HOME
会社概要
セミナー
教育関連
海外情報
書籍
お問い合わせ
ワールドネット
HOMEUBブックレビュー詳細





エンタープライズ・プロジェクトマネジメント表紙写真

エンタープライズ・プロジェクトマネジメント
プロジェクト型組織による全社経営

著  者:ポール・C・ディンスモア
出 版 社:ダイヤモンド社
定  価:2,200円円(税別)
ISBN:4−478−47058−8

本書のメインテーマであるエンタープライズ・プロジェクトマネジメントとは、企業をプロジェクトの総体として捉え、その実施、評価を通じて企業目標を達成していこうというコンセプトに基づいた経営理論である。すなわち事業部制に代表されるような機能別組織活動を前提にした経営管理ではなく、その時々の環境変化に対応するため、あるいは自ら変化を起こすために、組織を超えて機動的に編成されるプロジェクトを常に同時並行させることを前提に、それをどう管理していくべきかを説いた理論である。

本書はエンタープライズ・プロジェクトマネジメントの理論紹介に終わることなく、それを組織にどう普及させていけばよいのか、またその際にはどのような人材が必要になるのかといった、実践的な点にまで触れていることである。

本書は(1)ビジネスの成功には付加価値を創造すること、(2)目指すべき付加価値はあらゆるタイプのプロジェクトを組織横断的に展開しながら創造していくこと、の2つを基本原則としている。そしてプロジェクトがそうした形でうまく管理されている限り、ビジネスが成功する確率もより高いものになると考えている。今日の課題に対処するには、企業自身が安定志向の組織からダイナミックに変わり続ける組織へと変わらなければ始まらないのだが、そのためには、組織の末端に至るまで階層型の枠にはめ込まれた官僚的な組織ではお話にならない。ジャズバンド的な組織こそが求められるのである。

エンタープライズ・プロジェクトマネジメントを組織全般にわたって普及させることにより、ビジネスのスピードと生産性を高めることが期待できる。すなわち、時間――コスト――品質というプロジェクトの“3大要素”を見据えながら、全社レベルの企業目標達成と言う点に常にベクトルを向けているのである。

本書は全11章からなるが、前半5章まではエンタープライズ・プロジェクトマネジメントのコンセプトと基本理論について説明している。後半の6つの章は、エンタープライズ・プロジェクトマネジメントの実践方法やその際に組織に求められることなどを中心に構成されており、特にエンタープライズ・プロジェクトマネジメントの核心について多くを述べている。

プロジェクトとは「非反復的な仕事」である。始まりと終わりが明確にある1度きりの仕事がプロジェクトである。これに対して毎度同じことを繰り返す、いわゆるルーチン業務のことを本書では「プロセス」と呼ぶ。

プロジェクトの存在が企業にとって日増しに大きくなるなかで、プロジェクトを活用した経営管理に注目し、それをMOBP(Managing Organizations by Projects=プロジェクトの実践による組織管理)と呼んだ。IT活用を前提にしたMOBPであり、本書のテーマでもあるエンタープライズ・プロジェクトマネジメントである。それは、複数のプロジェクトを統率しながら同時並行的に進めることで企業目的を達成しようという、全社レベルの視点にたった経営管理手法である。ここで、エンタープライズ・プロジェクトマネジメントの3原則を紹介しておこう。

  1. 首尾一貫したプロジェクトマネジメント手法は、組織全体で理解され共有されるものでなくてはならない。
  2. 全社を管轄とするプロジェクト事務局を設置し、個々のプロジェクトに対する側面支援機能を充実させる必要がある。
  3. 経営トップの機能や利益を保証するようなツールは、全体最適の視点から選択されなければならない。

プロジェクトやそれに投下したリソースの成果をタイムリーに、しかも目に見える形にまで仕上げるために、経営トップはこれら3つの基本思想をエンタープライズ・プロジェクトマネジメントの鉄則として頭に入れておく必要がある。そうした思想を堅持することで、解が用意されていない状況にあっても確かな対応をとることができ、同時並行的なプロジェクトによって目指すべき目的にたどり着くものである。

経営者に真っ先に何が求められるかと言えば、新たな組織哲学にほかならない。オーケストラの指揮者が持つマインドを自分のものにし、あたかも組織全体に血液を循環させるかのように次々と立ち上がるプロジェクトを美しくオーガナイズするのである。

ひとたび戦略目標が決まれば、次にやるべきことは、戦略目標を各プロジェクトのミッションへと納得のいく形で落とし込んでやることである。この作業がプロジェクトをうまく配置できるかを左右する。具体的には、利害関係者対策、プロジェクト目的の優先順位付け、プロジェクトのリスク管理、全社レベルのマネジメント体制の見直し、そして、戦略的なプロジェクトプランニングなどを行う。

プロジェクトが組織にもたらす効用を最大にするには、プロジェクト間で優先順位をつけることが欠かせない。そして、エンタープライズ・プロジェクトマネジメントを社内に普及させようとしているならば、真っ先に変えなければならないことがある。組織、企業文化、経営管理、そして情報システムの4つである。

エンタープライズ・プロジェクトマネジメント下での経営トップは、戦略プログラムの管理者としての役割を果す。よって戦略目標に基づいて配置された多くのプロジェクトを包括的にコントロールし得るのは、立場上、彼らをおいて他にない。そんな経営トップの最終的な責任は、さまざまのプロジェクトを首尾一貫して最終ゴールまで導くことにある。以下の確認事項は、多忙な経営トップがプロジェクトの順調な進捗を確かにするための有効な手引きとなるだろう。

  • 経営トップによる強固なサポートを確実なものとしているか?
  • プロジェクトにとって最適なマネジャーを任命し、かつベストなチームを構成しているか?
  • よいチームを構成するために経営トップができることはすべて行っているか?
  • プロジェクトマネジメント手法とサポートが適切であるか?
  • 常に質問することを心がけているか?

経営トップがプロジェクトマネジメントの要諦を押さえながら、これまで説明した質問のフォーマットと提案に従って進むのが、プロジェクトにとってよいスタートになるだろう。結局、優れた経営トップ像をつくることが、プロジェクト志向の企業文化を生み出すことに大いに役立つのである。

プロジェクトマネジメントのトレーニングを発足させる際に有用なチェックリストを示す。
(1) 情報を収集する
(2)目標を設定する
(3)実行戦略を設定する
(4)計画を作成し、やり遂げる
計画の早い段階で、独自のトレーニングプログラムを自前で作成するのがいいか、外部から購入するほうがいいかを判断しなくてはならない。

プロジェクトの成功は、単に有能なリーダーやスタッフがいるだけでかなえられるものではない。優れたマネジメントの土壌なくして、プロジェクトの成就はあり得ない。高度なマネジメントがありさえすれば、たとえば適切な要員のアサイメントなど、プロジェクトに影響するすべての要因を見事にコントロールしているはずである。

以上が本書の概要である。この概要でおわかりのように、今日のように刻々と変化する環境に即対応するために、組織を超えて機動的にプロジェクトを編成して、対応していこうとするものである。その結果として、ビジネスのスピードを速め、尚かつ生産性を高め、企業目標を達成しようとする狙いである。すなわち、この手法を、エンタープライズ・プロジェクトマネジメントと呼び、複数のプロジェクトを統率し、同時並行的にプロジェクトを進めることで企業目標を達成しようとする経営管理手法の紹介である。しかも、単なる理論の紹介ではなく、さらにそれを推し進めて、実践的な点まで触れているので、非常に参考になる。


北原 秀猛

関連情報
この記事はお役にたちましたか?Yes | No
この記事に対する問い合わせ

この記事に対する
キーワード
•  プロジェクトマネジメント
•  ジャズバンド的組織
•  MOBP


HOMEUBブックレビュー詳細 Page Top



掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はセジデム・ストラテジックデータ株式会社またはその情報提供機関に帰属します。
Copyright © CEGEDIM All Rights Reserved.