業を拡大しているところは1000社弱しかない。残り500社の借金額は不変である。民間企業が一斉に借金返済を行うと、大きな需給ギャップが発生する。そこで政府が景気対策という形で民間に余っているお金を借りて使うことによって、その需給ギャップを埋めてきたのである。有史以来、人類の歴史のなかでGDP比2.5年分の約1300兆円の富を失った国が大恐慌に陥らなかったのは今回の日本だけである。

バランスシート不況は民間対民間の問題であり、全体の所得を維持しながらみんなが少しずつ借金を返済するようにしていくしかない。借金の額をどの程度減らせば人々は安心するかということを考えると、2003年ぐらいではないかと感じている。

クルーグマンMIT教授は、「日本はただでさえ需要が足りない時に、構造改革の名の下に失業や倒産を増やす政策を操って、どうやって景気が良くなるのか理解出来ない」と小泉ブームに難問を呈している。小泉政権が発足した同時期の2001年3月末で全発行株式数の約10.3%を金融機関が保有していた。しかし、小泉内閣の誕生以来、株式だけで100兆円の時価総額が失われている。すると、金融機関の損失は10兆円という計算になる。金融政策が効くためには、中央銀行が下げた金利に反応して民間の誰かがこの金利ならば何かをやってみようか、家を買ってみようか、設備投資をやってみようかという気になリ、銀行でお金を借りて使わなければいけない。現在の金融システムリスクとは、端的にいえば、資産の売り手はたくさんいるが、買い手がほとんどいない世界のことをさす。財政による景気の下支えを削減し不良債権処理を急ごうとする竹中大臣の政策は、ハイリスク・ローリターンの政策としか言いようがない。不良債権処理が破綻した借り手企業を清算して淘汰するということであれば、そこから発生する連鎖倒産や失業が景気に与えるダメージは大変大きなものになろう。しかも、景気が悪化すれば資産価格は更に下がり、不良債権はさらに増えることになる。

過去10年間の不況の原因は家計がこの10年間、相変わらず多額の貯金をしているのに、以前はそれを借りて使っていた企業が、資産価格の下落でバランスシートに大きな穴があいてしまった結果、借金返済に回ってしまったことから発生した民間の需給ギャップにある。そして、その穴埋めをしてきたのが政府の財政支出であった。小泉政権に注文をつけると、小泉内閣の改革の99%が供給側の話であって、「骨太の方針」のなかには需要をどう創出するかという話は全く入っていないことである。

以上のような内容である。要は、今日の日本環境において国民は貯蓄をしないで消費に励むことが求められている。そのためには、政府は需要創出の促進策を案出し、規制緩和を行い、国民の不安を払拭するために、明確なる日本のビジョンを掲げなければならない。

しかし、日本の問題は、今日のように困難な問題にぶちあたっているにもかかわらず、与党内でさえ意見の統一が出来ず、首相の指導力も発揮できない。その大きな理由は政治家、官僚や民間企業も既得権益を守ろうとしているからに他ならないのではないか。日本の常識は世界の非常識なのである。


北原 秀猛

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•  聖域なき構造改革
•  規制緩和
•  財政再建
•  不良債権処理
•  貯蓄率
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•  合成の誤謬
•  バランスシート不況


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