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なるほど!日本経済早わかり

著  者:池上 彰(NHK「週刊こどもニュース」キャスター)
出 版 社:講談社
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−062−11345−7

前回の著書「わからなくなった世界情勢の読み方」が好評であり、その好評に押されて出版された本である。著者の池上彰氏の本は難しいことを易しく、わかりやすく説明し、誰にでも理解できるようになっている。著者自身が“はじめに”のなかで、「経済ニュースは、私たちにとって疑問だらけです。それなのに、経済ニュースは増えるばかり。さも「知っているのが当然」と言わんばかりの様子で、専門用語が乱れ飛びます。そんな難しい経済の仕組みと専門用語を、何とかわかりやすく説明し、日本経済の全体像をはやわかりできるように書いたのがこの本です」と述べている。

内容は、第1章:「景気が悪い」とはどういうことか、第2章:不良債権に苦しむ日本の銀行、第3章:日本銀行は何をしているのか、第4章:国債は誰から借金しているのか、第5章:円の値段が下がっている、第6章:元気がない株式市場、第7章:日本はよみがえるのか?の7章になっており、それぞれの章が全体で35に細分化されている。

景気という言葉の中には「気」という文字が入っていますが、実は、「景気」には気分の問題という要素が多分にあるのです。NHKが2001年の11月から12月にかけて実施した世論調査によると、今の暮らし向きの実感について、「ゆとりがある」と答えた人は、前回(2001年6月)調査の53%から46%に減りました。逆に「苦しい」という人が45%から53%に増えました。年代別では、特に40歳代で「苦しい」と答えた人が63%に上りました。

1960年代はじめのGNPは20兆円規模でした。このころ、日本経済が1年間に2兆円分拡大すると、経済成長率は10%です。現在の500兆円規模では2兆円増えても、成長率は0.4%にしかなりません。アメリカでは、3ヵ月ごとの比較で、前より2期続いて経済成長率がマイナスになったときに「不景気」と呼びます。日本では経済成長率が「潜在成長率」より下回ったときに「不景気」と呼ぶことが多いようです。

日本経済には、その実力からして、「この程度は年々成長していくだけの力がある」と専門家たちが考える数字があります。これを「潜在成長率」といいます。戦後の日本で経済成長率がマイナスになったのは、第1次オイルショックの1973年と1998年、99年と続き、1年おいて2001年に再びマイナス成長です。今年もこのままではマイナス成長です。

銀行をめぐるニュースで、しばしば登場するのが「不良債権」と言う用語です。不良債権を簡単にいえば、銀行など金融機関が貸したのに返してもらえないお金のことです。その基準には3種類あります。銀行の自己査定により分別した債権、金融再生法による開示債権です。この「自己査定」は4つに分類しています。「正常先」、「要注意先」、「破綻懸念先」、「実質破綻先・破綻先」です。日本の公定歩合は、1985年5月まで、2.5%と言う低金利状態が続きました。金利が低いので資金が借りやすくなり、日本国内に資金があふれ、大量の資金が株や土地の購入に向かって、日本経済のバブルを作りだしました。

戦後長らく、日本の銀行は大蔵省の「護送船団方式」によって守られてきました。すなわち一番遅い船に合わせて進みました。一番体力のない弱い銀行でもやっていけるような保護政策をとったのです。1992年から2000年までに、全国の銀行が処理した不良債権の額は68兆円に達し、2000年の段階でまで64兆円の不良債権が残っています。いったんは貸し倒れ引当金を積んで「処理」していたつもりになっても、不良債権の土地の価格が不況が続くためにさらに下落して、回収可能な金額が減ってしまい、不良債権が増加してしまった、というケースです。国際的に活動する銀行の場合、「自己資本が8%以上あること」というルールがあります。これは国際決際銀行(BIS)が決めたことなので「BIS規制」と呼びます。銀行は自己資本の12.5倍しか貸せないことになります。

日銀は、日本銀行法という法律で設立された特殊法人で、全国に6000人の職員がいます。職員は公務員とみなすという規定があります。

景気を良くするためには公定歩合を下げればいい、というのがこれまでの“常識“でした。日銀の公定歩合は、バブル崩壊後、矢継ぎ早に引き下げられてきました。1995年9月には0.5%、2000年2月0.35%、翌月には0.25%、2001年9月には0.1%にまで下がってしまったのです。これだけ下げたのに、景気回復の動きが出てきません。消費者の消費意欲が落ち込んでいる以上、新たな工場建設の動きは生まれず、景気回復に結びついていかないのです。デフレ下では物価が下がっていくので、お金の価値が高まり、借金の実質的な負担が大きくなります。たとえば、借金の金利は1.5%だったとしても、物価の値下がりの率が2%だったら実質の借金の金利は、2%プラス1.5%で3.5%になってしまうのです。

こうなると、もはや公定歩合の操作には限界があります。そこで考えられたのが、「量的緩和」政策でした。それは、一般の銀行がもっている国債や社債、手形を日銀が大量に買い上げるのです。日銀に当座預金の口座を持つ銀行は、お互いに資金の貸し借りをします。この貸し借りは、担保なしで一晩だけ貸す、というもので、「コール市場」(無担保コール翌日物とも)と呼ばれています。最近はコール市場で決まる金利が日本の金利水準を左右するようになっています。

「インフレ・ターゲット」論が注目を集めています。年間の物価上昇率を、2%とか3%とか、あらかじめ定めた範囲の中に収まるようにコントロールする金融政策です。1998年に経済学者ポール・クルーグマンが提唱した考え方です。「日本はゼロ金利の状態が続いているが、デフレによって物価が下がり、現金の値打ちが上がっているから、実質的には金利は高くなっている。実質的な金利が高くては、新たに資金を借りようと言う企業は出てこない。これでは景気が回復しない。インフレを起こして物価を上げ、現金の価値を下げれば、実質的な金利をマイナスにすることができ、景気は回復する」というものです。

もしインフレが発生すると、お金の価値が下がりますから、国の借金である国債の返済の実質的な額が減り、国家財政にプラスになります。物価の上昇で土地価格も上がり、担保になっていた土地価格の値上がりで不良債権が解消する、と言う考えです。

2002年度予算は、81兆2300億円です。これだけの支出をするためには、税金の収入だけでは足りず、新たに30兆円の借金をしています。この借金が「国債」です。ところが、新規発行は30兆円でも、実際に発行される国債は、それよりはるかに多く、100兆円に達しているのです。それは、2002年度に満期を迎える分を返済するお金が足りず、再び国債を発行しているからです。これまでに発行した国債の利払い額が16兆6712億円にも上っています。

経済ニュースにつきものなのが、「東証平均株価」あるいは「日経平均株価」です。東京証券取引所一部上場企業のうち、代表的な225社の株価を平均して出します。まず全部を額面50円に換算します。たとえば額面5万円で現在50万円の価格がついている株は、1000で割って、500円になります。こうして225社の数字を合計し、「除数」で割ると、平均が出るのです。「TOPIX」とは、「Tokyo Stock Price Index and average」の頭文字をとったもので、「東証株価指数」といいます。東証1部上場企業全体の株価の時価総額を、指数(ポイント)で表しています。1968年1月4日当時を100として計算しています。「金庫株」が2001年10月から解禁になりました。企業が、自社の株を株式市場で買い、まるで「金庫」にしまっておくように、手元に置いておくことができるようになりました。

バブルがはじけてからの10年間は、「失われた10年」という言い方がされてきました。日本政府が手をこまぬいている間に、不良債権は積み重なり、国債は膨大な額になりました。こうした情けない姿をみていると、「失われた10年」と言いたくなりますが、しかし、この10年間でも、実は平均1%の経済成長率を達成していたのです。政府は、日本経済に2%の「潜在成長率」の能力があると考え、それより低い1%の成長率をもって「不況」だと騒いできたのです。前ほど急速に成長しなくなったからといって「不況」だと騒ぎ、「景気回復のためには公共投資が必要だ。そのために赤字国債を発行する」と言い続けてきました。これは、「バブルの夢よ、もう一度」でしかなかったのではないでしょうか。そんなことのために、私たちは、子孫に多額の借金を残してしまいました。恥ずかしいことです。

  1. 競争を嫌い、共存共栄をモットーにしてきた日本は、非効率な「社会主義」化してしまった。
  2. 競争を避け、政府の保護にすがった産業は衰退した。
  3. 小泉内閣の「構造改革」は、失業率増大という「痛み」を伴う政策である。こういうときこそ、「ワークシェアリング」という新しい働き方を模索すべきだ。

人気グループ「モーニング娘。」の初代メンバーは、そもそもオーディションの落選者たちでした。「負け組」が、これほどまでに人気者になったのです。これぞ、一度失敗してもやり直すことが出来るのだ、というメッセージを送ってくれます。失敗してもやり直せる。敗者復活がいくらでもある社会。そんな仕組みを作っていくと、「失敗しても、もう一度やればいいや」と将来に希望がもてる可能性があります。「モーニング娘。」は、メンバーが同時に別のユニットにも所属して活躍しています。組織が固定化していないのです。メンバーの中でつねに流動化が起きていて、現状に安住することがありません。別の組み合わせをするたびに、「新しい自分」を発見して成長していきます。成長したら独立します。新しいメンバーが参加します。こんな組織のあり方に、今後の企業経営のあり方を見ることもできます。組織の柔軟性と敗者復活。「モーニング娘。」から学べることは多いのです。

以上が本書の要旨である。著者が述べているように、最近は専門用語が多く乱れ飛び、なかなか理解し難い面がある。その点を著者はわかりやすく、平易に解説している。自分では分っているようだが、いざ他人に説明するとなると、しどろもどろになったりするものだ。すなわち、しっかりと理解していないのである。一度自分がどれだけ知っているのかを試すにもいい本だと思う。最後に記してある「モーニング娘。」の例も大変に参考になるのではないだろうか。


北原 秀猛

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キーワード
•  不良債券処理
•  BIS規制
•  モーニング娘。


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