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技術参謀が日本を変える!表紙写真

技術参謀が日本を変える!

著  者:唐津 一
出 版 社:中央公論新社
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−120032−26−4

唐津一氏は、ご存知の方も多いと思うが、東大工学部卒後、現在のNTTに入社。1961年松下通信工業に移り、1978年常務取締役、1984年松下電器産業技術顧問に就任。その間、1981年にデミング賞本賞を受賞し、現在は東海大学教授。著書には、「日本経済の底力」、「デフレ繁栄論」(第4回山本七平賞受賞)など多数ある。

最近の特徴はすべてのことにおいて変化が早いことである。それも予想し難い変化が起きる。これまでの予測の手法は過去変化を調べてそこから規則性を発見し、その規則性がこれからも続くという仮説を立てて予測をしている。今の学問上の仮説はほとんどがそれである。ところがこれまでには全くなかった現象が現実に発生しているのだから、今の時代にはこれをどう扱ったらよいか迷うところだ。本書では、基本的知識は勿論、まず発想の原点となるべき日本の経済への理解、またこれらの情報を入手するための基礎的な手段の話から始めて、技術参謀として知っているべき手法を具体的な例を挙げながら説明している。参謀の仕事はラインのトップが判断するためのアイデアを出し、実行に移して成功させることである。技術の変化が急速に進むこれからは、技術参謀への期待はますます増える一方である。

本書は、第一章「この国の呪縛」、第二章「日本復活の処方箋」、第三章「ものづくりの未来と技術参謀」、第四章「技術参謀が日本を変える」、の4章に分けられている。

まず、日本の数字を拾ってみよう。2000年における日本のGDPは517兆円である。その中身で一番大きいのは個人消費であり、約310兆円。それに対して政府が使っているお金は、だいたい50兆円前後で、一桁違う。製造業が125兆円、金融証券業界の規模は、25兆円。海外生産は大体52兆円である。つまり、GDPの約1割である。これは日本のGDP統計の中には含まれない。日本はものを作ること、これがGDPの中で約25%あって世界の先進国の中でも、このシェアは一番高い。このことが非常に重要である。日本でものを作る時にそこから創出される付加価値をみると、鉄の材料は外国から輸入する。鉄鉱石は、1トン2000円である。この2000円の鉄鉱石を使って鉄板を作る。そうすると、だいたい5万円になる。この5万円の板を持ってきて自動車を作る。そうすると、1トン約100万円になる。このように付加価値が日本の経営を支えているのである。

光関係の産業は2000年で約3兆4700億、2001年で約5兆7500億円であるが、その成長率は60%である。光産業とは、液晶のパネル、発光パネル、また光を扱ういろいろなディスクなどの部品、こういった光関係の製品はアメリカやヨーロッパにはない技術であり、日本独特のものである。工業統計で見ると、鉄鉱業の付加価値は約35%である。窯業・土石産業の付加価値は48%である。

人によっては、「ものを作るなんて、もう過去のことだよ。これからはサービス業だ」と言うが、ところが、とんでもない間違いである。確かにサービス業の就業人口はいま、急速に増えている。しかし、問題は生産性が低く付加価値も非常に低い。これはアメリカでも大問題になっている。アメリカでは、自動車産業は従業員1人当たりだいたい39万ドルである。コンピュータが47万ドル。ところが、サービス関係はならしてみると1人当たり10万ドルそこそこである。そこで、アメリカでもサービス業だけが繁栄したのでは経済がおかしくなるというので、製造業をサポートしようという動きが既に1980年代から出てきている。結局、経営というのはいったい何かというと、結果が勝負なのである。いくら理屈が通っていても、結果が駄目なものは全部駄目なのである。

企業は今うまくいっていると思っても世の中は変わる。会社が変わらなくても技術はかわり、ユーザーもまた変わる。つまり、われわれが住んでいる社会の特徴は変化である。この変化に適応できなければ、会社は当然潰れる。企業の競争力というのは結局変化にどう対応していくかで決まる。

日本が成功した一つの発明は、VTRである。世界の標準となったのは、よく知られているように、ビクターが考えたVHSだった。もちろん、世界中でこのVTRを作っている。すると当然、この特許料をビクターに払わなければならない。このパテント料だけで、ビクターは1年間にだいたい100億円の収入があったとされている。

日本がこれから生きていく道の1つは、よそでできないものを作ることである。よそでできないものとは、性能的に日本でしか作れないということと同時に、コスト的に見ても海外がとても歯が立たない、極端に言うと、よそはあきらめてしまうぐらいの安いコストで作っていくということだ。それともう一つ重要なことは、技術は変化するということだ。だから、次の技術、次の技術と新しい技術を開発して、よそが手を着けようと思った時には、すでにもう先に行っている。それくらいのスピードでやっていかないと、日本の製造業はもたない。日本の将来を担うのは技術しかない。こういうふうにわりきってしまう。そうすると技術をどうやって育てるか。その一番の原点は、やはり新しい技術開発をどうするかということである。日本の会社は何を作ればいいか。もちろん、それには新しい技術開発がいるけれど、それは用途開発が勝負だ。日本の場合、一番大きいなユーザーは個人である。つまり、個人消費というのがどうなっているか。どうすればそれに適合する製品がでてくるか。これを考えながら作れば、できあがった製品は売れていく。

情報技術には4つの機能がある。1つは、通信である。通信というのは、情報を遠くに送る技術である。2番目は情報を蓄積する技術である。3番目は情報の加工である。4番目に、情報を使っていろいろなものを動かす技術、これを制御という。この4つの技術を組み合わせたのがITである。ものづくりの最後の決め手はノウハウである。

世間には本物と偽者、怪しげな情報が入り乱れている。その中から不確定な未来を見通し、答えを出していくのが技術参謀の仕事である。

以上が本書の主要内容である。本書の中で著者が述べているように、「ものを作るなんて、もう過去のことだよ。これからはサービス業だ。と言う。これはとんでもない間違いだ」と指摘している。これは付加価値の有無を問題にしているのである。要は、生産性が問われる今日において、その生産性を高めるためには付加価値を付与することが絶対条件になる。付加価値が高いと言うことは、それだけ世間や顧客から受け入れられていることになる。スターバックスが世界的に評判が高いのは、その好例と言える。新しい技術、新しいビジネスモデルの構築に力を注いでいかなければならない。P.F.ドラッカーは、「企業の良し悪しを計るものさしがあるとするならば、それは、生産性である」と述べている。その生産性を伸ばしていくために「物の見方、考え方」の参考になる本である。


北原 秀猛

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•  唐津一
•  技術参謀
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