本書はビジネスを行うすべての人々に未来のデジタル・ビジネスデザイン(DBD)への道を示す企業の成功(あるいは苦闘や挫折)の物語が持つ経済的・組織的な影響を紹介している。
本書は、第1章から第15章までに分れ、そのうちデル・コンピュータ(第4章)、セメックス(第5章)、チャールズ・シュワブ(第7章)、シスコシステムズ(第9章)、の企業を紹介し、DBDが可能にする驚くべきデジタル化に伴う企業の文化や価値の質的変化を明らかにしている。
GE(第12章)、IBM(第13章)では、それとは異なる種類のケーススタディを紹介している。それらは、自らをデジタル・ビジネスに変えようとしているGE、IBMという2つの伝統的巨大企業が現在体験していることで、従来型の企業がデジタル・ビジネスに変わるために必要なこと、乗り越えるべき問題や障害の概略が述べられている。
第14章では、さらにもう1つの種類の企業物語、すなわちインターネットを基礎として持続可能な、そして収益性の高いDBDをつくり出した極めて稀な大規模企業の成功を伝えている。
この20年間で企業やその指導者たちは、「デジタル化」が人々の仕事、娯楽、通信、購買、販売、生活に変革をもたらしつつある破壊的かつ創造的な力だということに気付くようになった。この環境下において、そもそも「DBD」とは何かというとその大要は、デジタル技術を用いて企業の戦略の選択肢を拡大させるある種のアートであり、サイエンスである。DBDは、テクノロジーそのものを指すのではない。顧客の要求を満たしたり、ユニークなバリュー・プロポジションを生みだしたり、人材を活用したり、生産性を抜本的に向上させたり、利益を拡大することを指す。デジタル化の選択肢を用いて優位なだけでなく、「ユニークな」ビジネス・モデルをつくり上げることをいうのである。
デジタル・ビジネスは顧客に与える恩恵、持続的な成長率、人材開発力、財務実績という点において、わずか数年前まで不可能と思われていたものを成し遂げる。DBDに移行するには、次の5つの重要な質問を順番どおりに問い、答えることが必要である。
- 自分の組織が現在直面している最も重要な事業課題はなにか。
- その事業課題に対応しうる最も賢明なビジネスデザインの選択肢は何か。
- 主要な事業活動のうちアトムの管理を伴うものはどれで、ビットの管理を伴うものはどれか。
- どうすればアトムをビットに置き換えられるか。
- どうすればビットエンジンを生み出し、ビットを電子的に管理できるか。
これら5つの質問から、貴方の事業のデジタル化を考えるための最も効果的な出発点が得られる。優れたビジネスデザインには、次のような特徴がある。
- 顧客との強い関連性
- 事業領域(提供される製品や行われる価値連鎖の活動)に関する社内の一致した決定
- 傑出した利益モデル
- 将来のキャッシュフローにおいて投資家の信頼を高めるような差別化と戦略的コントロールの強力な源泉
- ビジネスデザインを支え、人材を有効に活用する組織のシステム
- 会社内外の情報を管理、配信する強力なデジタルシステム
DBDが生みだすものは生産性の増大、コストの削減、顧客サービスの向上だけにとどまらない。それによって多くの仕事がより価値の高いものへと再定義される。
本書が強調することは、まずはビジネス上の問題点の理解、次に戦略デザイン、そしてデジタルである。その実現により、著者は以下の6つのことが達成できると明言している。
- 戦略的選択技の可能性の拡大
- 最も効果的な方法での顧客満足度の向上
- 差別化を実現させる新たなバリュー・プロポジションの実現
- 社内人材の貴重な時間を低価値な仕事から解放
- 10倍増の生産性向上の実現
- 収入、利益そして企業価値の増大
本書ではそうしたDBD企業の優れた戦略を描くとともに、オールド・エコノミーの代表格である伝統的大企業のGEやIBMがどのようにDBDへの変身を図っているかも詳述している。そこには、いかに官僚的で複雑な巨大企業でもDBDを実現する可能性があることが示されており、苦境に喘ぐ日本企業にとって学ぶべき点は多い。
著者の2人は、この数年中にニュー・エコノミーとオールド・エコノミーといった定義付けは、まったく意味をなさなくなると明言している。重要なのは、戦略的にデジタル技術を活用し、業界におけるビジネス上のルールや常識を変えるほどのイニシアティブを握れるかどうかだと言う。
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