日本では、今世紀末までに人口が半分程度に減少すると推計されている。と言うことは、1人当たりの付加価値生産性が2倍にならなければGDPの水準を維持することすら出来ない。プラス成長を実現するには、生産性の持続的な上昇を出来る成長分野へ経済資源を集中しなければならない。
小泉内閣が掲げる「聖域なき構造改革」を同時に行ったら、2001年の成長率1.5%のマイナス、2002年度は恐らくそれ以上のマイナスになるだろう。2002年の秋頃には失業率も7%を超えることになるかもしれない。潜在的な失業者を合わせれば、実質的に14から15%といった数字だろう。そういうものを改革に伴う痛みだといえばそれまでだが、多少の痛みは覚悟のうえと言っても、これは多少どころではなく“激痛”となる。そのため、日本経済は今後、5年から10年間に渡って低迷が続いても不思議ではない。
日本が迫られている構造改革は、1年や2年でどうなるものではない。今、小泉総理が断行しようとしている改革によって、すぐに景気がよくなるわけではない。仮に、小泉内閣の改革が成功したところで、改革に要した時間と同じくらいの時間をかけないことには、景気は浮上しない。おまけに、小泉内閣は改革路線の流れのなかで緊縮予算を組んでいる。テロの問題もからんで最終的にどうなるかわからないが、今後数年は緊縮財政にせざるを得ない。日本はこれ以上財政赤字を増やすわけにいかないからだ。日本経済は90年代に入って、1%程度の成長しかしていない。それでも何とかプラス成長ができた1つの要因は、アメリカ経済が好調だったからだ。アメリカへの輸出によって日本経済はかろうじて成長を維持できていたのだが、その頼みのアメリカが経済もいまや不振である。日本経済にとって明るい要因は1つもなく、これまで以上に難局を迎えざるを得ない。
その日本経済の柱といえば製造業だが、この製造業の先行きが怪しいものになっている。1つはグローバル経済の進展によるものだ。グローバル経済化によって必ずしも国内で生産する必要がなくなった。と言うより、国内で生産すれば、コスト高でかえって不利になる。日本の会社はより労働力の安い土地に工場を建てたりしている。日本以外のより安いところから部品を調達したりもする。日本はいまマイナスの要因で溢れている。不況のスパイラルに陥っている。2001年にはすでに大手スーパのマイカルが倒産したが、こうした大型倒産はさらに続くと思われる。
2002年度の景気見通しを一言で言えば、バブル崩壊後最悪である。もっと言えば、戦後最悪と言うことになるだろう。そもそも小泉首相がいま行おうとしている政策は、ある意味で「デフレをやる」ということである。そこで大型倒産が起こり大量の失業者が出ることは確実だが、その次に出てくる雇用を含めた新しい産業のイメージを誰も持っていない。小泉内閣が掲げた構造改革に関する方針、いわば「骨太方針」では、7つの重点項目に関して先取りでやるという。だがこの7つは「循環型経済社会の構築など環境問題への対応」「少子化・高齢化への対応」「人材育成・教育」といった未来志向のものがほとんどで、目下の不況対策としては、大きな効果が期待できない。この先の景気は悪くなる一方と考えざるを得ない。2002年度の予算について見た場合、国債を30兆円以下に抑えるというのは、相当厳しい抑制である。普通なら33兆円、あるいは34兆円に近い国債を発行しなければならない流れにある。マイナス成長の流れは、今のままで行くと2002年度も続くと見て間違いない。
「改革なくして景気の回復なし」というわかりやすいスローガンを掲げたことによって、景気に対する当事者能力を放棄してしまった。改革の方はどうかというと、これも足踏み状態である。2002年4月から始まるペイオフに銀行が耐えることが出来るかというと問題がある。その銀行が潰れた場合、1000万円を超える預金については返ってこないと言うことで、預金がさらに逃げていく可能性がある。また「改革なくして回復なし」ということで、改革を始めてみたが、どんどん景気は悪くなる一方である。改革の流れのなかで財政資金をばらまくわけにはいかないということで、もはや公共事業にも頼れない。それでも国債を30兆円は新規に発行しなければならないわけで、絞ったところで3年間30兆円も出していけば、公的国債が1000兆円になる日も間近である。現在日本が抱えている公的長期債権は666兆円で2002年度末には700兆円を軽く超える。格付機関のムーディーズは、最近日本の国債の格付を下げる方向で見直しを発表した。いま日本はAa2だがAa3にするという。これはイタリア並みの格付である。格付の低下は、日本の国債価格低下と長期金利の上昇を招く。また日本の国債の格付が下げられれば、日本企業が発行する社債の格付も落ちていく。企業の資金調達にこれまで以上のコストがかかるようになり、このことが企業を苦しめることになる。この改革で“痛み”を覚悟するように国民に訴えているが、いまのやり方では必要以上の激痛を強いることになってしまう。それにより、せっかくの手術も成功がおぼつかなくなりかねない。とにかく優先順位をはっきりさせることだ。そのプライオリティは、まず不良債権の処理を最優先課題にすべきである。
以上が高橋乗宣氏の論旨である。リチャード・クーと根本的に違うのは、「不良債権処理」の考え方である。高橋氏が指摘しているように、改革プログラムは官僚と族議員の抵抗にあって先送りの骨抜きなのである。2002年に消費にとっての明るい材料は5〜6月に韓国と日本で開催されるワールドカップサッカーぐらいである。失業が増える傾向のなかで景気の回復は見込めないし、企業倒産も増えると考えざるをえない。
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