本書では、ベンチャー企業からプロフェッショナル・マネジメント型企業への移行に成功するためにはどうすればよいか、を考察する。
企業が順調かつ着実に利益を上げながら成長するためには、適度なシステムやプロセスの開発が不可欠だ。また、成長段階において、すべての企業が「成長の痛み」(Growing Pains)を経験している。この成長の痛みは、企業の成長に伴って発生する。企業がさらなる発展を遂げるためには、これまでの成長を支えてきたインフラを不十分なものから、継続的に成長する企業としての規模を支えられるだけのシステムやプロセス、構造へと新たに開発していかなければならない。成長の痛みを無視した企業は、問題を抱えるようになるか、失敗する。本書の狙いは、新事業あるいはベンチャー企業が創設されてからスムーズに成長し続けるためには何が必要なのかを理解してもらうことにある。
本書は4部14章から構成されている。1部では、自分の会社に何が起こっているのか、そして次の段階へ順調に到達するには何をすべきか、についてベンチャー企業のマネジャーが理解できるような概念的フレームワークを紹介している。このフレームワークでは、効果的で収益性の高い組織へと成長するための6つの主要要因、そして移行が必要なそれぞれの成長段階について説明している。
第2部では、さまざまな事例を通して、1つの段階から次の段階へと組織をスムーズに成長させるためにすべきことを考察する。特に、ニュー・ベンチャーの段階から成熟企業に至るまでの重要な最初の4段階について事例を出し、それぞれの企業が直面した問題を紹介し、組織の成長に合わせてそうした問題にどう対処していくべきかを説明している。
第3部では、収益性を維持しながら順調に成長・発展するためには、ベンチャー企業が習得すべき最重要なマネジメント・ツールを紹介する。
第4部では、ベンチャー企業の社長あるいはCEOが直面する移行について説明している。企業を成長させるため、そして自分自身も企業とともに成長していくために何をすべきかという問題に、社長あるいはCEOがフォーカスできるようにすることを意図している。また、初期段階を抜け、ライフサイクルのもっと後半の段階へと移行する過程で企業が直面する問題についても簡単に触れ、「成功した企業」と「失敗した企業」、あるいは少なくとも「成功に至らなかった企業」すべてについて、数多くの事例がふんだんに入っている。
例えば、「売上が伸びれば利益も自然に上がる」という前提で経営していたカスタム印刷の失敗例。また、組織に必要なインフラ(基盤)と、組織が実際に持つインフラの間に存在する組織開発のギャップによって引き起こされる具体的な症状も説明されている。
- 皆が1日の時間が足りないと感じている
- 皆が不手際の処理に時間を掛けすぎている
- 他人が何をしているのかを知らない人が大多数である
- 皆が会社の最終目標について理解していない
- 優秀なマネジャーが不足している
- 皆が「仕事をきちんと終わらせるためには、自分ですべてやらなければならない」と思っている
- 会社の会議は時間の無駄だと感じている人が多い
- 計画はめったに立てられない、あるいは立てられたとしても振り返られることがないため、物事が完了しないことが多い
- 会社で自分の立場について不安を感じている従業員がいる
- 売上は伸びているが、利益はそれほど伸びていない
<組織開発における6つの主要なタスク>
- 市場の特定および定義、できればニッチ・マーケットの形成
- 製品・サービスの開発
- 資源の獲得
- オペレーション・システムの開発
- マネジメント・システムの開発
- 企業文化の管理
以上の成功事例として、コーヒーのスターバックスが取り上げられている。
次に第3段階で成功するための鍵として、以下の3点を挙げている。
- 戦略の立案・発展させる能力
- 適切な組織構造とコントロールを開発する能力
- マネジメント能力を開発する能力
この3番目の教訓は、必要な当事者にとってかなりの苦痛を伴うものだということである。すなわち、ベンチャー企業の「温かい」雰囲気が「冷たい」プロフェッショナリズムに取って代わることを意味する。
戦略課題としては、規模や業界に関係なく、すべての組織が考えなければならない基本的な7つの課題がある。
- どのようなビジネスに参加しているのか
- 競争優位性とその限界は何か
- ニッチ市場を持っているか、あるいは築くことができるか
- 長期的にみてどのような存在にありたいか
- 選択した市場で効果的に競争するための、また長期的目標を達成するための戦略はどのようなものか
- その長期的ミッションを実現するうえで、成否に決定的に影響する重要な要因は何か
- 競争優位性と組織能力を向上させるために、その重要な成功要因に対しどのような目標を設定すべきか
以上の質問に対する答えが、企業戦略計画の主要要素を形成する。
リーダーシップの在り方についても具体的なアドバイスがある。リーダーシップを発揮するためには、目標設定プロセス、目標の伝達、達成意欲の向上、目標に対する業績測定などを行うことにより、目標達成を常に強調することが重要である。有能なリーダーは、組織内の人々が効果的に協力し合うことの重要性を認識している。こうしたインタラクションを促進するために必要なスキルが2つある。効果的に会議を実施・運営するスキルと、チーム・ビルディングのスキルである。有能なリーダーは、仕事志向性と人間関係志向性を併せ持つ。戦略的リーダーシップは、ビジョンの構築、組織開発への貢献、企業文化の管理が含まれる。また、オペレーション・リーダーシップの機能には、目標の強調、インタラクションの促進、業務遂行の支援、目標達成への支援的行動、人材開発が含まれる。
企業文化については、企業文化は企業の価値観、信念、および規範から構成されている。突き詰めると、企業文化は行動の目安であると同時に、報奨や活動において将来期待されるものを創造するメカニズムだと言える。価値観、信念、規範はさまざまな組織の要素により構築されているが、顧客志向、従業員指向、業績基準、および改革に対するコミットメントの4つの分野においてどのように企業文化が定義されているかが、組織の成功に最も影響を与えると考えられる。
最後の章のCEOに要求される移行の中で、ベンチャー企業からプロフェッショナル企業へと移行する上で、絶対に成功する1つの決まった方法などない。起業家が変わる上で重要なことは、以前の会社の形態はもう効果的ではなくなったということを認識することだ。すべての変化にはリスクが伴い、多くの人が変化プロセスにおいて不快感を覚える。しかし、組織の移行およびそれに伴う個人の変化は避けられない。これを信じない場合は、多くの困難に出会うリスクが増えるだろう。
本書は、ページ数が500頁近くありなかなか読み応えがある。アントレプレナーの題名通り起業家、すなわちベンチャー企業向けの本であるが、オールドカンパニーにとってもバイブル的存在と言える。自社の現状と照らし合わせて問題点を見つけ、なぜそのような問題が起き、また放置してきたかなどを確認し、解決策を本書の中から見つけ出すことができる。しかも、具体的な企業の成功例、失敗例がふんだんに盛り込まれているので、わかりやすく参考になる。また、リーダーと呼ばれる人達にも読んでいただき、自分がリーダーとしての役割を本当に果たしているかなど、能力開発にも役立つと確信する内容になっている。
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