エリッサ・モーゼスは、ロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス社の上席副社長であり、全社横断的な権限をもつ国際消費・市場情報担当取締役である。モーゼスはシカゴ大学で人間行動学学士号を取得し、ノースウェスタン経営大学院でマーケティングを学んだ。
世界には、15〜19歳までの若者が5億6000万人いる。その大部分が自分で使えるお金を持っており、全世界の都市に住む若者がショッピングに使うお金は、年間総額1000億ドルを超える。若い消費者たちは、どこから発信されたものであろうと最新の情報に貧欲だ。だから、ティーンエージャー向けの世界的なブランドが成立する。そして、あるブランドに興味をもった若者は、かなりの確率で大人になっても同じブランドを選び続ける。したがって、早くから若者達の心をつかめば、生涯にわたる優良顧客をつかむことができるのである。
本書は、世界中の若者の心をつかむための、秘密のルートへとマーケターを導きたいとして書かれている。そして、主要18カ国を考察している。アメリカ、フランス、イギリス、スペイン、ドイツ、オランダ、トルコ、ロシア、ウクライナ、アルゼンチン、ブラジル、インド、中国、台湾、香港、日本、韓国、オーストラリア、の各国である。
日本に対する著者の寸描は、日本はカリフォルニアとほぼ同じ面積でありながら、人口はアメリカ全体の約半分であり、15〜19歳人口は770万人。大多数(77%)が都市に住み、居住空間は狭い。若者たちは物理的な圧迫だけでなく、世界で最も厳しい教育システムで、休む間もなくプレッシャーを受け続けている。多くの学生が、将来を大きく左右する大学入試に向けて、幼い頃から準備をしている。毎年、高校を卒業する生徒の60%が、現役で大学に合格する。そして、15%が翌年も受験に挑戦する。大部分の若い女性は、結婚で仕事をやめてしまう。また若い男性は、両親の夢と期待に応えるために大きなプレッシャーを背負っている。他の国々と比べて、若者達は自分に対して、あまり期待をもっていない。経済に問題があり、仕事の見通しは心もとない。価値観のセグメントでは、諦め派(38%)とスリル探求派(24%)が目立ち、アジアの他の国々よりも、西ヨーロッパの若者たちに似ている。そして、世界の若者たちよりも、日本の若者たちは快楽にはけ口を求め、反抗的な態度に傾いている。驚いたのは、コンピュータの利用率が世界平均に比べてとても低かったことだ。以上が日本に対する寸描である。
さまざまな国籍のティーンエージャーたちを調査して非常に驚いたのは、アメリカが本国以外では、とてもカッコいい国だと思われていることだった。
本書の構成は、10章に分れている。第1章で、著者が世界の若者市場に注目した、そのきっかけについて語っている。第2章は、若者の巨大なお小遣いの流れを追っている。若者の支出が10億ドルを超す21の国がある。1位:アメリカ、2位:インド、3位:ブラジル、4位:日本だが、ブラジルは日本の2倍の支出を誇っている。また、世界のティーンが貯金に熱心な事実はあまり知られていない。第3章では、マーケターの戦略上の指針となる10の「統合化要素」が提示される。第4章は、国ごとにどのような要素を考慮しなくてはならないかが語られている。それは8つの「差異化要素」と呼ばれているものである。第5章において価値観マップを使って、「自己志向:他者志向」「順応型:非順応型」という2つの軸を用いて世界各国の若者が分類されている。第6章は、地域ごとの特徴と対応すべき戦略が述べられている。第7章は、世界18の主要な国の市場が描写されている。第8章は、この10兆市場にどのようにして達することが出来るか、その成功戦略が事例で述べられている。第9章は、ティーンが具体的にどのようなライフスタイルを有しているか、その生き生きとした暮らしぶりが詳細にレポートされている。最後の第10章では、21世紀にどのようにティーン市場が変わるか、そのトレンドに関するアドバイスが書かれている。
ティーンエージャーはブランドが大好きだ。世界のティーンエージャーに認知されているブランドのトップ20では、1位は:コカコーラ、2位:SONY、と続くが、飲料水4つ、食品2つ、クレジットカード2つが2つ以上として目立つ。ティーンエージャーは無視できない存在である。世界の4人に1人が10〜24歳、6人に1人が15歳〜19歳だ。各国ティーンエージャーの平均週間支出額では、ノルウェーがトップの50ドル、日本は15位で24ドル、ティーンエージャーの支出が10億ドルを超える市場では、アメリカがトップの270ドル、日本は第4位の70ドルである。ティーンエージャーのクレジットカード使用率は世界平均13%である。国別ではベルギーが第1位であり、56%の使用率である。日本は38位の4%である。これは年齢制限などの規制が影響していると思われる。将来のために貯蓄している項では、日本は36位の24%で世界平均37%より低い。
世界中のティーンエージャーには、共通する点が多い。その共通点は、ほぼすべての若者達を互いにつなぐ糸のようだ。その糸を「統合化要素」と呼んでいる。統合化要素は、世界の若者文化を支える柱であり、若者共通の信条である。広範囲の調査によって、若者全体に当てはまる10の統合化要素があるあることがわかった。それは以下の通りである。
- 消費こそがすべて
- テクノロジーが命
- 24時間エンタテイメント
- 永続刺激とお勉強
- グローバル探検と移動性
- スポーツヘの参加と観戦
- 国際ブランドの崇拝
- ヒューマニズムと共感
- 将来への期待と信頼
- セルフ・ナビゲーション(自己開拓)・・・決定的な統合か要素
次いで、ティーンエージャーの多様な価値観を整理すると次のようになる。
- 家族との関係を良好にたもつ
- 出来る限り、成功する
- 出来る限り、楽しむ
- 友人との関係を良好に保つ
- 世界を良くする
- 個人として認められる
- 昔からの慣習、伝統、価値観を守る
- 退屈しない
となっている。世界中のティーンエージャーは、みな似たような生活をしている。朝早く起きて、学校に行き、7時間ほど集中して授業を受ける。放課後はスポーツなどの活動をする。それから家に帰って、スナックを食べ、音楽を聴き、テレビを見て、コンピュータを使い、電話で話し、母親を手伝い、宿題をする。現代のティーエージャーの習慣は、文化のグローバル化が進んだことで、非常に画一化されている。
これだけ情報が氾濫している世界の中で、若者市場の資料はほとんどないといえる。わずかに日経産業消費研究所のレポート程度である。そういう意味ではこの本書は貴重といえる。特に今日のグローバル市場の環境において、世界主要18カ国のデータを網羅した調査し、分析、解説を加え分りやすい内容になっている。著者も述べているように、若者市場のマーケティングに携わる者にとってなによりも必要なのは、世界の若者文化を正しく理解することと、マーケティング計画を立案するための体制である。そのために6つの視点から本書が示されていることだ。それは、市場規模、文化的な統合化要素、文化的差異化要素、価値観のセグメンテーション、地域的・重要国的視点、具体例を記載していることだ。われわれの次世代を背負う若者が、何を考え、どう行動しているかを知ることは、未来を託する者としての義務でもある。
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