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岡崎久彦の 情報戦略のすべて

著  者:岡崎 久彦
出 版 社:PHP研究所
定  価:1,300円(税別)
ISBN:4−569−62023−X

岡崎氏は、東大在学中に外交官試験に合格し、外務省に入省。1955年にケンブリッジ大学で修士を取得。後に初代情報調査局長に就任。その後、サウジアラビア大使、タイ大使を歴任。現在は博報堂の特別顧問である。

本書は、政策提言が目的である。著者曰く、「日本はいかに周囲の情勢に盲目のまま、或いは半可通のまま行動してきたか、そして、その結果である状勢判断の誤りが、いかに決定的に国を誤り、国民に塗炭の苦しみを味わせたか、悔やんでも悔やみ切れない想いをする」と述べている。本書は第10章と終章の11に区分されて編集されている。

2001年9月11日から2002年初頭に至る米国の論調を見ていると、米国の社会に何か本質的な変化が起きているという感じを禁じ得ない。どう変わったかといえば、端的にいえば、内においては愛国精神、同胞の助け合い精神が高まったことであり、外に対しては、孤立主義と積極介入主義との間の座標軸が明らかに後者の方に動いたということである。

今後の国際政治に大きな影響があるだろう。たとえば、ブッシュ政権は、就任前から、「自由のために有利なバランス・オブ・パワー」を築くと言っている。台湾海峡で事があった時、米国が台湾を守る確率は、テロ事件前よりも現在の方が高くなっているということは客観的に言えると思う。

2001年の夏頃、その年前半の経済統計が出てくるにつれて、アメリカ、日本、台湾、東南アジアが不況で停滞している中で、中国の独り勝ちが明らかになった。中国経済の伸展には歴史的背景がある。ケ小平の改革開放路線は1978年からであり、その年に大学に入学した若者は、2000年で40歳となる。今までは、国際経済慣行に通じたビジネスマン、国際水準の品質管理のできる技術者の不足が最大の問題だったが、それが急速に改善されてきた。そうなると賃金の低さが圧倒的な力を持つ武器となり、世界のどの国もかなわなくなったのである。日本が心配することは、中国経済がどんどん大きくなり、国力、軍事力が増大して、東アジアの力のバランスが崩れることである。そして、また、客観的に見てもその可能性が断然大きい。

日本経済の将来は、今のところ誰にもわからない。ただ、60〜80年代の高度成長時代の国際的比較優位を回復する客観的可能性はもうないと考えるべきである。中国との差が縮まることも避け難い。とすると残る可能性はイギリス、オランダのような形にソフト・ランディングするか、あるいは、そうしているうちに、90年代のアメリカのようになんらかの革新によってもう一度躍進のチャンスがくるのをまつか、ということになる。

日本の対外政策は、まず日本の国家理想と国益を決定し、それを実施するための政策を押し進めるというのではなく、まず、国際情勢の動向を察知して、その流れに乗りながら、その流れの限られた範囲で、国家理想の実現を追及し、あるいは国益の伸長をはかるということである。その意味で情勢判断と見通しは、政策よりも先行する。日本のようなサイズの国こそ、情勢判断が最も重要な意味を持つ国であるにもかかわらず、情勢判断は従来さほど重視されていなかったように思われる。

情報の処理は、まず蒐集、ついで整理分析、最後に伝達で終わる。伝達に際してはいわゆる保全、つまり秘密の保持ということも入って来る。ただ、ここでは、国際情勢の物の見方ということが主眼であるため、分析に重点をおく。情報事務の基本は公開情報の分析能力にあるということだ。情報分析には原則がある。

  1. 希望的観測の排除
  2. 専門家の意見の尊重
  3. 一寸先は闇
  4. 歴史的ビジョンを持つこと

日本が国際的に聾桟敷に置かれないためには、秘密を守れる国として信頼されなければならない。

「彼を知り、己れを知れば百戦殆うからず」――この言葉のいちばん面白いところは「殆うからず(危なっかしくない)と言っていて「勝つ」と言っていないところです。客観情勢を見極めて勝てるものならばもちろん勝つ、勝てそうもなければ戦争しないか、あるいは向うから仕掛けられても持久作戦にもちこむかして決戦を避けるようにする、こうしていれば危なっかしいことはない、という意味である。「己れを知る」ということは世間一般の用法でも、身のほどを知る、社会の中に自分が置かれている位置をちゃんと知っているということであって、主観的に内なる自己を見つめるということではない。

情報を得る人件費「百金を惜しんで敵の情を知らざるものは、不仁の至りなり、人の将に非ざるなり、主の佐に非ざるなり」
「過ちを改むるに憚ること勿れ」というのが情勢判断の極意である。情勢判断で信頼できるのは、何度か情勢判断を誤った経験があって、「一寸先は闇」と言う政治現象の真理を知っている人の判断である。何でも、「俺の言ったとおりだ」などと言っている人の判断は危なくて使えない。まして、間違った判断を言葉のつじつま合わせでごまかすなどというのは、もはや情勢判断ではない。外交というのは相手があることで、自分の思う通りにはならない。すべて情報判断のほうが政策に優先するわけである。

情報の管理事務は5つに分かれている。まず情報収集、次が整理、三番目が分析。四番目が伝達、最後が秘密の保全――である。

著者は、今、テレビか面白くないという。それは、50代の団塊世代がディレクターになって番組をつくっているからだと言う。そういう人には「日本の国はどうなる」「日本をどうすればよいのだ」という感覚が薄いからだ。だから、最近は時勢を憂い、日本の将来を論じる番組がなくなってつまらない。

最後の章で以下のように締めくくっている。21世紀を迎えて、日本が国際社会で生き延びていくためには、遅ればせながら、情報体制の整備が不可欠であるが、いまさら百倍の格差を埋めることは不可能であろう。しかし、ほとんど戦前のままで根本的に改良されていない日本の情報組織を、少なくともそのトップの部分だけは情報先進国のアメリカにならって改善し、それに日本独自の条件も考え、亦東洋古典世界的発想を一部取り入れという、米英といえども考え及ばなかった新しいシステムを導入することによって、数億円程度の予算によって、この格差の相当部分を埋めることができる。

本書は、「歴史」をどう読むか、その読み方や「ローマ帝国衰亡史」をもってイスラム社会を知ることなど、大変に示唆にとんだ本である。また、一方では現実問題として、米国と付き合って行く以外には政策の代案がないという現実を直視し、その中で、自らの国情、国益とどう調整して行くかを工夫して行くということしかないなど、はっきり示している。


北原 秀猛

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•  岡崎久彦
•  中国経済
•  情報処理
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