10%の人が富裕になるアメリカ型経営に惑わされずに、100%の社員が幸せになれる経営モデルをつくりあげ、実験している株式会社がある。広島市に本部を置き、西日本を中心に展開する安売りメガネチェーン・株式会社21(トゥーワン)は、これまでの会社経営の常識を覆すような経営を行っている。
- いっさいの利益を社員で山分けし、顧客にも還元する(利益を残さない会社)
- 株主は社員で社員による共同経営(仲間主義で雇用者・被雇用者の関係が希薄な会社)
- 人事破壊で合理化(間接部門がなく、管理職もいない会社。社長と取締役はいるにはいるが、経営のイニシアティブをとっていない)
- 会社の業績、財務状況、全社員の給与・賞与明細などの情報開示(透明経営の会社)
- 社員間の競争排除(ノルマ・目標を設定せず、成果・能力主義でない会社)
以上のような理念で企業経営をおこなっているユニークな会社である。社是に「21は社員の幸福を大切にします。社員は皆様の信頼を大切にします」を掲げている。
資本金5000万円、社員数133人、125店舗、売上高2001年80億円、社員1人当たり売上生産性は6000万円強になる。徹定した価格破壊を実現し、年間1億枚の新聞折込チラシと、顧客の紹介というクチコミで成長を続けている。ところが、売上が右肩上がりに伸びているにもかかわらず、経常収支はほとんどマイナスという不思議な会社なのである。2000年は800万円の赤字になっている。その理由は「会社に利益を残さないのは、会社の利益処分に不透明な部分を残さないための方策です。内部留保が膨らめば、不動産投資や子会社での蓄財などの誘惑に駆られないとも限りません。それで、経営陣が自由な金をもてないようにしているのです」。
21は社員の7割がリストラ体験者である。この企業を創設した4人は、以前大手メガネチェーンの幹部社員だった。その会社は、社員の処遇より内部留保を優先し、会社を私有化する社長と対立し、社長追放に動いたために解雇されたのである。その経験から「会社に利益を残さない」ことを経営方針に掲げたのである。前の会社からの脱藩組が90人もいる。「メガネ21」として1986年2月に創業された。そして、「利益が出たら、まず賞与というかたちで社員で山分けし、さらには、商品の値下げの原資に回した方が会社のためになる」と創業の時に決意したのである。
2001年冬の賞与は、最高で400万円、8割の人が100万円以上、年間1000万の賞与をもらう人もいる。ただ、利益配分なので会社の業績が下がればこの人たちの賞与はどんどん引き下げられる。高額賞与は退職金の前払いでもある。その他ユニークな点を幾つか上げると、以下のようになる。
- 社長の年収は、社員の最高額を超えてはならない
- 「怪しい会社」から「珍しい会社」に
- 自宅と自分の職場は、自分の金でつくろう
- 資本主義は博打だから、リスクも覚悟
- 長期雇用が保証されている
- 「仲間主義」と「献身主義」の会社
- 人は厚遇されていれば、他人をとやかく言わない
- どこよりも安く売っていく
- 強い共同体意識で結ばれた会社
- 採用条件は、自分の給与を削っても、仕事をともにしたい人
- 社長は何もしない、自分の足跡を残さない
- 4年で社長交代を顧客に公約
- 人間信頼の「絶対評価」、人間不信の「相対評価」
- 親は選べなくても、上司は選べる―――上司拒否権
- ノーワークノーペイが原則だから、有給休暇を先に買い取る
- パートさんは時給正社員、取締役にもなれる
- サービス第一主義だから、接客こそが命
- 「心性」が「人間の魅力だ」
以上のような文章がふんだんに「メガネ21」企業の実情から溢れ出てくる本である。経営は経営者の理念、基本的な考え方でいかなる難関も乗り越え、素晴らしい企業として姿をあらわすようになる。このことがよくわかることを我々に教えてくれている。やはり経営とは、哲学であり、芸術だ、ということを実感させてくれる本である。
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