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時代が変わった

著  者:堺屋 太一
出 版 社:講談社
定  価:1,800円(税別)
ISBN:4−06−209980−2

今日の世界は、一つの平面に描けるほど単純なものではない。IT産業が生まれた背景には、人類の文明と人間の価値観の大きな変化がある。技術進歩の方向が変わり、アジア諸国や中国の工業化で国際競争が拡大し、地球環境の問題が激しくなった現実がある。つまり、「知価革命」が確実に進展しているのだ。

日本がこの不況から本当に抜け出すためには、規格大量生産型にできあがった金融システムや予算制度を、知恵の時代にふさわしいものに変えるだけでは足りない。社会の各分野に染み込んだ近代工業社会的な倫理と美意識を、知価社会に適したものに改める必要がある。まず、私達が生きてきた「20世紀」を歴史の中に置き、振り返えって見ることが必要である。その20世紀には7つの特色がある。
第一に、20世紀は人口の爆発的増加と、組織的な探査開発が猛烈に進んだ時期であった。
第二に、20世紀は規格化・大量化の時期だった。
第三に、科学技術が飛躍的に進歩した。
第四に、社会における地域共同体の崩壊と法人の増大だ。 第五に、強力な権力を持つ国家が実現し、地上のすべてと海洋の大きな部分を分割し統治した。
第六に、家庭の役割の大部分が社会化された。
第七に、情報が急速に広域化した。

20世紀的特色は、1989年末にはじまった冷戦構造の消滅とバブル景気の崩壊によってほぼ終わった。それから12年、世界はこれまでと違った方向に進みつつある。

本書は、11章で構成されており、7章までは世界的に歴史を振り返えって記述した内容になっている。そして、何事につけ、その最盛期には正反の流れが渦巻く状況が生じる。従来の方向を一層推し進めようとする惰性的な流れと、それまでの情況を脱して新しい方向に変えようとする破壊的な動きとがすれ違い、大きな「渦」をつくりだす。

第8章は「最適工業社会・日本の落とし穴」で奇跡の成長の理由を次のように整理している。
第一、 1950年代のキャッチアップ期
第二、 60年代の高度成長期
第三、 70年代の大量生産確立期
第四、 80年代の最適工業社会の完成期
第五、 90年代の「失われた十年」である。

そして、80年代末。日本人は官民老若を問わず、この完璧な近代工業社会に誇りと満足を感じ、これから後も日本の経済と文明が発展することを疑わなかった。同時に土地ブームが起きた。それらが、90年代の日本が不良債権と過剰設備の圧力に苦しむ結果を生んだ。日本が停滞している間に「知価革命」が起こっていたのである。

第一に、世界の先端を行く米国や英国で製造業が衰退し、代わって知価創造的な産業が経済成長と企業利益の主要な源泉になりだした。つまり「知価社会」がはじまった。

第二に、近代工業社会の論理「規格大量生産にとって最大の利便と幸せが得られる」という前提でできあがった社会主義国家群が崩壊し、世界の冷戦構造が消滅した。

第三に、近代工業社会にもっとも適した発想と構造の「最適工業社会」をつくりあげることで繁栄していた日本が没落した。

第四に、経済と文化のグローバル化が撤定し、アジア諸国や中国の工業化がはじまった。この結果、工業品輸出力を持つ人口が三倍に増加し、世界はメガコンペテシヨン・エイジに突入した。

そして、知価革命を推進させた第二の要素は、「人口」の変化である。それは、世界の経済社会に積極的な影響を与える人々の数、「有効経済人口」のことだ。

なぜグローバル化が進んだのかは、第一は、地球上を流動するモノ・カネ・情報文化の量が巨大化したことだ。第二は、巨大化した流動性がより高い効率を求めて最適配分にありつける迅速低廉な移動の体制を求めだしたことだ。第三は、それを大胆に推進した為政者、サッチャーとレーガンが現れたことだ、と言う。

知価革命を引き起こした第三の要素は「ニーズのソフト化」だ。

世の中の変化は、水が沸くのに似ている。鍋の水を熱くすると、まず小さな気泡が現れ、水面に上がっては消える。さまざまな改革案が提唱されるが、結実することなく消える状態が繰り返されるのだ。沸騰した水は、やがて水蒸気となって爆発する。近代工業社会にそれが起こったのは1989年だ。社会主義が理論的政治的破綻した1989年。近代の終わりを告げるもう一つの事件が起こっていた。米国、西欧、そして日本でのバブル景気である。

2001年12月、中国WTO加盟が正式に決定した。これによって世界経済構造は、また大きく変わるだろう。日本は世界の事業家にとって投資魅力のある国であらねばならない。そのためには、日本で行うことが効果的・効率的だと思われることだ。そして、総体としての生産性の高い国である必要がある。

終章で、「日本は今、何をすべきか」でまとめている。

  • 「時代が変わった」まず、それを認識しよう
  • アンラーニング 20世紀を忘れよう
  • 新しい正義 楽しさは人生の目的だ
  • 官僚文化の否定 試験で人材は選べない

次いで4つの政策転換を提案している。
第一は金融改革、特に金融思想の転換である。
第二の政策転換は教育改革、「欠点をなくす教育」から「好きを伸ばす教育」への大転換
第三は、都市と土地に関する発想を変えることだ。
第四に、これからも日本が世界経済の主要なプレーヤーであり続けるために、人口と施設と公共サービスを効率的に配置することだ。

以上が内容だ。著者が1年かけて書き上げたという通り、かなりの力作だと思う。歴史を振り返り1つ1つ検証し、何故そのようなことが起きたのかまで突っ込み、読者にいろいろな角度から考えさせ、1989年を境に日本を取り巻く環境が大きく変わった。しかし、その変化を日本は見落としてしまったのだ。その時代が変わったことを認識し、対応をしていかなければならないことを力説している本である。


北原 秀猛

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•  堺屋太一
•  知価革命
•  失われた十年
•  近代工業社会
•  少子・高齢化
•  ニーズのソフト化


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