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知的経営の真髄表紙写真

知的経営の真髄
 〜知的資本を市場価値に転換させる手法〜

(Value Intellectual Capital)
著  者:パトリック・サリヴァン
出 版 社:東洋経済新報社
定  価:2,400円(税別)
ISBN:4−492−53139−4

企業価値がその企業が保有する知的資本の量、投資先、ポテンシャルによって決まることがますます多くなってきた。そこで、スキルや能力を獲得することやナレッジやノウハウをマネジメントすることこそが企業における基本的な戦略課題であると言える。しかし、スキルや能力、さらにナレッジやノウハウを獲得しても、知的資本により創造された価値を抽出する能力をあわせて身につけなければ、それらはほとんど使いものにならない。

本書の特徴は、知的資本から価値を抽出することに焦点を当てていることである。著者は知的資本の価値評価と知的資本からの価値抽出に焦点を当てて、企業の知的資産から価値を抽出し、それを「企業の存続」に直接役立たせる方法についてもっと学びたいと願っている読者を対象としたと述べている。

企業の価値は株式を上場していれば株式の時価総額という形で表現されるが、その金額の合理性を検証する方法はない。一方、知的財産を企業の重要な資産と認識してマネージできれば競合企業に対し優位に経営を遂行できる。本書は見える資本中心の経営に対し、見えない資本、すなわち知的資本の重要性について述べた本である。

内容は第1部の「知的資本と企業価値との関係」(1―4章)、第2部「知識活用型企業の価値評価」(5―7章)、第3部「知的資本のマネジメント」(8―12章)、の3部12章から成る。

知的資本という概念は、まったく新しいものである。それは、特定の組織の能力に基づく資産を全面にもってくるものであり、このような資産が、伝統的な土地、労働力、有形資産といったものと同様の重要性を保持していると認識するのである。知的資本とは何かと問われれば、1つの単純な定義に収斂するようなことはなく、さまざまな定義が生みだされるであろう。その要素は、人的資本、顧客資本、知的財産、暗黙知、知的資産、研究・開発、構造資本、イノベーション、成文化された知識、情報技術などである。

第1部第1章では、知的資本とその重要性を説明している。第2章は、枠組みとは何か、そしてそれは経営者にとってどのように役に立つかを述べている。第3章は、知的資本が企業に提供する価値の種類について述べている。さらには直接的価値、間接的価値や、攻撃的価値、防禦的価値、さらに内部価値、外部価値が含まれている。第4章では、知的資本から企業が期待する価値を生み出すためにどの事業活動が必要かを、経営者が決定する場合の方法について述べている。

第2部の第5章では、知識活用型企業を評価することに対するさまざまな理由と、それぞれの場合に対して最も役に立つ方法やアプローチについて述べている。第6章は、知的資本経営のために知的資本マネジメントの方法を実際に応用してみたいと考えている企業のために、その手順を明らかにしている。第7章では、知識活用型企業を買収したり合併したりする場合に、どのようにして評価するかについての新しい考え方を述べている。

第3部第8章では、知的財産から価値を引き出すことについて述べられている。第9章は、知的財産と知的資産との類似点と相違点、また、これら知識資本マネジメントを行うときどきにどのように重要になるかについて述べられている。第10章では、知識と、知識の種類と、知的資本との関係について述べている。第11章では、価値の抽出に関心を示す経営者の視点からみたときの、企業の人的資本をマネジメントするうえでの重要な考え方について述べている。第12章は、ここまでの章で述べた情報と知的資本経営会議に参加している企業の知識に基づいて、企業として、どのようにすれば知的資本のマネジメント能力を自社内に作りだせるかについて、段階を追った取り組み方を述べている。

これからの日本の産業社会を考えると、その活路は、高度な知識や技能を保有する日本人のブレインパワーの量と質に求めるべきである、という主張に異論を唱える人はいないだろう。しかしながら、このような知識や技能は目に見えない知的資産、知的資本であるがゆえに、それらをマネジメントすることについては経験が浅いことや、残念なことに安易なお手本がないゆえに誰もが戸惑いを感じるのが一般的である。日本が21世紀にも繁栄を継続するためには、衆目の一致することは、日本の社会、さらには、日本の企業が知的資本に軸足を移すべきである。

本書は哲学書であり、実務指南書でもある。この2つの側面が渾然一体となっているので、じっくり考えながら読んでも何となく、とらえどころがないような印象を受ける。

しかし、本書の中で指摘しているように、知的資本経営においては2つの考え方があることである。1つは、企業が総体として保有する知識とブレインパワー(頭脳の力、すなわち知識資本)に注目し、それらをどのようにして新たに創造して増大させていくかの観点から知的資本経営を推進する考え方であり、他の1つは、知的資本という経営資源に注目して、そのような知的資本と有形資産(補完的有形資産)とのユニークな組合せの中から、どのようにして利益を生みだすかの観点から知的資本経営を推進する考え方である。

この知的資本からの価値抽出には、それぞれの企業のコンテキストに従って、知的資本と有形資産との各企業に特有な組合せの中から価値を抽出することであり、この組合せの妙味が重要である。著者は日本企業に対し、次のメッセージを発している。

「日本の企業には莫大な知的資本が蓄積されているはずだ。これまで日本企業はその存在に気がつかなかっただけだ。本書が日本企業にとって企業のなかに“眠っている”価値、すなわち知的資本から価値を抽出する方法を開発するうえで参考になることを願っている」

必ずや参考になると確信するものである。一読をお勧めしたい本である。


北原 秀猛

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•  パトリック・サリヴァン
•  知的資本
•  知的財産


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