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ネクスト・ソサエティ表紙写真

ネクスト・ソサエティ
歴史が見たことのない未来がはじまる

著  者:P.F.ドラッカー
訳  者:上田 惇生
出 版 社:ダイヤモンド社
定  価:2,200円(税別)
ISBN:4−478−19045−3

ドラッカーは現在92歳である。今でも毎週、世界中の大企業、ベンチャー企業、政府、NPOのトップが訪れ、それぞれの夢やプラン、かかえる問題について相談している。

「日本では誰でもが経済の話をする。だが、日本にとって最大の問題は社会のほうである。この40年あるいは50年に及ぶ経済の成功をもたらしたものは、社会的な制度、政策、慣行だった。その典型が系列であり、終身雇用、輸出戦略、官民協調だった。日本の社会的な制度、政策、慣行は、1990年ごろまで有効に機能した。だが、もはや満足に機能しているものは1つもない。再び新たな制度、政策、慣行が求められている。日本において求められているものは社会的な革新である。その典型の1つが、いかにして雇用と所得を確保しつつ、同時に、転換期に不可欠の労働力市場の流動性を確保するかという問題である」と本書の冒頭とでドラッカーは述べている。

経済が社会を規定するとの思想どころか、経済が経済を規定するとの理論からさえ脱却しなければならない。間もなくやってくるネクスト・ソサエティにおいては、経済が社会を変えるのではなく、社会が経済を変えるからである。ドラッカーは急激に変化しつつあるのは、経済ではなく社会のほうであると喝破している。そして、IT革命はその要因の1つにすぎない。人口構造の変化、特に出生率の低下とそれにともなう若年人口の減少が大きな要因だった。若年人口の減少は、それまでの長い流れの逆転であり、前例のないものだった。逆転は他にもあった。富と雇用の生み手としての製造業の地位の変化だった。日本では、いまなお労働人口の4分の1が製造業で働いている。日本が競争力を維持していくためには、2010年までにこれが8分の1ないし10分の1になっていなければならない。

ネクスト・ソサエティをもたらす社会の変化が、働く人たちの役割を規定していくからである。本書が言わんとするところは、1つひとつの組織、1人ひとりの成功と失敗にとって、経済よりも社会の変化のほうが重大な意味を持つにいたったということである。

ネクスト・ソサエティがやってくることはまちがいない。しかも万が一、ニューエコノミーが実現するとしても、ネクスト・ソサエティのほうがはるかに大きな意味をもつ。ネクスト・ソサエティは知識社会である。知識が中核の資源となり、知識労働者が中核の働き手となる。知識社会としてのネクスト・ソサエティには3つの特徴がある。

  1. 知識は資金よりも容易に移動するがゆえに、いかなる境界もない社会となる。
  2. 万人に教育の機会が与えられるがゆえに、上方への移動が自由な社会となる。
  3. 万人が生産手段としての知識を手に入れ、しかも万人が勝てるわけではないがゆえに、成功と失敗の並存する社会となる。

これら3つの特質のゆえに、ネクスト・ソサエティは、組織にとっても1人ひとりの人間にとっても、高度に競争的な社会となる。

いまから25年後のグローバル企業は、戦略によって一体性を保つことになる。所有による支配関係も残るが、少数株式参加、合弁、提携、ノウハウ契約が大きな位置を占めるようになる。勿論、そのような事業構造のもとではトップマネジメントのあり方も大きく変る。明日のトップマネジメントは、現場のマネジメントとは異質の独立した機関となる。それは事業全体のための機関となるはずである。

世界2位の経済大国日本では、人口は2005年に1億2500万のピークに達する。2051年には1億人を切る。そのかなり手前の2030年においてさえ、65歳超人口が成人人口の半数を占めている。日本の出生率はドイツ並の1.3である。この老年人口の増加は300年の趨勢の延長線上にある。これに対し、若年人口の減少こそまったく新しい現象である。「今後50年間、日本は年間35万人の移民を必要とし、労働人口の減少を防ぐためにはその倍を必要とする」。アメリカが優位にあるのは、若年人口の数だけではない。移民に対する文化的な馴れがある。社会的、経済的に同化する方法を身につけている。

人口構造の変化がもたらす最大の影響が、文化と市場の多様化である。企業をはじめとする組織の短命化も、労働市場の多様化を促進する。これまでは、雇用主たる組織のほうが被用者よりも長命であることが常識だった。これからは、被用者、特に知識労働者の労働可能年限のほうが、うまくいっている組織の寿命をさえ上回る。30年以上存続する企業はほとんどなくなることを覚悟しなければならない。すでにアメリカでは、「第2の仕事」「第2の人生」が流行語になっている。

知識労働者とは新種の資本家である。なぜならば、知識こそが知識社会と知識経済における主たる生産手段、すなわち資本だからである。今日では、主たる生産手段の所有者は知識労働者である。知識労働者の特質は、自らを労働者ではなく専門家と見なすことにある。

知識労働者には2つのもが不可欠である。その1つが、知識労働者としての知識を身につけるための学校教育である。もう1つが、その知識労働者としての知識を最新に保つための継続教育である。知識は急速に陳腐化する。そのため定期的に教室に戻ることが不可欠となる。知識社会は、上方への移動に制限がないという初めての社会である。知識は、相続も遺贈もできないとこるが他の生産手段と異なる。あらゆるものを自力で獲得しなければならない。これからの知識社会においては、極めて多くの人間、おそらく過半数の人間が、金銭的な安定よりもはるかに重要なこと、すなわち自らの社会的な位置づけと豊かさを実感することになる。

日本にはいわゆる労働階級者の文化というものがない。日本は上方への社会移動の手段としての教育にも敬意をはらってきた。しかし日本社会の安定は、雇用の安定、特に大規模製造業における雇用の安定に依存するところが大きかった。いま、その雇用の安定が急速に崩れつつある。日本は、製造業雇用が全就業者人口の4分の1という先進国では最高の水準にある。労働力市場といえるものも、労働の流動性もないに等しい。社会心理的にも、日本は製造業の地位の変化を受け入れる心構えができていない。過剰雇用の成熟産業に金を注ぎ込む政策は害をなすだけである。

パラダイムが変った。第1に、知識が主たる生産手段、すなわち資本となった。知識は1人ひとりの知識労働者が所有する。第2に、今日でも働きての半分以上がフルタイムで働き、そこから得るものを唯一または主たる生計の資としているものの、ますます多くが正社員ではなくパートタイム社員、臨時社員、契約社員、顧問として働くようになった。第3に企業活動に必要とされる知識が高度化し、専門化し、内部で維持するには費用がかかりすぎるものとなった。しかも、知識は常時使わなければ劣化する。それゆえ、時折の仕事を内部で行なっていたのでは成果をあげられなくなつた。

組織が生き残りかつ成功するためには、自らがチェンジ・エージェント、すなわち変化機関とならなければならない。変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくりだすことである。ネクスト・ソサエティとは、ITだけが主役の社会ではない。もちろん、ITだけによって形づくられる社会でもない。ITは重要である。しかし、それはいくつかの重要な要因の1つにすぎない。ネクスト・ソサエティをネクスト・ソサエティたらしめるものは、これまでの歴史が常にそうであったように、新たな制度、新たな理念、新たなイデオロギー、そして新たな問題である。

IT革命におけるeコマースの位置は、産業革命における鉄道と同じである。まったく新しく、まつたく予想外の展開である。そしていま、170年前の鉄道と同じように、eコマースが新しい種類のブームを呼びつつある。経済と、社会と、政治を一変しつつある。鉄道が生んだ心理的な地理によって人は距離を征服し、eコマースが生んだ心理的な地理によって人は距離をなくす。もはや世界には1つの経済、1つの市場しかない。このことは、地場の小さい市場を相手にする中小企業さえグローバルな競争力を必要とすることを意味する。IT革命とは、実際には知識革命である。

あらゆる知識労働者に3つのことを聞かなければならない。第1が強みは何か、どのような強みを発揮してくれるかである。第2に何を期待してよいか、いつまでに結果を出してくれるかである。第3がそのためにどのような情報が必要か、どのような情報をだしてくれるかである。

<明日のトップが果すべき5つの課題>

  1. 15年後には、コーポレート・ガバナンス(企業統治)が今日とは大きく違うものになる。
  2. 外の世界で起こることを理解しなければならない。
  3. 明日のCEOたるものは、いつ命令し、いつパートナーとなるかを知らなければならない。
  4. CEOが真剣に取り組まなければならない課題が、知識労働の生産性の向上である。
  5. CEOたる者は、みながともに生産的に働けるようにすることを考えなければならない。

イノベーションとは、市場に追いつくために自分の製品やサービスを自分で変えていくことである。今日、銀行がどうういう状況にあるかを見てもらいたい。アメリカでは商業金融や預金業務など、昔からの業務で利益をあげて入る大銀行はほとんどない。いまではクレジットカード、ATM手数料、為替業務、投資信託ぐらいしかない。

いま驚くべきことがビジネスの世界で起こっている。第1に、働き手のうち唖然とするほど多くの者が、現に働いている組織の正社員ではなくなった。第2に、ますます多くの企業が雇用と人事の業務をアウトソーシングし、正社員のマネジメントさえしなくなった。この2つの流れが近い将来に変る気配はない。むしろ加速していくものと思われる。

知識を基盤とする知識組織では、システムそのものの生産性を左右するものが、知識労働者一人ひとりの生産性である。かつては働き手がシステムのために働いたが、知識労働ではシステムが働き手のために働く。知識を基盤とする企業にもっとも似た組織がオーケストラである。そこでは30種類もの楽器が同じ楽譜をつかって、チームとして演奏する。

偉大なソロを集めたオーケストラが最高のオーケストラではない。優れたメンバーが最高の演奏をするものが最高のオーケストラである。

今日の日本は本質的に19世紀のヨーロッパの国である。だからいま、麻痺状態にある。基本的に日本という国は官僚によって運営されている。政治家は大きな存在ではなく、しかも疑惑の目で見られがちである。無能であったり腐敗していたとしても、それほど驚かれる存在ではない。しかし、官僚が無能であったり腐敗していることが明らかになればショックである。日本はいまそのショック状態にある。日本の産業すべてが効率的で競争力をもつとの説は、まったくの間違いである。国際競争にさらされている部分は、先進国のなかでもっとも少ない。自動車と電子機器の二つの産業が中心である。全体の8%にすぎない。したがって、日本にはグローバル経済の経験がほとんどない。産業のほとんどが保護されたままであり、おそろしく非効率である。

以上が本書の概要である。ドラッカーがネクスト・ソサエティを論じたということは、世界中の最先端にある人たちが、すでにネクスト・ソサエティの到来を予感し、予見し、準備しているということである。ドラッカーが指摘するように日本は19世紀のヨーロッパの国であり、外務省に象徴されるように、官僚が自分たちの身を守るために規制も解かず従来のやり方を踏襲しているとすると、大変なことになってしまう。日本は全労働人口のうち製造業に25%、農業人口は4.7%もおりこの十年で製造業の人口が10%をきらないと危ないとも指摘している。ネクスト・ソサエティをもたらす社会の変化が、働く人たちの役割を規定していく。すなわち、経済よりも社会の変化のほうが重大な意味をもつにいたったということである。


北原 秀猛

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•  P.F.ドラッカー
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