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21世紀 日本をどうするか表紙写真

21世紀 日本をどうするか

編  者:吉田 和男(京都大学大学院経済学研究科教授)
出 版 社:シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−431−70799−9

本書は平成12年9月2日・3日の両日にわたって開催された、第8回目「21世紀日本フォーラム・セミナー」における基調講演とそれに基づく討論をまとめた本である。「21世紀フォーラム」は設立されて今年で10年目を迎えようとしている。この会の基本理念は、「言論」を軸にして21世紀の日本を作るのに寄与していこうという主旨で発足している。

内容は3部構成になっており、各部ごとに討論がはさまれている。出席者は多数であるが、民間企業からも牛尾治朗、川上哲郎、村田純一、能村竜太郎などそうそうたるメンバーや大学教授が多く参加して素晴らしい内容になっている。われわれが忘れかけていたこと、気がついていないことなど、大変に啓蒙される点が多い。また、考えさせられることも多く、学ぶ点、自分の教養不足などを気づかせる点が多々ある討論会の内容である。

「この国を脅かす秩序崩壊と精神の退廃、我々に残された最後の選択肢とは何か」――20世紀の日本というのは一体どんな時代であったのか。この100年間は日本にとって非常に大きな激動の時代で、あわや日本国の消滅かというような事態にも至った。しかし、その前半で世界史上まれなる存在、すなわち非白人国において近代化を行った唯一の国となった。そうして世界史の中でヨーロッパ、またその後継者であるところのアメリカに対して、実質的にも非常に強い緊張関係をもってきたのである。また同時に、日本は独自の伝統あるいは歴史、文化といったものを持ちながら、近代化を進めてきた。そうして後半は軍事的緊張関係ではなくて、パックス・アメリカーナという一つの時代のパラダイムに乗る形で経済成長を遂げ、さらに福祉国家建設を行ってきた。あの荒廃から立ち直り、世界の中の経済大国、アメリカに次ぐ大きな経済力をもつに至ったのである。しかし、現在のアングロサクソン型グローバル・スタンダードの中で我々は何を選択し、どのようにしていくかという考え方すらまだ十分にできていない。21世紀は知識、knowledgeが重要になる。つまり投入財としての知識のウエイトが大きくなるわけである。

21世紀日本フォーラムのスローガンは理想主義的保守主義の仕組みから学問の再構築を行い、それによって言論を機能させようというものだった。

この10年間を失われた10年と言うように、世界経済の枠組み、日本を取り巻く環境が激変したのに対応し得えなかった。制度・枠組みが対応し得なかった。あるいは日本人の意識・行動もまったく対応し得なかった。それに伝統的な日本が世界に誇り得るような文化、あるいは精神といったものが戦後失われたため、よけい混乱に拍車をかけたということが言える。さらに、日本社会の「タカリ」構造というものが、改革に際していかに弊害となるかを痛感する。日本の経済体制、社会体制の転換が非常に遅れた原因の一つがそこにある。

日本では明らかに80年代を契機として、経営者のモラル・ハザードが起こっている。この10年間、世界の経済で起こってきたことは、やはりアメリカを中心とするような世界経済の再編成だったと言って間違いない。明らかに80年代から90年代にかけて世界のグローバル化はアメリカの経済の立て直し政策のみで、戦略的貿易政策とか管理貿易政策も含めた意味で、アメリカの経済政策のあり方によってかなり大きく左右されている。IT革命というものを考えてみれば、明瞭にアメリカが95年から打ち出してきた戦略であるし、金融のグローバリズムと情報化は95年頃からアメリカの経済政策の柱になっている。日本の場合、情報がアメリカに偏りすぎているということと、日本の大学教育に問題があったと言える(例えば国際金融・国際証券市場について講義は行われていない)。

21世紀の世界では、人口について奇妙な現象が進行すると予測されている。それは世界の先進国の諸民族には人口減少が起こり、開発途上国では人口爆発が起こるということだ。少数民族を除くと、ロシア人、ドイツ人、フランス人、アメリカ人の白人人口、日本人の人口がすでに減少し始めているか、近い将来減少する。しかし、インド、回教圏、アフリカ、中南米では人口は激増している。日本の前途について一番心配なのは、少子化とそれに関連する国民の道徳力の衰えである。日本のような世界一の援助国が衰退すれば誰が世界の貧民を援助するのか。しかも、人口が減少して国家民族が発展するのは難しい。21世紀の先進諸国において一番大切な国際競争な「道徳競争」だ。このため不可欠なのは、日本人が誇りと自信を取り戻すことである。

日本がアメリカ並の経済効率を高めるためには、3つのことが必要である。現在の日本では人件費と、借入金、設備総額償却費、この3つが10年前に比べて30%、世界標準よりも30%高い。人件費、借入金、設備をすべて3割減らさなければならない。これがリストラの基本である。アメリカでは人件費を3割減らすときには自分たちの業界から3割退場してもらうという発想をもつ。

日本人は一国繁栄主義、一国平和主義を終えて、世界とともに生きる覚悟、世界の繁栄と日本の繁栄が共存することを考えないといけない。日本人はいつも「これだ!」と言うと、皆が「そうだ!」ということでネズミが走るように走りだす。ITも大事だが、古くからあった企業の中で真面目にこつこつ働いて立派な仕事をしている人も生きていけるような社会システムを作る必要がある。

最後の節が「21世紀における日本人のあり方」である。この中で「親が子供に伝えるものは親孝行と国家である」の言葉などは、非常に印象深い。そして、21世紀、日本人は何に感動すべきなのかというと、自然科学の新しい発見にでも魂が震えるだけの感動を持てなくてはならない。

以上が主立った内容である。「21世紀日本のコンセプト」、「世界の中の日本」、「21世紀の日本人のあり方」の3部構成で素晴らしい討論が展開されている。一読を是非お勧めしたい。


北原 秀猛

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