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ダートウゾス教授のIT学講義

著  者:マイケル・ダートウゾス(マサチューセツツ工科大学 コンピュータ・サイエンス研究所所長)
訳  者:栗原 潔
出 版 社:株式会社翔泳社
定  価:2,200円(税別)
ISBN:4−88135−995−9

本書は情報技術のまったく新たな方向性と、(人間がコンピュータに奉仕するのではなく)コンピュータを人間に奉仕させるための方法について論じている。

情報通信技術は、人類をより幸福にできる可能性を持っている。しかし、いま私たちが目指している方向性では、そのような目標を達成することは出来ない。コンピュータに対してまったく新しいアプローチをすることなしには、人々の混乱をますます増大するだけで、IT革命が成就することはないだろう。

私の推定では2020年までには、およそ40兆ドルの情報関連労働が情報市場を流通することになる。これにより労働力の世界的分布が影響を受ける。例えば、5000万人のインド人が英語の読み書き能力を活かして遠隔地から、現在の3分の1のコストで英語圏の先進国にサービスを提供出来ることを想像してみてほしい。このような世界的な労働力の再配分は、経済的に大きな影響をもたらす。

1つの質問として、「自分または自分の組織にかかわる極めて重要な信頼性が高く、タイムリーな情報源は何だろうか」。仮に貴方が小規模な医院で働いており医師や看護婦が疾病、症状、医薬品に関する多くの医療データベースをまだ使用していないとしよう。また地理的条件により、多くの皮膚病患者が訪れるにもかかわらず、アーランゲン大学がDermLSと呼ばれる画像、症例、履歴などから成る世界でもっとも大規模な皮膚科学データベースをウェブ上で無償公開していることを知らないとしよう。これらの情報が有用だと考えるのならリンクを作成しよう。多くの医師がさまざまなウェブ上の無料のデータベースを使ってくれと毎日のようにせかされている状況を考えれば、このような試みは当たり前のように思える。しかし、人間中心型システムにおける目的は、人々をおもしろがらせることではなく、人間にとっての真の有用性を追求することなのである。医師が膨大な情報のなかで途方に暮れているなら、そのなかから正確でタイムリーで目標に合致した情報を拾いだす作業を誰かがしなければならない。

多くの病院が患者の記録を膨大な紙のファイルからコンピュータ化できないかを研究中である。この作業は、変換負荷、プライバシーなどの課題により、高コストで複雑であるが、正確性の向上、品質の向上、将来のコスト削減により、医療産業の効率性を劇的に向上させることにもなるだろう。興味深いことに、このような作業のコストはコンピュータが集中化されていた時代と比較して、はるかに低下している。ボストン小児病院では新規システムへの変換コストを1000万ドルと見積もっていたが、ウェブを活用した分散方式の採用で、実際のコストは120万ドルで済んだ。いくつかの医療機関のシステムでは、薬品の注文処理が完全にコンピュータ化されており、多大な利益が享受されている。この新たな状況下で企業の情報に対する注目度は向上しているのだろうか。ある程度の向上は見られるが、決して十分といえない。

2000年4月にオハイオ大学の医療センターが、手術台から6メートル離れたコンピュータ・コンソールから、ロボツトを操作して心臓外科手術を行うデモンストレーシヨンを行っている。通常、外科医が心臓手術を行うためには、患者の胸の内部に手を入れるために胸部を切り取り、筋と肋骨の一部を取り出すが、ロボツトの手は人間の手よりもはるかに小さいので、骨の間を通して手術を行うことができる。このため、患者の外傷をはるかに小さくでき、回復時間も短縮できる。原理的には、大陸をまたがって手術を行うことも出来るし、異なる場所にいる専門家たちが、同時にロボツトを操作することも可能なはずだ。

しかし、このような生死にかかわる問題を支援できるようになるためには、コンピュータとネツトワークの信頼性がいまよりもはるかに向上しなければならない。とはいえ、機器の使用をともなう同期型コラボレーシヨンは確実に多様な分野で使用されるようになり、思いもよらなかった分野で私達の生活に貢献することになるだろう。

医師が医療記録、X線写真、MRIスキャン、検体結果などのハイパーファイルを使用して会議をしたり、外科手術を遠隔地から監視して助言をしたり、遠隔地から患者の診断を行うことが可能になるだろう。

21世紀のはじめにインターネット上でもっとも普及しているコラボレーシヨン・テクノロジーは、電子メール、そしてメールと切っても切り離せない存在の添付のファイルである。1日あたり15億件のメールがやりとりされていると推定されている。私たちが的確に現状からの軌道修正をすれば、この親しんだテクノロジーから大きな利益を得ることができるようになる。これらのアプローチとは、音声認識、自動化、協業、カスタマイゼーション。私が人間中心型テクノロジーと呼んでいる5つの要素である。

私たちが「非本質から本質へ」と向かう最終的な道は、IT革命を越えた地点にある。IT革命の重要性の増加により、この道が近付いていることは確かだ。この道に至るには、私たちが自分のなかで人間性の各次元をどのように扱っているかが大きく関連する。

本書で述べられている人間中心型コンピュータのアイデアは机上の空論ではない。MTIコンピュータ・サイエンス研究所における産学協同プロジェクトである「オキシジェン」により試行が開始されている。「未来を予測するのではなく、未来を作り出す」という著者のメッセージには迫力がある。このような考え方のもとに研究され、未来を2020年において実践されようとしていることを、われわれは知らなくてはならないだろう。


北原 秀猛

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•  情報通信技術
•  医療データベース
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