HOME
会社概要
セミナー
教育関連
海外情報
書籍
お問い合わせ
ワールドネット
HOMEUBブックレビュー詳細





戦略経営コンセプトブック2002の読み方表紙写真

戦略経営コンセプトブック2002

編  者::ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン
出 版 社:東洋経済新報社
定  価:1,900円(税別)
ISBN:4−492−53128−9

ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンは1914年米国で創業され、現在世界100カ所以上のオフィスに10,000名以上のスタッフを擁する世界規模の経営コンサルティング会社である。

本書は、「変わらなきゃ、でも、変われない」と呻吟する企業が多い。この問題意識に基づき、「長年変革が叫ばれているにもかかわらず、変われない現実にどう対処するか」について、メスをいれた解説書である。内容は、4章に分類されている。

第1章「チェンジリーダー」では、変革におけるリーダーシップの問題について論じている。英雄待望論で時間を浪費するのではなく、組織そのものに「変革の力」を埋め込んでいかなければならない、としている。

第2章「創造性革新」は、少数の異才に会社の将来を託するのではなく、組織全体の構想力・企画力を向上させるために何をすべきか、というテーマを扱っている。企業が新しい価値の創造活動を行うために、組織が備えなければならない「仕掛け」と、それを使いこなすための留意点を述べている。

第3章の「科学的マーケティング」では、変えることが最も難しい課題のひとつである「市場との関係」並びに「顧客との関係」について論じている。多くの企業が、変革の必要性を唱えながら、勘や習慣、そして供給者の発想にとらわれがちなマーケティングから脱却しきれずにいる。科学的なアプローチを導入しようとすると、日本の特殊な事情を盾に阻まれる。大切なことは、勘や習慣や日本の特殊な事情を重んじながらも、マーケティングに新たな発想を導入し、バランスさせることだ。

第4章「オペレーションズ・エクセレンス」においては、漸進的なオペレーションの改善ではなく、抜本的な仕事のやり方の変革ならびにコスト構造そのものの改革の問題を取り上げている。同様の問題意識から、BPR(Business Process Re-engineering)や、SCM(Supply Chain Management)が日本で一時ブームとなったが、果たしてその実態はどうであったのか。成功例だけでなく失敗例からも示唆を得ながら、これらの問題について述べている。

企業再構築に必要なのは「戦略再構築」ではない。企業間の業績格差を生んでいる原因は、「戦略」の巧拙にあるのではなく、その戦略の「実行」の巧拙、すなわち「人と組織」にある場合が多いのである。中でも「組織構造の原理」、「リーダーシップのスタイル」、「評価体系などの組織ソフトウェア」の重要性が極めて高いと考えられる。

多くの企業幹部は、3つの命題への対応を求められている。

  1. 価値の創造:製品、プロセス、ビジネスモデルの戦略的革新を行うこと
  2. 価値創出に向けた人材の誘導:変化を導き、これを推進し、社員がよりパフォーマンスの高い「ヒューマン・エンジン」となるように刺激すること
  3. 価値の現実化:各戦略が目標とする利益その他を現実化し、結果を出すこと

継続的な企業成長は、これら3つの命題すべてが相互に関連づけられたときに初めて実現可能となる。熱烈リーダーとして最も重要なスキルは、変化の必要性を周囲に納得させる能力だ。熱烈リーダーは、自分の考えがなぜその企業にとって最適であるかを、説得力を持って説明できなければならない。

「創造型」ナレッジ・マネジメントに求められる要件は4つが挙げられる。

  1. 大量の情報の中から自分に必要な情報を検索する能力
  2. 検索した情報の有用性を評価する能力
  3. 有用な情報から意味合いを抽出する能力
  4. 複数の意味合いから自分の求める回答を組み立てる能力

これらの要請に応えるナレッジ管理組織としては、(1)マネジメントに指揮された、従来の組織部門から独立したコアチームが、(2)必要に応じて、社内の各部門や外部の専門家を選抜しながら、(3)複数の「合成学習の場」を能動的に設営する、という形態がイメージされる。

日本の大企業には、広告代理店が提案する「コミュニケーション」によるブランド戦略の信奉者が多い。高級感あふれる外観と包装、「おや?」と思わせるような個性的なCMを提供することでブランド価値を確立することができると考えているのである。確かに「コミュニケーション」がブランド形成上重要な位置を占める商品は存在するが(洋酒など)、それだけがブランドを成立させる要素ではない。

「流通販促費用」と聞いて何を思い浮かべるだろうか?多くの方が「流通対策として支払わなくてはならない数%の販促費用」くらいにしか認識していないのではないだろうか?利益率を1%向上させるのも困難な現在でさえ、多くの日本企業において流通販促費用は多額の費用がつぎ込まれる「ブラックボックス」であり、科学的なマーケティングからはほど遠いのが現状である。それでは、流通販促がいまだに勘と経験に基づいて行われているのはなぜであろうか?日本においては流通販促に関する経営のリーダーシップの重要性が十分に認識されていないため、流通販促はいまだに販促部門やマーケティング部門といった現場の仕事として放置され、結果として勘と経験で運用されているのが実態である。

ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンでは、IT産業を含む製造業全般におけるコンサルティングの経験から、包括的なコスト抑制実現のため、トップ7「コストキラー」アプローチというフレームワークを提案している。

  1. 運転資本の圧縮:棚卸資産、売掛金および買掛金を管理・コントロールすることにより、自社のキャッシュポジションを改善する。
  2. ストラテジック・ソーシング:購買調達業務を戦略的視点から見直し、部品ごとに「競争と協調」のバランスをとりつつ、供給サイド・需要サイドの両面からコスト構造にメスを入れ調達能力を構築する。
  3. 製造プロセスの統合・組替え:ボルトネックとなる工程をコントロールし、自社全体でコストを最適化する。汎用モジュール化によるポストポーメント[商品の多様化をなるべく遅い(市場に近い)工程に組み換える]などで需要変動に柔軟に対応する。
  4. SCM:EPR(Enterprise Resource Planning):基幹業務パッケージなどのツールを介した情報共有化により、サプライヤーやチャネルと共同で、ソーシング、製造プロセス、物流および販売までを統合化したバリューチェーン全体の最適化を目指し、リードタイムの短縮及び冗長なプロセスの排除などを行う。
  5. 従業員数管理:バックオフィスやサポートスタッフ機能の効率改善およびシェアード・サービスやアウトソーシングによりコスト抑制とサービス向上を実現させる。
  6. CRM:DBM(データベース・マネジメント)やSFA(Sales Force Automation):営業支援システム、コールセンターなどを活用しつつ顧客生涯価値を最大化し、顧客維持および顧客獲得コストを低減する、また、カスタマーリレーションに関して全社的な横串を通すことで、無駄な人件費や間接費を抑制する。
  7. モニタリングツール:ベンチマーキングや顧客生涯価値(優良顧客の発見・長期維持により収益性の向上や新規顧客獲得コストの適正化を促す)などを適切に測定、評価し、コスト抑制を支援するツールとして活用する。

7つのアプローチやツールに共通するキーワードは3つである。トップダウン、クロスファンクショナル(部門横断的)、全体の最適か、である。

M&Aは、今後の戦略においてますます重要な役割を果すといわれている。しかしながら、必ずしも過去に行われたすべてのM&Aが成功したわけではない。合併時点までに合併後の統合プロセスを進めておく手法=「eマージャー」が効果的である。eマージャーは強力なツールではあるが、成功のための一要素にすぎないこともまた事実である。どんな合併においても、個々の会社ごとに異なる人間的、文化的な要素がより大きな課題であることは現在もこの先も変わらない。合併や提携が企業のビジネス戦略においてますます重要な役割を果すようになる環境下では、成功の可能性を高めるためのあらゆる努力をすべきである。

本書の中に「ゴルフ上手は経営上手」という文章がある。それは1998年の米国の「ゴルフダイジェスト」誌が米国大企業CEOのゴルフハンデのランキングを記載し、企業の業績とハンデとの相関関係を調査。過去3年間で最も株主リターンの高かった企業には、ハンデの低いCEOがいるという結果がわかった。その理由のなかでより本質的なものは、ゴルフも経営も「システム思考」を必要とする点にある。ゴルフの場合、意識を集中し、きちんと訓練した動きを再現することで、複雑系システムのパフォーマンスを向上させなければならない、とある。

われわれは、本書で「創造型」ナレッジ・マネジメント、流通販促の最適化、サプライチェーン・マネジメントなど学ぶ点は多い。付録として最近日本でよく使われる用語として、経営キーワード100が付いている。経営を学ぶ者として大変に役に立つ本である。


北原 秀猛

関連情報
この記事はお役にたちましたか?Yes | No
この記事に対する問い合わせ

この記事に対する
キーワード
•  経営戦略
•  ナレッジ・マネジメント
•  BPR
•  SCM
•  CRM
•  ECR
•  システム思考


HOMEUBブックレビュー詳細 Page Top



掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はセジデム・ストラテジックデータ株式会社またはその情報提供機関に帰属します。
Copyright © CEGEDIM All Rights Reserved.