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日本企業の競争原理表紙写真

日本企業の競争原理
 〜同質的行動の実証分析〜

著  者:浅羽 茂
出 版 社:東洋経済新報社
定  価:2,800円(税別)
ISBN:4−492−39383−8

著者の浅羽茂氏は現在学習院大学経済学部教授。日本企業の行動特性である「同質的行動」は、常にライバル企業に追いつかれるというプレッシャーが生まれ、各企業が一歩でも先んじようと努力することによって競争が激しくなるという競争原理に由来する。

本書では、著者の専門がインターディシプリナリー(interdisciplinary=学際的)という特徴をもった経営学であることを活かし、さまざまな分野の研究を取り上げた。それゆえ、自分達の分野で議論されている現象が他の分野ではいかに議論されているか、あるいは自分達が概念的に議論している問題についてどのように実証分析が行われているかを知ることができる。

日本企業は、赤字になるよりも、ライバル企業に遅れをとる方がより深刻なリスクであると考えているので、常に他社を監視している。絶対的基準にもとづく競争というよりも、常に自社と他社を比較する相対的基準にもとづく競争において、同じような規模の企業が競争している日本企業は激しい競争を繰り広げる。日本企業はリーン企業(lean enterprise)なので、もしある企業が成功すれば、他者はその成功原因を即座に見つけ、模倣したり追随したりする。さらに、すぐにライバル企業に追いつかれてしまうかもしれないという強迫観念があるために、ライバル企業よりも一歩でも先んじようと、イノベーションを行ったり改良を加えたりする。このような主張は、日本企業の同質的行動が、創造性や戦略を欠いた単なる猿真似行動ではなく、激しく競争している企業がとる行動で、競争をさらに激化させ、企業を鍛えるものであることを示唆している。

行動の同質性は、ある企業の行動とそれに対する他社の対応との間のタイムラグが小さいことでも定義することができる。競争している企業は、新製品を同時に発売したり、同じ時期に生産能力を増強したり、一斉にある外国に生産拠点を建設したりする。我々はこのタイプの行動を「同時的行動」と呼ぶ。

競争している企業は、個別の製品を模倣し合うだけではなく、製品ライン全体を他社と類似させることがある。日本の電卓市場で競争していたシャープとカシオの製品ラインが同質化していたことは、その一例である。

日本企業の戦略や目標の特徴は、アメリカ企業と比較した場合、より長期志向、成長志向であると指摘されてきた。アメリカ企業は、投資収益率(ROI)や株価の上昇といった収益目標を重視しているのに対し、日本企業は市場占有率を重視する。また、日本企業の構造上の特徴は、一言で言えば継続性であろう。雇用面では、長期雇用あるいは終身雇用といわれるように、長期継続的な雇用が特色であるといわれている。また、原材料の供給業者や製品の需要者といった取引相手とは、継続的取引関係がとられることが多い。さらに、所有構造の面でも、メインバンク・システムや株式の相互持合など、継続的な関係が特徴である。例えば、アセンブラーがサプライヤーとの取引を継続したいのであれば、サプライヤーが取引を継続することから得られる見返りを大きくするために、取引の拡大、すなわち自社の成長可能性を高めようとする。ゆえに、企業は成長志向になるのである。

同質的行動は、単なる外部環境の変化に対する共通の反応だけではなく、企業間の相互作用の結果としてももたらされる。企業が同質的行動をとるのは、競争を緩和するため、あるいはリスクを最小化するためかもしれない。あるいは、情報収集コストを節約するために、もしくは正当性を獲得するために、同質的行動がとられるのかもしれない。

企業が同質的行動をとるメカニズムについては、いくつかの理論が提唱されている。それらは模倣される企業の特徴という点で、以下の2つのカテゴリーに分けられる。1つは、本書において、競争仮説と呼ばれる考え方で、同等の資源を有しているがためにいずれの企業も差別的優位性を築くことができない場合、企業間の激しい競争バランスが崩れるというリスクを最小化するために、あるいは競争を緩和するために、ライバル企業と同じ行動をとるという考え方である。2つ目のカテゴリーは、情報収集コストを節約するために同質的行動が生じるという考え方である。例えば、日本の飲料産業は、頻繁な新製品導入を伴って急速に成長している。日本の飲料業界では、新製品を導入することは大変重要な競争行動である。1980年代から1990年代初頭にかけて、日本では、平均して980もの新製品が毎年市場に導入された。それに対して、アメリカのそれは、およそ700である。日本の飲料メーカーは、自社の自動販売機を通じて、製品を販売している。自動販売機を通じた売上は、全体の約半分を占めている。

資源にもとづいた企業観の理論によれば、企業戦略は、その企業に賦与されている資源の量に制約される。したがって、自分よりも良質な、あるいは大量の資源を有するような他社を模倣することはできない。他社を模倣することができるのは、自分と他社とが同等の資源を有しているときである。しかしながら、同等な資源を有する企業が競争する場合には、いずれの企業も差別的優位性を築くことができないので、熾烈な競争にならざるを得ない。このように、同等の資源を保有する企業が競争しているときには、企業は同質的行動をとる可能性が高いと考えられる。

企業がまったくの新製品を最初に導入する際の意思決定においては、大企業の行動が影響を及ぼすことがわかった。しかし、既存の製品カテゴリーにおける製品増殖の意思決定には影響を及ぼさない。競合企業間の同質的行動が日本企業の特性であるとすれば、日本の方が諸外国に比べて、各産業のマーケットシェアは安定している。同じような規模の企業、すなわち同等の企業能力や経営資源を有している企業からなる市場ほど、マーケットシェアが安定している。例えば、電卓市場では、カシオとシャープが同質的行動をとった結果、2つの企業の売上高は同じような変化のパターンを辿っていた。すなわち、両社の売上高成長率は正の相関を有していたのである。それは、両社が製品ラインを重複させるという同質的行動を採用していたからであろう。つまり、毎年の売上成長率が正の相関を示しているかどうかで、各年の企業行動の類似性をある程度捉えることができると考えられるのである。

日本企業の収益性が低いのは、同質的行動による競争という競争原理を有する日本企業が熾烈な競争を繰り広げるためかもしれない。本書の中に示されたデータによれば、マーケットシェア変動とプライス・コスト・マージンの間には正の相関があることが見出された。この結果は同質的行動による熾烈な競争が企業の収益性を低下させていることを示唆している。しかしながら、同時に熾烈な競争は、企業の能力を増強させ、グローバル市場での競争優位性をもたらしてくれるかもしれない。同質的行動によって引き起こされる熾烈な競争は、直接的に、あるいは企業の能力の向上を介して、企業が供給する製品に対する需要を刺激するであろう。

日本企業の同質的行動は、単なる模倣ではない。少なくともいくつかのケースでは、他社に追いつき追い越そうと努力する企業による激しい競争の結果である。そのエッセンスは、ライバル企業を常に注目・意識し、プレッシャーをかけ、あるいはかけられることにある。

個々の企業が差別化を追及する場合でも、ライバル企業を意識して差別化することは必要であろう。あるいは、多くの企業が、同じ方向・次元のなかで、さまざまな創意工夫をして差別化しようとする方が、経済全体としては好ましい帰結をもたらすのではないだろうか。個々の企業にとっては、独自の戦略を追求することはもっともなことであろうが、その結果として激しい競争がおこなわれることこそが肝要である。したがって、激しい競争を生み出すもとにある同質的行動という行動特性、というのが我々の主張である。

以上が本書の内容の概要である。本書は第1章から第6章に分れており、いろいろ検証するために、化学産業、飲料産業、などの産業事例を交え、仮説をたてて、同質競争を分析し、理論構築をしている。一般的に日本の企業は横並び志向で、創造性がないと言われるが、本書でも示されているように、あるA企業が実践していることに対し、B企業が同質的行動をとるということは、すでに意思決定をしているA企業の模倣をすれば自らは情報収集を行わなくても済む。つまり、模倣的同形化は、環境の不確実性を削減するために必要な探索コストを節約することができるので、合理的な行動なのである。このような角度から、いろいろと検証している。非常に興味深い本である。


北原 秀猛

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•  浅羽茂
•  同質的行動
•  不確実性


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