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コトラー 新・マーケティング原論
  Marketing Moves

著  者:フィリップ・コトラー、ディパック・C・ジェイン、スヴィート・マイアシンシー
監  修:恩蔵 直人
訳  者:有賀 裕子
出 版 社:翔泳社
定  価:2,500円(税別)
ISBN:4−7981−0276−8

今日、市場は速いペースで変化している。価格に敏感な顧客、新規参入企業、新しい流通チャネル、コミュニケーション手段、インターネット、モバイルコマース、グローバリゼーション、規制緩和、民営化への潮流など、変化を促すファクターは枚挙にいとまがない。その上、市場だけでなく、それを支えるテクノロジーも激変している。

ニューエコノミーはインターネット、テクノロジー、グローバリゼーションが結びつくことによって創出された。オールドエコノミーは製造業をマネジメントするという発想を土台にしていたが、ニューエコノミーは情報と情報産業のマネジメントの上に成り立っている。ニューエコノミーの勝者となる条件は、卓越した情報システムを構築し、他社を凌ぐ情報力と叡智を身につけることである。肝に銘じておくべきは、マーケツトの変化があまりに速く、マーケティングが追いつけなくなっていることである。マーケティング戦略を、企業戦略の文脈の中で築いていくことが求められている。

本書は、マーケティングという概念に代えて、ホリスティック・マーケティング(全体論的マーケティング)という概念を取り入れている。需要、経営資源、ネットワークのマネジメントを統合することである。今日の経済環境はオールドエコノミーとニューエコノミーの混合であり、「ナウ・エコノミー」あるいは「ネクスト・エコノミー」と呼ぶのがふさわしいだろう。

ニューエコノミー下で高業績を目指すなら、事業全般とマーケティングに関して、次の9つの発想転換を受け入れることである。

  • 情報の非対称を解消して、すべての当事者に等しく情報を伝える
  • 一部の顧客ではなく、すべての顧客のために製品を用意する
  • 「作って売る」という発想を捨てて、「ニーズを感じ取って満たす」ように努める
  • 地域経済ではなくグローバル経済を事業のフィールドに据える
  • 収穫逓減の法則を克服して、収穫逓増を目指す
  • 資産を自ら所有するのではなく、社外の資産を利用する
  • 企業統治(コーポレート・ガバナンス)から市場統治(マーケット・ガバナンス)へ重点を移す
  • 大量市場(マス・マーケット)ではなく、「個客市場(マーケット・オブ・ワン)」を前提にする
  • ジャスト・イン・タイムからリアルタイムへ移行する

今日、市場は、顧客価値、コア・コンピテンシー、協働ネットワークという3つの大きな要因に突き動かされている。
顧客価値
 ・ 顧客中心主義を貫く
 ・ 顧客価値と顧客満足を重んじる
 ・ 顧客の要望に合った流通チャネルを築く
 ・ マーケティング・スコアカードを活かす
 ・ 顧客生涯価値から利益を生み出す
コア・コンピテンシー
 ・成果、コスト、スピードで他社勝る業務はアウトソーシングする
 ・世界のベストプラクティスにならう
 ・新しい競争優位をたゆみなく生み出していく
 ・部門横断的チームを設けて業務プロセスを円滑化する
 ・ 物理的市場(マーケットプレイス)から仮想市場(マーケットスペース)へと取引の場を広げる
協働ネットワーク
 ・すべての利害関係者(ステークホルダー)の利益を追求
 ・サプライヤーを絞り込み、事業パートナーとしての絆を強める

新しい価値は市場で生まれ、市場内部、あるいは複数の市場を移動する。市場では競争と変化が絶え間なく起きているため、価値を掘り起こすためには明確な戦略が欠かせない。明確な戦略を構築するには、1.顧客の意識、2.自社のコンピテンシー、3.事業パートナーの経営資源の関係と相互作用を理解する必要がある。価値機会を活かすためには、価値創造のスキルが求められる。マーケターは、(1)顧客の意識を探り、何が顧客の利益になるかを推し量る、(2)コア・コンピテンシーを活かす、(3)協働ネットワークから適切な事業パートナーを選び出してマネジメントする、といった役割を果たさなければならない。

企業は、「作って売る」から、「(ニーズを)感じ取って満たす」へと発想を転換しなければならない。顧客価値を広い視点で捉えなければならない。そして、顧客にとって最も便利なやり方でニーズを満たさなければならない。顧客が最小限の時間とエネルギーで製品・サービスを探し、注文し、受け取れるようにすべきなのだ。顧客のニーズにより低コストで応え、より大きな満足を引き出すためには、サプライヤー、流通企業、社員、地域コミュニティとの協力関係をうまく活かすべきである。

価値創造の4つの主体:企業、顧客、事業パートナー、コミュニティ――は、マーケッティングの戦略と実務の両面を大きく変容させつつある。

マーケティング戦略の前提が変化している。

以前
現在
  • マーケティングはマーケティング部門だけの仕事だった
  • インタラプション・マーケティングに力点が置かれていた
  • 新規顧客獲得が重視されていた
  • 目先の販売成果を上げることが目指されていた
  • マーケティング支出は経費と見なされていた
    • 顧客価値の探求、創造、提供に関わる業務すべてがマーケティングである
    • パーミッション・マーケティングに重点がある
    • 顧客維持と顧客ロイヤルティの獲得に重視
    • 顧客生涯価値を最大限引き出すことを目指す
    • マーケティング支出は投資と見なされる

    デジタルエコノミーの特徴は、消費者が自ら求める情報を手に入れ、取引を始めることである。取引条件についての希望も示す。企業側は、自分の意志で自社サイトを訪れた顧客に対してすら、個別に了解(パーミッション)を得ないことにはコミュニケーションをとることも、リレーションシップ(関係性)を築くことも出来ない。顧客ニーズには、顕在的ニーズと潜在的ニーズの2つのタイプがある。顕在的ニーズは、顧客がすでに自覚していて、表現できるものである。潜在的ニーズは、顧客自身も表現することができず、満たされるとも考えていない。潜在ニーズを掘り起こし、それを満たす製品を開発するには、ソニー並みの力量が一般に求められるだろう。

    今日の経済下では、価値は2つの力によって生み出されている。消費者の力、すなわち要求水準の高まりと、企業のイノベーシヨン力である。消費者はさまざまなタイプに分けられる。数多くの既製品の中から好みに合ったものを選びたいと考えるタイプと、自身のニーズを満たすために製品の設計や生産に関わっていこうとするタイプである。また、価格をもとにコモディティを購入するタイプと、価値を重視して個別のソリューションを求めるタイプへの分類も可能である。これらの両極に位置するのが、受身一方の買い手と共同生産者(コプロデューサー)である。

    ビジネスモデルを設計する目的は、自社特有の価値の流れ(バリュー・ストリーム)をマネジメントすることである。事業取引の形態にはワン・ツゥ・ワン(1対1)、ワン・ツゥ・メニー(1対多)、メニー・ツゥ・メニー(多対多)の3つがあり、売り手と買い手を結び付けるためのアーキテクチャー(構造)がそれぞれ異なる。

    世界経済は新しいテクノロジーの登場、グローバル化の進行、超競争の展開など大きな変化にさらされている。一部にはこれを「オールドエコノミーからニューエコノミーへの移行」と表す向きもある。だが、オールドエコノミーが消滅したわけでも、ニューエコノミーが広く活況を呈しているわけでもない。ニューエコノミーは健在だが、その恩恵にどの程度浴しているかは、企業、産業、国によって開きがある。ニューエコノミーの時代、顧客に価値を届けようとするなら、マーケターは次の4つを実践しなければならない。

    1. 新しい市場機会を見つけだす
    2. 市場機会を比較して、どれが最良であるか評価をくだす
    3. ターゲット市場のニーズを最もよく満たせるように、価値提案(バリュー・プロポジション)を行い、製品やサービスをうみだす
    4. 約束通りの価値を提供できるように、最もふさわしいバリューチェーンを提供する

    成果を上げるためには、マーケターは価値を探求し、創造し、提供するためのスキルを身につけなければならない。顧客の意識や心情を理解し、事業の推進に必要なコア・コンピテンシーを獲得し、成功に欠かせないコンピテンシーを提供してくれる他社と提携しなければならない。

    以上が本書内容の概略である。オールドエコノミー下での伝統的なマーケティングは、主として製造業のマネジメントという視点をベースにしているのに対して、デジタルエコノミー下での新しいマーケティングは、情報並びに情報産業のマネジメントという視点をベースにしている。そして、勝者となるためには、卓越した情報システムを構築し、他社を凌ぐ情報力を備える必要がある。本書で提唱されているホリスティック・マーケティングの焦点は、顧客価値、コア・コンピテンシー、協働ネットワークの3つに整理できる。

    まず顧客の意識を探り、何が顧客にとっての価値となるのかを推し量らなければならない。そのためには、製品中心主義に代わって顧客中心主義を貫き、顧客満足度に加えてマインドシエアや離反率にも注意しなくてはならない。仮に大きな市場シェアを有していても、ロイヤルティの高い顧客を獲得しているとは限らないからだ。

    ミレニアムを迎えて、顧客は絶対的な存在になりつつある。企業は、顧客を見上げるというスタンスで顧客を志向しなければならなくなってきた。顧客側が具体的な要望と購入価格を企業側に伝え、製品の受け取り方法を指定する。広告などの情報を受け取るか否かを決定するのも顧客側に移っている。そして、マーケティング部門はコストセンターではなく投資センターであるということである。


    北原 秀猛

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