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平成三十年(上) 何もしなかった日本
平成三十年(下) 天下分け目の「改革合戦」

著  者:堺屋 太一
出 版 社:朝日新聞社
定  価:各1,600円(税別)
ISBN(上):4−022−57753−3
ISBN(下):4−022−57754−1

本書は1997年6月1日から1998年7月26日にかけて朝日新聞朝刊に連載されたものを、単行本化にあたり大幅に加筆・修正を加えた本である。

あとがきとして著者は、「“予測小説”は警世の書である。従ってここでは、“あって欲しくない未来”を描く。堺屋太一にとって、平成三十年(2018年)に“最もあって欲しくない日本”は、“何もしなかった日本”だ。しかし、そうなる可能性は高い。この10年、改革、改革と言われていながら、現実の世の中は、根本のところが変わらない。“何もしない日本”では、国際競争力の低下で円安と国際収支の赤字化が進み、不況と物価の上昇とが同居するスタグフレーションに陥る可能性が高い。連載当時の予測に比べてはるかに速く変った分野もあれば、進まなかったところもある。速かったのは、金融などの企業構造の変化と情報産業の発達だ。その一方、変らなかったのは官僚主導の体制と安全、平等、ことなかれの思想だ」と書いている。

予測小説ではまず、経済社会の条件を「最もありそうな状況(予測の中央値)」に置く。そしてその中で主題とする事件(theme matter)が起こった場合の影響を可能な限り現実的に描く。従って、テーママター以外では正確かつ体系的な状況予測が欠かせない。

そんな中で、日本では3つのことが確実に進む。第1は少子高齢化、第2は地方の過疎化、第3は知価社会化(様々な新産業と新製品が出現し、創業と閉業が増加している)である。

企業であれ国家であれ、組織が行き詰まり、事業の成績や評判が急落すると、改革改善の声が挙がるのは当然だ。だがそれは、人事・仕方・仕掛け・仕組みの順で進み、根本の考え方、つまり論理や美意識の転換に至るまでには、長い時間と幾度もの試行錯誤を経る。

平成になってから14年間で11人の総理大臣が誕生したが、そのすべてが「改革」を叫んだ。平成の日本では改革が常習化している。というのは、本当の改革が行われていない証拠である。こうした情勢が、これからも―平成三十年まで―続く可能性は高い。真の改革に必要なのは考え方の転換、つまり論理と美意識の変更であることが、まだ知れ渡っていないからだ。

この予測小説の主人公は、産業情報省通商政策局調査課長の木下和夫である。1974年生まれの43歳、太平洋戦争直後にどっと生まれた「団塊の世代」の子供、いわゆる「団塊ジュニア」だ。大学までは順調に進み、1997年に卒業、同時に昔の郵政省に入省した。入省3年目の1999年春に役所の先輩の娘である平美と結婚。翌年には娘の成子が生まれた。住居は東京青山の公務員宿舎72平米。玄関は昔ながらの1.5平米だ。和夫の月給は約200万円、ボーナス諸手当を含む年収は4000万円というものの、4割は税金と社会保険に天引きされる。少子高齢で社会保険は給与の28%、労使折半でも14%も取られる。20年前に比べて消費者物価が約3倍になっているのだから、木下の給与は21世紀はじめの手取り800万円、月給40万円強にしか当たらない。その上消費税が12%燃料税、酒税、タバコ税、自動車税など、お金を使うたびにかかる税金がある。

円の為替レートは、1ドル230円台である。ガソリンは1リッター1000円、地下鉄の初乗り500円、首都機能の移転を止めたとも言わないが、積極的に進める様子もない。アジア諸国からの勤労者の流入も多い。青山、赤坂、虎の門、新橋は俗に「新虎赤青(しんふーちーちん)」といわれるアジア系職場の蜜集地帯だ。

今世紀になってから2度の行政改革で省庁の数は減ったが、ポストと職員の数は減らない。平成28年の出生数は、100万人を割った。和夫の両親木下昭夫・弘子夫婦が受ける年金月額は約50万円、20年前の1997年の物価で見ると16万円ぐらい。当時の同じ立場の受給者に比べれば、半分近くに低下している。

自動車産業は世界生産の90%を10大企業グループが抑えている。アメリカのGMMとフォーズの2社。ヨーロッパ系がBVWとダイムスラーとP&Cそれにルフィトの4社、それから中国の燦龍と韓国のキムダイ、それから日本の2社、ニッポン自動車とサンダ自工である。

その頃に日本の抱える問題として日本国土に降る酸性雨の増加と、日本国内に流入する中国人労働者の急増がある。外国に留学する日本の青少年は50万人、そのために送金される金額は年間3兆円である。

20世紀末には全国の建設業者は約60万社、国民200人に1社であったものが、今は20万社を割込んだ。20年間で3分の1になった。20年前には年間160万戸も住宅を建てたのに、今は70万戸になった。

衆議院の選挙制度は、23年前に「小選挙区比例代表並立制」が採用されてから、基本的には変っていない。1992年には15歳以上の人口の61%が仕事についていたが、その後は徐々に下がり、今は54%、最高時には6600万人だった就業者が5800万人になっている。10年後には50%強まで下がって5200万人になると見込まれている。

1995年にはゴルフ場が約2300ヵ所あったが、今は1660ヵ所、3割近くも減った。競技人口では91年の1780万人が今は1000万人そこそこと44%減だ。

介護保険料は発促当時40歳以上1人月額2500円、今は、要介護者の増加で2倍、消費者物価の上昇で3倍、計6倍に引き上げられ、月額1人15000円になっている。今や65歳以上の高齢者比率は27%、その7割は年金が主な収入だ。

国の財政は大ピンチ。今年、平成29年度予算でも77兆円の赤字、国債依存度は25%になっている。アメリカやEU諸国は、既に資源危機の混乱から立ち直り、財政赤字をGDPの3%以内に戻したのに、日本だけは6%近い高水準が続いている。このため、国債残高は1250兆円余、地方債や財政投融資の不良債権分まで含めた公的債務累計は1700兆円を超えGDPの130%を上回っている。インフレで一時は低下したこの比率が、今世紀はじめの水準に戻ってしまった。平成28年の日本名目GDPは1340兆円であった。

平成29年経済統計確定値 前年同期比で鉱工業生産は2.4%減、大型小売店売上は0.4%減、住宅着工数は何と12%減、年間ベースで69万戸。当時は人口76人に1戸だったが、今は177人に1戸となる。

開業医の平均年齢64.5歳。病院は健保の投薬では利益が出ないので、保険対象外の最新輸入薬品を使用するケースが急増。薬代の3割が自己負担なので保険対象外の外国製最新薬を使っても、患者負担はそれほど増えない。むしろ、それを使用することで病院には検査や治療の収入が増え、患者には安心感を与える効果がある。医療も官僚お仕着せの時代ではなくなっている。製薬会社の輸入薬販売部門は円安で大赤字となる。

1996年3月期、日本は246万余の法人、黒字は3社に1社、3分の2が赤字、日本中の黒字総額は38兆5千億円、赤字額8兆円、差し引き30兆円余りの利益。それが20年後の2016年3月期、法人数202万社、黒字企業4社に1社、法人総利益50兆円強、総赤字は20兆円、差し引き30兆円の純利益、しかし、物価が上がっているのでGDP比では6%弱から2%強に落ちている。

1970年代、80年代の日本人は貯金好きだった。1997年には、個人の金融資産総額は、1220兆円、GDPの2倍以上もあった。今は貯金も流行らない。若者たちは親譲りの住宅を当てにしているし、中年以降は年金と介護保険を頼りにしている。収入の半分近くを税金と社会保険に天引きされた上、消費税が12%もかかるのでは、そうならざるを得ない。

平成29年の国民1人当たり国内総生産1120万円、1ドル252円で換算すると44000ドル余り。アメリカの半分。25年前はアメリカの1人当たりで1.4倍、台湾の3.2倍、日本は遅進国になった。GDPは1340兆円、アジアでは、台湾、シンガポールに次ぐ第3位、韓国とはほぼ同水準である。

西暦2000年の値段を100として、日本の輸出品平均は180である。日本の輸入は、稀少金属は582、原油380、小麦260、鉄鉱石238である。

平成30年5月製鉄2社の1つ大和製鉄が経営破綻。不況の深刻さが増し、日本経済は構造的破綻の状態にある。鉱工業生産前年同月比マイナス8.4%、主要小売店販売高マイナス3.2%、自動車販売台数マイナス13.4%失業率7.3%である。

以上の数字が物語るように、今から16年後の日本が著者の堺屋太一氏の予測があたったら、と思うと恐ろしさを感じる。しかし、あながちそんなことはないと否定できない。それはこの10数年の日本の実情を見てきたときに、官僚主導であることに変化がないことだ。このままでは、日本は間違いなく遅進国に成り下がってしまうだろう。

著者は言う、これからの10数年、内には人口の高齢化、外には中国などアジアの工業化に直面しながら、日本が「遅進国」であり続けるなら、そのあとにはどんな改革があり得るだろうか。いくつものシナリオが考えられる。その中で最もありそうなのは織田信長型、つまり体制内の異端者が、周囲の分裂と抗争を利用して実力を蓄え、温和な仕組みの変革者から次第に過激な思想の改革者へと変貌する経路だ。この過程では、当初の改革賛同者も次々と脱落する。織田信長の史実がそうであったように。特に、この国の社会の実権を握る政府官僚と伝統ある大企業の中枢管理者は、政権政界の変化などは「上辺の細波」とたかをくくっている。だから政治(選挙)にはそれほど深入りしない。改革者は、その間隙を突き抜け、形式と思われていた政次を実現に変える道を辿るだろう。織田信長が、誰もが形式と信じていた足利幕府を手中にして、その号令を現実のものにしたのと同じ手法だ。

「堺屋太一氏の予測小説、“平成三十年”(2018年)による日本の未来」

  • 2018年名目GDP1340兆円、国民1人当たり1120万円
    1人当たりGDPはアメリカの半分、GDPの規模アジアで台湾、シンガポールに次いで、第3位、現在2002年の名目GDPは496兆円、世界第2位、1人当たり390万円
    1ドル120円=46800ドルGDPの伸びは2002比2.7倍(しかしインフレ率3倍)
  • 消費税率12%、(新聞には憶測記事として、消費税20%も視野に)その他に酒税、たばこ税、自動車税がかかる
  • 消費者物価は今日の3倍、ガソリン1リットル=1000円、地下鉄初乗り500円(現在160円、3.12倍)、2000年=100とすると、輸入原油=380、小麦=260、鉄鉱石=238
  • 政府債務累計1700兆円(現在675兆円、)国債発行残高=1250兆円(現在414兆円)
    平成29年国家予算77兆円の赤字、国債依存度25%
  • 平成29年度の指数、鉱工業生産=マイナス8.4%、大型小売業=マイナス3.2%、自動車生産台数=マイナス13.4%、失業率=7.3%
  • 住宅着工数=69万戸、(現在160万戸)
  • 建設業者20万社(現在60万社)法人数202万社(現在246万社)ゴルフ場1660ヵ所(現在2300ヵ所、競技人口1000万人、今は1780万人)
  • 65歳比率27%、3人に1人が65歳以上である。
    介護保険料は現在の40歳以上1人2500円が15000円になっている。年金は夫婦2人で月額50万円だが2002年の貨幣価値で言うと16万円である。
  • 平成28年の出生数100万人を割る。2001年合計特殊出生率1.33=117万665人
    労働人口5200万人(最高時6600万人)
  • 病院数=2000、開業医数=8万、医師数=28万人、開業医平均年齢=64.5歳
    保険対象外の輸入薬多く使用される。(病院は好んで使用)

北原 秀猛

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•  堺屋太一
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