Ternとは鳥の「アジサシ」のことである。リトル ターンはコアジサシのことで、この物語の主人公である。リトル ターンは、長く細い翼と、深い切れ目の入った尻尾で識別できるが、そのくちばしは黄色く、額に白い楔形の紋様があるのが特徴だ。また、短い脚部と小ぶりな足は、地上に長くとどまるようにはデザインされていない。要するにリトル ターンは陸のツーリストではあっても、あくまで空の住人なのである。
リトル ターンのその他の特徴は、思うがままに空を飛翔する能力と超能力的な方向感覚、見えない真理を悟る直感力を持っている。そのリトル ターンがある日突然飛べなくなってしまう。生活は劇的に変化するわけである。彼はそこで翼、羽、尻尾など部品を二度三度チェックするがどこも壊れていない。そこで内面に問題があり、内面が壊れたとの結論に達する。そして、海岸線で暮らしはじめるのである。
日々の生活の中で、砂に咲く紫色の花に出会ったり、奇妙な「ゆうれいかに」と友達になる。ゆうれいかにとの会話の中に、「普通とか普通でないとかいう見方にとらわれている限り、普通でないものは普通じゃないんだ。きっと君は、自分が知っていることに慣れすぎているんだよ。君はこれから自分が知らないことも知る必要がある。それだけのことさ。何が真に重要かってことさ。例えば君のコレクションだ。君が集めているものの中で何が本当に重要で、何がそうでないかに気づかなくっちゃ」などが交わされる。
リトル ターンは、そうこうしている間に自分が飛べない状態をあるがままに受け入れることができるようになる。それから、とても自然に自分の長い翼を風の中に持ち上げ、大きく広げて、海岸の端を素直に旋回した。すなわち、飛ぼうとしないのに飛べるようになるのである。
訳者の五木寛之さんは、「飛べなくなった痩せたアジサシ。彼の心に宿るのは、燃えるような向上心や、上昇志向ではない。サウダーデとか、トスカと呼ばれるような一種、鬱の世界である。これは挫折者の物語、引きこもりの物語と言ってもいいだろう」と言っている。そして、「飛べないことで悩んでいる人、急に飛べなくなって困惑している友に、この一冊をそっと手渡したい」とも言う。
現在、流行のようにリストラが盛んであり、失業率も5.5%まで来ている。倒産企業も多い。昨年一年間で上場企業が14社も消えている。ある日突然にアジサシのように飛べなくなっている人もいると思う。まずは、その現実を素直に受け入れ、自分の持つ“売り物”を再発見して捲土重来をきして欲しいものだ。
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