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戦略の原理表紙写真

戦略の原理 独創的なポジショニングが競争優位を生む

著  者:コンスタンチノス・C・マルキデス
訳  者:有賀 裕子
出 版 社:ダイヤモンド社
定  価:2,400円(税別)
ISBN:4−478−37311−6

著者のConstantinos C. Markidesは、ロンドン・ビジネススクールの教授で担当は戦略論と国際経営であり、戦略研究科長も務める。キプロス開発銀行、ハーバード・ビジネススクールを経て現職。原題は、「All the right moves」である。

戦略を策定するには、どのような問題に取り組めばよいのか。どのようなプロセスを踏めばよいのか。戦略とは果たして「考案」可能なものなのか。本書では、過去3年間の研究成果をもとに、この問いに対して答えを提示している。優れた戦略はシンプルだが意義深い原理に支えられている。成功戦略の構築とは「科学」というよりも「技」である。

本書を貫く前提は、「優れた戦略とは、独自性の高い戦略的ポジションを見つけて開拓すること。そして、それと並行して絶えず新しいポジションを追求することである」というものだ。本書の構成は導入部にあたる序章に引き続き、第1部では「戦略的ポジションとは何か。また、どうすれば独自性の高いポジションを見つけだせるか」という問題を探求している。第2部では戦略イノベーションを行うことの意義を明らかにする。また、既存企業を念頭に置きながら、新しいポジションを見出す方法と、新旧両ポジションを同時にマネジメントする方法――それが最善の策ならばだが――を論じている。さらに、使命を終えた戦略を「安楽死」させ、新戦略にソフトランディングするための手法にも触れている。

どの業界にいようが企業は複数の戦略的ポジションを取り得る。したがって、戦略のエッセンスとはその中から1つのポジションを選び出すことだ。戦略的ポジションの要は、(1)ターゲット顧客、(2)提供する製品やサービス、(3)提供戦術、の組合せであり、戦略を立案するとはこの3点について意思決定を行うことに尽きる。

成功企業は既存の土俵で競争するのを避け、ゲームのルールを変えることにより今日の繁栄を築き上げている。つまり業界の巨人が闊歩する戦略的ポジションを狙うのではなく、まったく別の「フロンティア」を開拓したのだ。成功企業に共通しているのは斬新でユニークなポジションを生み出すという、戦略上のイノベーションを成し遂げていることだ。

●戦略イノベーションを妨げる諸要因

  • 現状を変革したりリスクを冒す必要性を感じない
  • 具体的な知恵がない
  • 懐疑的になる
  • 両面作戦に二の足を踏む
  1. 独自の戦略的ポジションを確保するための戦略を構築すること。これができる企業は成功する
  2. いくらユニークなポジションを見つけてもそれもいつかは陳腐化する。このため、1度覇権を手にしても、次のポジションを探す努力を怠ってはならない。さもなければ、他企業の後塵を拝することになる

企業にとって成功の秘訣とは、独自の戦略的ポジションを占め、そこで確固たる地位を築くことである。そのためには、以下の3点を実践することだ。

  1. 事業領域を定義する
  2. ターゲット顧客と提供する製品(あるいはサービス)を決め、効果的な競争戦術を練る
  3. 1と2の結論に沿って事業展開できるよう、それにふさわしい組織環境を整える

秀逸な戦略的ポジションを確立するためにの第2のステップは、ターゲット顧客、提供製品、提供戦術の3点を決めることだ。
◆誰を顧客にすべきか
◆どのような製品やサービスを提供すべきか
◆どのような戦術をとれば有効か

そして、最後に戦術を固めるためには、次のような意思決定を積み重ねる必要がある。

  • バリューチェーンをどう構成するか
  • どのような技術を利用するか
  • どの業務を自社で行い、何をアウトソーシングするか
  • 購買、製造、マーケティング、経理といった各業務をどのような方針でおこなうか

私たちは固定的な思考枠に囚われ、当たり前のことを見落としてしまいがちだ。これはメンタルモデルのせいである。「メンタルモデル」とは、言い換えれば「信念」のことであり、家族、ビジネス、世界全体など様々なものを対象とする。「メンタルモデル」に関して興味深いのは、それが私たちの行動にどう影響するかという点である。私たちは外からの情報をすべて、価値観のバイアスがかかった「フィルター」を通して受け取っている。見たり聞いたりすることは何もかも、このフィルターを通過しているのだ。情報を短時間に処理して素早い判断を下そうと思うと、メンタルモデルが大きな助けとなる。しかし、メンタルモデルがマイナス要因となることもあり得る。その理由としては、以下の通りである。

  • メンタルモデルのせいで、私たちは「白紙の状態から考える」ことをしなくなる
  • 人間には、自分の信念と相反する情報を受け入れない性質がある
  • メンタルモデルを克服する方法は実に多岐にわたり、その中には、ありきたりだが非常に高い効果を発揮するものがある
  • 斬新なアイデアを試す
  • 「成功のセオリー」に反する事例を抽出する
  • 主要業績指標をモニターする
  • 顧客や販売代理店など社外からのフィードバックを入手する

事業領域を問い直す目的は、自社ならではのケィパビリティ(能力)を最大限に活かせる分野を見つけ出すことに尽きる。ポイントは、独自のケィパビリティにぴたりとフィットするように事業領域を定義することだ。この「フィット」こそが、競争優位を生み出す。

  • 事業領域は何か
  • それを再定義したらどうなるか
  • その場合にはどのような戦術が必要か
  • 現在のコア・コンピタンスでその戦術をうまく遂行できるか

どのような戦略をとるべきかは、事業をどう定義するかによって決まる。戦略を立案するためには、その大前提として、事業領域を明確にしなければならない。事業領域の定義が、あらゆる戦略立案の原点とされるべきだ。

  1. 領域には「正解」もなければ「不正解」もない。肝要なのは自社特有のケィパビリティフイットする定義を見つけ出すことだ。そうすれば、それを最大限に活かして競争優位を築き、大きな利益を確保できる。
  2. 一般に、ルールブレーカーこそ最も警戒しなければならない相手だ。ルールブレーカーが既存企業に差をつける戦略を見つけ出せるのは、発想の出発点、つまり事業の定義が異なるからである。

●ターゲット顧客と製品を決める

  • 「誰をターゲット顧客にするのか」、「何を提供するのか」を決めると、そこからとるべき戦略が導きだされる。そうすれば必然的に、「ターゲットしない顧客」、「投資しない分野」、「対抗せずに静観すべき相手」も決まる。「顧客」と「製品(サービス)」を決めるには、2つの問いに答えなければならない。
  • 「どのような顧客層がターゲットとして考えられるだろうか/どのような製品を提供出来るだろうか」という1つ目の問いは、多くのアイデアを引き出すためのものだ。これに対して、「候補の中からどれに絞り込むべきか」という問いは、決断を導くためのものだ。両者を混同しないようにするのが重要だ。

●環境変化にダイナミックに適合する

  • 環境変化を機敏に察知し、手遅れにならないうちに必要な手を打つ
  • 変化を受容し変革を実践する組織文化を醸成する
  • どのような環境下でも効果的に企業間競争を戦えるように、必要なスキルとコンピタンスを育成する

戦略イノベーションを得意とする企業は、よい意味の危機感をうまく育てている。それは、その時々の業績を凌ぐ新しい目標を用意しているからであって、現状を否定しているからではない。

  1. 必要な事業活動を特定しただけでは、戦術を決めたことにはならない。それらを組合せてシナジーを生み出し、市場ニーズにフィットさせなければならない。
  2. 同時に、競争環境が常に変化していることを決して忘れてはならない。
    戦略の段階は以下の3つのステップを経て構築される。
    • おおもとの戦略目標を定める
    • 長期的目標を達成するためにはどういった短期的、中期的目標を設定すべきかを見極める(将来を起点とした発想)
    • 「途中段階の各目標を実現するためには、どのようなスキルとケィパビリティが必要か」を、現在を起点に考えて必要な投資を行う
  3. 従業員の行動は組織環境によって規定される。したがって、望ましい行動を引き出すためにはそれにふさわしい組織環境を用意することだ。戦略が成功するかどうかはこの点にかかっている。
  4. 組織環境は組織文化、組織構造、インセンティブ、人材の4つの要素から構成される。

戦略を立案する過程では計画と試行錯誤の両方を行う必要がある。これは大変重要な点であり、いくら強調してもしすぎることはない。それというのも、激変する環境下では計画など意味がない、という議論が花盛りだからだ。計画を立てている間に状況が一変してしまい、出来上がった計画はもう役に立たない、というのがその主張である。

●他社による戦略イノベーションに対処する

  1. 業界内で独自の戦略ポジションを占めたら、次はそこでの競争を有利に進める努力をしなければならない。他社より優位に立つには、それが絶対不可欠の要件である。
  2. 新たな戦略ポジションとは、ターゲット顧客、製品(サービス)、戦術を斬新に組合せたものである。新規性がありなおかつ一定以上に拡大しそうなポジションを見つけることが、戦略イノベーションの条件である。

優れた戦略を導くとは、次のような思考と行動を積み重ねることである。

  1. ユニークな戦略ポジションを見つけ、それを自ら開拓する
  2. 新しい戦場で有効な競争を繰り広げ、業界内で一番うまみの大きいポジションに育てあげる
  3. 現在のポジションでライバルと戦いながら、別のポジションを模索し続ける
  4. 将来性の見込めそうなポジションが見つかったら、そこに進出し、新旧両方のポジションを同時にマネジメントする
  5. 旧ポジションが時間の経過とともに成熟しやがて衰退に向かったら、新ポジションにゆっくり移行する。そして、同じサイクルをはじめからまた繰り返す。

以上が本書の概略である。本書の特徴は知識よりも発想方法に重点を置き、わかりやすく読者に伝えようとしている点である。そして各章の終わりごとにまとめを入れ、整理していることである。また、様々な企業の事例をふんだんに、効果的に挿入している。メンタルモデルの事例も面白い。我々は指摘されるまでもなく、固定的な思考枠にとらわれがちである。「1から100までの数字の中に、9は全部で何回使われているか」の問いに対して、われわれは10回と答えるケースは75%もあるという。正解は19回である。われわれはこの環境変化のなかで、もう1度自社の事業領域を再定義してみる必要があるのではないかと考えさせられる。宅急便のように、運輸業の定義を運郵サービス業と再定義してからの快進撃はご存知の通りである。百貨店が不振の理由の1つである、百貨を扱い、コマ(場所)を切りわたし、派遣店員のみで賄うやり方は昔も今も変らない。事業領域の再定義を行い、新たな戦術をもって商いをするべきだ。医薬品の製薬業にしても、ただ医薬品製造業、という発想ではうまくいかないだろう。一読する価値のある本である。


北原 秀猛

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•  戦略の構築
•  戦略イノベーション
•  戦略的ポジション


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