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迷ったときは、前に出ろ!表紙写真

迷ったときは、前に出ろ! タイガース再生への道、険しくとも

著  者:星野 仙一
出 版 社:主婦と生活社
定  価:1,400円(税別)
ISBN:4−391−12693−1

プロ野球は1シーズン140試合ある。概ね80勝60敗で優勝できる。最下位のチームでも60勝程度はあげる。つまり、20勝の差で天国と地獄を見ることになるわけだ。

タイガースは、勝つ味――正確に言えば勝ち続ける味を知らない。敗戦翌日、試合前の練習で、打たれたピッチャーたちは、「あのコースを打たれちゃ、しょうがねぇよな」、「せっかく内野ゴロにしとめたんだから、ゲッツー取ってくれなきゃ」、などとグチを言い合う。野手陣の方は、「昨日の中継ぎのピッチャーは球が走っていたな。あれじゃ打てねぇよ」、「そうそう、あのフォークのキレじゃあな。追加点は無理だよ」と慰め合う。

チーム内に「優勝しよう」という統一意識が生まれれば、監督の仕事の半分は終ったと言っていい。そうすればまず、選手たちの練習する姿勢や試合中の集中力が変わってくる。プロ野球選手の選手寿命は非常に短い。せいぜい15年だ。その間に生涯賃金の大部分を稼ぐのだから、人生において最も重要な期間と言えよう。

阪神タイガースは、主力選手からして若手が多い。私は、“迷ったときは、前に出ろ”と耳にタコができるほど言い続ける。「前にでて失敗したら、後悔せん。下がって失敗すれば、後悔するやろ!」。この“迷ったときは、前に出ろ”には「とにかく、やってみろ」という意味も込められている。

今シーズンのタイガースは、常にケガ人に泣かされた。不可抗力もあるが、基本的にケガ、病気、事故は本人の責任である。ジャイアンツの松井があれだけマークされ、厳しいコースをつかれていても連続試合出場をできるのは、プロとしての自己管理ができているからに他ならない。

今の選手は、「これをやれ」と言われたら、それだけはきちんとやるがそれ以上は考えない。自分たちの発想はまったくないのだ。つまり、我々経験者の発想だけで練習をやらせていることになる。そうすると、いつまでたってもアドリブも出なければプラスアルファもない、魅力が感じられない選手のままである。それを打破するには、指導者の側が根気よく彼らの理論武装に対応してやることが大切だ。野球に限らず、職場というものは戦場である。こいつを陥れてやろうなんて策略的なものが無い限り、この選手をなんとかしてやりたい、今後ミスをなくさせたいという大前提で怒ったり注意したりしているのだ。プロ野球は結果がすべての世界だ。

プレッシャーの反意語は“リラックス”である。一般的には「本来の能力をフルに引き出すためにはプレッシャーの克服が必要である」と言われ、そのカギは、いかにリラックスして事に当たれるかということになる。しかし、ある程度のプレッシャーがないと良い仕事はできない。スランプをいかに浅く、短くするかのポイントは、好調なときに自分をチェックすることである。練習はもちろん、私生活も含めてである。普通、好調時は天下を取った気になって何も考えないものだが、そんなときにこそ「なぜ今好調なのか」を考えることが重要になる。

現在はすでに、情報化社会の“化”が取れて「情報社会」になった。情報社会が発展すればするほど、分析力が勝負の分れ目となってくる。分析はコンピュータが行うが、それを利用するのは生身の人間である。それを肝に銘じておくべきである。「あいつはいつも貧乏くじを引いてるな」、「あいつはいつも最後に怒られてるな」、と言われる輩はいるものだ。彼らは、いざ戦場で役に立たない兵士である。

私は、自信はつけるものではなく、自然に湧いてくるものだと思っている。その湧いてくる自信をそれぞれが掴むのだ。指揮官は、部下に自信が湧いてくるまでの過程をつくってやるのが仕事だ。自信を失いかけた人には2つのタイプがある。ひとつは、不調によるもの。もうひとつは、能力不足や能力の限界を感じてのもの。スタッフはひとり残らず必要な人材なのだから、「誰が抜けても困る」という組織づくりを目指さなければいけない。本当に強い組織とは理屈で動くものではない。「ウチのオヤジがこう言ったんだから、それに命をかける」、という気持ちを持てる人間が何人いるかが大切なのだ。このシンプルさが、殺るか殺られるかといった“戦場”では最も力を発揮することになる。

私はプロセスを大事にした采配を旨としているが、ときには連敗を阻止するために試合内容は省みず結果のみ大事にした采配をすることがある。目先の1勝を狙うことは、長いペナントレースで命取りになることもあるが、そのリスクを承知で勝負に出なければならないときもあるのだ。具体的には、ピッチャーの無理使いや、守備を無視した超攻撃的な打線オーダーなどである。

リーダーの仕事は提供された細かなデータを覚えることではない。必要なデータを必要な人に届ける道をつくってあげればよいのだ。つまり、どこの引き出しを開ければどのデータがあるということを知ってさえいればよいのである。リーダーが覚えていなければならないのは、もっとおおまかな試合の流れに関する状況判断のデータである。これは「数字」という感覚に近いものがある。

私は、風呂やトイレでも本や雑誌を読んで、「これは役に立つな」というところにはラインを引いておいて、あとで読み返す。テレビを観ているときは必ず傍らにペンと紙を用意しておき、「面白い考え方だなぁ」というものは忘れないうちにメモしておく。私が「役に立つ」、「面白い考え方だ」というのは、すべて“野球に使える”ということである。

今のプロ野球界は、運営側が自分たちの既得権益を守ることに躍起になって、まったくファンの方を向いていない。例えば、オリンピックへのプロ選手の参加問題ひとつ取っても意見はバラバラだ。オリンピックと言う野球界をアピールする絶好の機会をみすみす逃がしている。オリンピックで好成績を残した競技はその後、その国の競技人口が増えるというデータもあるのだから、それを活用しない手はないのだが…。また、セ・リーグとパ・リーグでルールが統一されていないことも、ファン無視と言ってよい。DH(指名打者)制のあるなしの違うことはご存じだろうか。大事な場面で野手たちがマウンドに集まり、ピッチャーを励ましたり守備の確認をする。高校野球でよく見かけるシーンだ。それがパ・リーグでは監督かコーチがマウンドに行ったとき以外は禁止されている。スピーディーな試合を狙ってのルールである。しかし、セ・リーグにはそのルールがない。そして、プロ野球中継の視聴者の6割が50歳以上の中高年であり、20歳未満は1割に満たないという調査結果が出ている。つまり、将来のヘビィユーザーである若年層にまったく支持されていないという現実をしっかりと受け止めなければならない。

私は、次のリーダーに恥をかかせないような余力を残してバトンタッチする、というのがリーダーの責任だと思っている。我々は先輩から受け継いだものでメシを食ってきたわけだから、後輩にもそれを残していくのは当然である。まして、球団はいつまでも存続するのだから、次のリーダーにも優勝争いできる戦力を残しておかなければ意味がないのだ。

私はチームを広い意味で家族ととらえている。息子たちを愛しているから、失敗したら本気で怒ることができるし、成功したら涙を流して喜んでやれる。そして、息子たちと共に日本一を目指すのだ。1シーズンを闘い、タイガースの体質改善はずいぶん進んだ。負け犬根性はなくなりつつあるし、ボールに向かっていく闘争心も出てきた。技術面でも進歩している。しかし、私が満足できるまでにはほど遠い。彼らは、まだまだ私やコーチたちが、叱咤激励しながら育てていかなければならない息子たちである。私は中途半端なことはしない。思い切ったことをどんどんやってタイガースを、そして息子たちを強くする。阪神タイガース再生への道、それは険しくても…。

以上が本書の概略である。最初に書かれているように、勝ち負けの20勝差が天国と地獄の差である。これは、打者でも同じで、140試合の年間試合で全試合出場し、1試合平均4回打席が回ってきたとすれば、年間の打席数は、560打席になる。3割のアベレージを残すためには、168本のヒットを打てばよいことになる。もし、ヒット数が168本より10本少なければ、打率は2割8分となる。評価は3割と2割8分では全く違うものになる。その差は1間でタッタの10本である。すなわちチームにしても個人にしてもホンのわずかなことで泣きをみるのである。それは企業間の競争も同じである。まぁいいやとか、今日は調子が悪いからといって息を抜いたり、集中力に欠けたりした方が負けである。星野監督が言うように、グチを言うようになったら、自分の責任から逃れようとしているわけであるから勝ちはない。本書に書かれているように、野球に限らず、職場というものは戦場である。リーダーについてもそのありようが示されている。仕事で疲れているときに、ストレス解消に読んでいただきたい。


北原 秀猛

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•  星野仙一
•  阪神タイガース
•  強い組織づくり


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