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戦略立案ハンドブック
DEVELOPING BUSINESS STRATEGIES

著  者:デービッド・A・アーカー
訳  者:今枝 昌宏
出 版 社:東洋経済新報社
定  価:3,800円(税別)
ISBN:4−492−53137−8

著者のDavid A・Aakerは、カリフォルニア大学バークレー校ビジネススクール名誉教授。プロフェット・ブランド・ストラテジー社副会長。事業戦略、ブランド戦略に関する世界的に著名な研究者である。

有効な戦略は時代とともに変化する。そして、戦略立案に要求されるスピードや質も当然のことながら変化していく。日本企業の場合、過去の投影で将来計画を立案し、業界においては横並び的思考での行動も多い。しかし、近年、バリューチェーン、ポートフォリオモデル、キャッシュフロー経営、コアコンピタンス、シナリオプランニング、ブランドエクイティなどのキーワード的概念やツール、そして方法論が日本にも数多く紹介されている。これらを戦略立案に役立てるためには、戦略論全体において体系的かつ客観的に整理したアップ・トゥ・デートな解説書が必要になる。本書はその解説書としてふさわしい本である。著者はマーケティング領域に拘泥することなく、終始客観的にさまざまな領域の研究成果を整理して戦略論全体のなかに位置づけており、それが本書に高い価値を与えている。

本書には4つの主眼点がある。1つは、外的環境を分析するための枠組みと方法論である。2つ目は、持続可能な競争優位に関するものである。3つ目は、投資判断に関するものである。4つ目の主眼点は、戦略の実行である。本書は、4つの部に分かれている。第1部では、概念、方法論、および戦略代替案を紹介し、また戦略市場経営について、その概念を全体の流れに沿って説明している。第2部は、マーケティングと経済学に大きく依拠しながら戦略的分析を扱う。第3部では、持続可能な競争優位の概念、差別化戦略、ローコスト戦略、集中か戦略、先制攻撃、成長戦略における選択肢、グローバル競争、および敵対的市場あるいは衰退市場における競争について述べている。最後の第4部は、組織の概念がどのように戦略と関係するか、および正規のプラニングシステムの設定に関する解説である。

差別化戦略とは、製品の性能、品質、名声、特徴、支援サービス、信頼性、利便性などを高めることによって、顧客に価値を提供し、競合相手の製品に対して優位的な差を生み出す戦略をいう。

集中化戦略とは、事業を小さな購買者グループや限定された製品ラインの部分に集中させることである。

先制攻撃は、持続可能な競争優位の基礎をなす資産や能力を作り出すための、ある事業領域への戦略の先行的実行を意味する。先制攻撃によって「先行者利益」が生みだされれば、競合相手の同一行動、あるいは対抗を防止または阻止できる。

ローコスト戦略は、製品またはサービスの重要な要素において持続可能な価格優位を獲得することがその基礎となる。

戦略市場経営、あるいは単に戦略経営とは、定期的なプランニングサイクルでは企業の外的環境で起こりうる急速な変化に十分に対応できない、との前提から生まれた考え方である。戦略的に予期せぬ事態や急に発生する脅威と機会に対処するため、戦略的意思決定は臨機応変に、定期的なプラニングサイクルにとらわれず行われるべきものである。

経営者による戦略的ビジョン作成、戦略的意思決定、およびその実現をサポートするような設計されたシステムが「戦略市場経営」である。戦略意思決定とは、戦略の作成、変更および維持までを含むものである。戦略的ビジョンとは、将来の戦略あるいは複数の戦略全体についてのビジョンである。企業にとっての最適な戦略の実現は、戦略実行の準備不足であるとか、予想されている状況が整わないといった理由で遅延するおそれもあり、戦略的ビジョンは、このような場合に当座の戦略および戦略的活動に方向性と目的を与えてくれる。

外部分析は、機会、脅威、トレンド、そして戦略的不確実性を見つけ出すことにより戦略に影響を及ぼすべきものである。外部分析の最終的な目的は、戦略的選択、どこで、どのように競争するかに関する意思決定を下せるようにすることである。

競合相手は、規模、成長と収益性、イメージ、目的、事業戦略、組織文化、コスト構造、撤退障壁、そして強みと弱みなどのいくつかの要素にしたがって分析すべきである。

市場分析においては、市場の魅力度とともに市場の構造やダイナミクスをも評価対称とすべきである。市場収益性は5つの要素に依存する。既存の競合相手、供給者の交渉力顧客の交渉力、代替品、そして潜在的参入者である。

業績評価は、財務的な側面を超えて、顧客満足度、ブランドロイヤルティ、製品・サービス品質、ブランド・企業イメージ、相対コスト、新製品開発活動、経営者と従業員の能力と力量のような側面にまで及ぶべきである。

持続可能な競争優位を構築するためには、戦略は、市場によって評価されるものでなければならず、競合相手に容易に複製ないし無力化されることのない資産と能力によって支えられていなければならない。

戦略的ポジショニングは、顧客、従業員、提携先によって、ある事業がその競合相手や市場との関係でどのように知覚されるかを明示するものである。戦略的ポジショニングは、企業をその競合相手から差別化し、顧客に共感を与えるべきである。また、戦略的な施策、組織の文化や価値観、そしてコミュニケーション・プログラムにも影響を与えるべきものである。

最も実りの多い成長領域は、多くの場合既存の市場において製品使用量の増加を図ることであり、それは既存市場においては自社の資産と能力がすでに存在し、それを利用するだけでよいからである。既存製品市場における成長は、使用頻度の増加、1回あたり使用量の増加、事業の再活性化、あるいは新用途の開拓により達成することができる。2つ目の成長方向性である新製品の拡張には、新製品、新技術、あるいはカテゴリーの認識を変化させるような新たな製品特性などがある。3つ目の成長方向性である新市場の拡大には、地理的な市場拡大、新たな市場セグメントのターゲティングなどがある。もう1つの成長方向性である垂直統合は、供給や需要へのアクセス、製品・サービス品質のコントロール、そして魅力的な事業領域への参入をもたらす。しかし、垂直統合は同時に、まったく異なった事業の経営、戦略的柔軟性の減少のリスクをももたらす。

戦略提携(戦略的目的を達成するために2社以上の組織の強みを利用した長期的な協働関係)は、組織が流通や製造の専門性などの主要成功要因を欠いていることを克服することができる。戦略的提携の長期における成功の鍵は、個々のパートナーが継続的に資産と能力に貢献し、戦略的優位性を獲得することである。

組織構造、システム、人、そして文化は、組織の4要素である。それぞれの要素が他の要素と、また事業戦略と整合していなければならない。組織構造は、権限とコミュニケーションのラインを定義し、集権化の程度とコミュニケーションチャネルがどの程度正式なものかという点で多様である。組織文化は、共通の価値観、行動規範、象徴、そして象徴的な行動を含むが、変更することは困難である。したがって、文化と戦略とのあいだのフィットは特に重要である。

以上が本書の概要である。読んでお分かりのように本書のエッセンスを各章ごとに短くまとめている。われわれが一般的に使っているマーケティング用語を基本にしている。特に成長領域の項は当たり前のことだが、参考になると思う。本書は、戦略論全体において体系的かつ客観的に整理したアップ・トゥ・デートな解説書である。戦略立案のバイブルとして役立ててほしいものである。


北原 秀猛

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キーワード
•  戦略立案
•  コミュニケーション・プログラム
•  差別化戦略
•  組織の4要素


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