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日経大予測 2003年版表紙写真

日経大予測 2003年版

日本経済新聞社編
出 版 社:日本経済新聞社
定  価:1,600円(税別)
ISBN:4−532−21912−4

21世紀を迎えた日本経済は、非常に困難な状況にある。2001年春に誕生した小泉内閣は、改革路線を推進している。しかし、未だ改革の実は上がっているとは言えず、明るい将来展望は描かれていない。21世紀初めの10年が、日本経済再生を成し遂げるべき時期であることは論を待たないだろう。座して再生が成り立つわけではなく、何もしなければ再び停滞の10年を歩むばかりである。その意味で「改革」の言葉に反対はありえないのだが、難しい課題が山積しているため、「改革」の内容と戦略が問われている。迎える2003年は日本経済再生の基礎をしっかり固める重要な年であり、再生への第1歩を踏み出せるかどうかが課題である。

2001年度の実質GDPは、4四半期連続のマイナス成長が続いた結果、1.9%減と戦後もっとも大きなマイナス成長になった。これは、設備投資、住宅投資が減少し、在庫減らしも急激に進められたことによる。その上、民需を補うはずの公共投資、輸出とも大きく減少した。2002年に入ると、景気の足取りに変化が現れる。2000年から減少してきた輸出数量が、大きく増加するようになった。これを受けて、鉱工業生産が増加するようになり、在庫調整も完了した。政府は5月、景気底入れを宣言したが、4月〜6月のGDPは0.6%増とプラス成長に転じた。このように、景気底入れの背景には、米国経済の早期の立ち直りがあると思われる。

2001年9月11日の同時多発テロ後、米国経済は個人消費中心にプラス成長に転じた。アジア経済も回復してきたが、米国の成長が好影響を与えている。日本好転には、まだ時間がかかりそうである。

近年の日本経済の大きな特徴は、デフレの継続である。GDPデフレーターでは98年4〜6月以来、前年比で下落を続け、消費者物価も99年から下落が続いている。こうした物価下落は、名目で考える企業経営に心理的にマイナスの影響を与えていると思われ、また、不良債権の重みをも増している。物価下落の要因は、大きく3つ挙げられる。まず第1は、マイナス成長になった98年から物価下落が始まったことから推察されるように、需給ギャップの大きさが価格引き下げに働いている。4年間の成長率は、ならしてみるとゼロなので、この間需給ギャップは拡大を続けてきたことになる。それが価格を押し下げる力を強めてきた。第2は、円高による輸入価格の下落、安価な輸入製品のシェア拡大がある。衣服に代表されるように、日本企業が積極的に海外生産を増強して国内市場での競争に打ち勝とうとしている。最近における中国の生産能力の向上が、それを支えている。第3は、国内コスト削減努力が成果を上げている。特に強調すべきは、賃金が下落していることである。その結果、サービス価格も下落して、全体のデフレを強めている。しかし、このように賃金に伸縮性があれば、デフレスパイラルの恐れは遠のく。すなわち企業にとって、収益悪化が回避できるからである。

それでは、賃金の低下に直面する家計はどうするのか。2001年から2002年にかけて雇用者報酬が減少しているのに、個人消費は緩やかに増加している。雇用不安の高まりなどの中で、個人消費の増加を説明するには、価格低下が需要増を喚起するという経済原論を思い起こすのがよい。具体例は、2001年の「ユニクロブーム」や日本マクドナルドの「半額セール」などが挙げられよう。このように、一方でデフレスパイラルを防ぐ自動的な力が日本経済には働いていると考えられる。他方、3つの要因を考察すれば、需給バランスが急に改善しない限り、ゆるやかな物価下落基調は続くだろう。

金融政策は、「ゼロ金利+積極的量的緩和」を採用している。ゼロ金利は史上初とされ、また、量的目標を設定するという平時には考えられない異常な政策をとっている。だが、ハイパワードマネー(現金通貨と日本銀行の準備預金)は急増しているが、マネーサプライは増えず、デフレも続いている。財政政策については、財政赤字の大きさが制約になっている。財政政策については、財政赤字の大きさが制約になっている。政府債務残高はGDPの1.3倍程度の大きさに達し、財政当局は国債暴落の悪夢に取り憑かれている。このため、2002年度予算では、「国債発行30兆円以下」を基本方針に、公共投資10%削減など歳出削減に努めた。2003年度予算は、歳出を実質的に前年度以下に抑えることにしているが公共投資は3%削減など、やや削減方針は緩められていて、景気に対して中立型を目指している。いわば、「財政赤字削減は急がず、しかし、景気刺激には働かず」という性格にとどめている。

ここで留意すべきは、次の2点である。1つは、歳出内容の見直しである。財政構造改革といえば、その歳出が役立っているかという評価にもとづいて、歳出内容を的確に変更していくことである。額として中立的な歳出を構想するなら、内容に大いに工夫をこらすことが求められる。2つ目は、一般会計のみで財政政策を論じることの危険である。マクロの国民経済計算でみれば、公共投資は名目金額では96年以降減少を続けている。2000年、2001年度は特に大きく減っていて、一般会計の抑制方針は先取りされ、財政投融資など周辺部門や、地方財政で抑制が進められている。国家財政全般をみると、財政悪化はすでに削減圧力を強めているのである。財政による景気刺激という主張は根強いが、それを可能にする環境はますます狭まっている。

小泉内閣は、「改革なくして景気回復なし」を旗印に、「構造改革」を政策の中心に据えてきた。しかし、その成果が経済実態に表れているとは言いがたい。それも当然であって、小泉改革の狙いは、制度的変更で財政赤字削減と国民活動の活性化を実現することにある。だが、財政負担を肩代わりする民間が元気を出せるわけでもなく、民営化や民間参入で脅かされる公的部門が元気をなくす状況が先に立っている。本来、仮に的確な改革であっても、「成果は将来」「痛みは現在」が、この改革の性格なのである。現在進められている小泉改革では、経済再生の基礎が築かれてくるかどうか疑わしい。景気回復を外生的需要に頼り、租の中で改革を進めるというシナリオは、米国の景気悪化と財政金融政策の限界、改革路線の不十分さによって成り立たなくなっている。

このように、外国にも頼らず、政策にも頼れない以上、民間が自らの力で改革を進め、日本経済再生の第1歩を踏み出すべきである。そのために必要なことは大きく2つある。第1は、これまで解決せずに抱えてきた問題を一気に片付けることである。金融部門では、不良債権問題を解決して金融システムへの信頼を回復し、金融メカニズムが本来の機能を取り戻すことである。企業部門では、事業を見直して収益力の回復を図り、同時に様々な不祥事から日本企業に負わされた不信感を払拭することである。第2は、次なる発展の起動力を生み出すことである。新しいビジネス分野、新製品開発や生産方法、新しい経営手法、販売戦略などを見出していかなければならない。この際、世界経済や日本社会の変貌を十分織り込んでいく必要がある。たとえば、グローバル化、少子高齢化などにどう対処するかが問われている。

さて、2003年の景気は回復するのだろうか。政府は2002年5月の月例経済報告で景気は「底入れしている」との判断を示し、事実上の「底入れ宣言」を行った。アジア向けを中心に輸出が増加、鉱工業生産が増加基調に入り、在庫調整も進んできたことをとらえたものだ。景気循環という面から見れば、2000年10月をピークに下降に転じた日本経済は、遅くとも2002年の初め頃までに「谷」を過ぎ、景気拡大局面に入ったことは確かだ。しかし、最悪期を脱したからといって、内需主導で自律的な回復軌道に乗り、本格的な景気浮楊につながっていくとみるのは早計だろう。日本の輸出数量は2002年に入り増勢を強めたが、同年には早くも伸びが鈍化し始めた。鉱工業生産も輸出とほぼ同様の動きを示した。米国向け自動車、アジア向け電子部品の輸出の伸びが鈍化したためだ。米国株式相場が下落し、個人消費の停滞につながれば、米国市場での自動車販売が急減する恐れがある。アジアを経由した米国向けのパソコン関連輸出も打撃を受けるには必至。米国経済の変調は、世界的に調整が進んでいた在庫循環の動きにも大きく影響する。

企業はリストラの徹底で業績のV字型回復を最大の目標にしている。手元の現金の流出要因となり、余剰生産能力を作り出しかねない設備投資には極めて慎重だ。製造業を中心にアジアへの生産移転の動きを加速させていることも、国内設備投資を抑える要因だ。国内総生産の5割強を占める個人消費も悪化の懸念が出てきた。失業率の高止まりに加え、民間企業で2002年夏のボーナスが減少、人事院による初の月給削減勧告を受けて国家公務員も年収が4年連続で減少するなど雇用・所得環境はむしろ厳しさ増している。さらに国内株価の下落で、消費者心理の悪化が懸念されるようになってきた。こうした情勢を踏まえると、2002年初めごろから始まった戦後14回目の景気拡大局面は早期息切れの懸念が払拭できない。日本経済の本格的な浮揚は、規制緩和や税制改革などさまざまな構造改革の成果が表れる2004年以降まで待つ必要がある。

個別の項目ごとに見ると、個人消費は高級ブランド品は売れ行きが鈍化、低価格の代表だった「ユニクロ」も低調だ。雇用、健康保険など先行き不安が解消されない限り、消費に明るさは戻らない。デフレ傾向も先に述べたようになかなか払拭できない。そして、株価の不振は13年間にわたる。競争力の低下が懸念される日本企業の現状を映している。需給面では持ち合い解消売りが重しで、底値模索が続く。

上場企業の2002年3月期決算は、金融を除く事業会社の連結最終損益が初の赤字となった。IT(情報技術)不況の影響を受けて有力ハイテク企業の巨額損失が相次いだほか、株式相場の低迷で評価損も膨らんだ。2003年3月期は多くの企業がいわゆる「V字型」の業績急回復を見込んでいる。米景気の減速懸念など先行きは波乱含みだ。

日本の長期金利が1%台前半から半ばの超低水準で推移している。世界的に景気の先行き不透明感が漂うなかで、安全志向を強めている投資マネーが国債に流れ込んでいるからだ。日本は巨額の財政赤字という「時限爆弾」を抱えているが、デフレ脱却の明確なシナリオが見えない間は大幅な金利上昇も考えにくい。債権相場は高値圏での危うい均衡をいつまで維持できるのか。

経営戦略の面から考えると将来について考えなければならない。しかし、予測は実に難しい。予測が難しいとしたら、将来への構想である経営戦略をいかに立てるべきか。このときの基本的な姿勢は2つある。1つは、予測をあきらめて、「自分たちはこうしたい、こうありたい」という夢を持つことである。予測をもとに自分たちの進むべき方向を決めようというのがアウトサイドインの発想だとすると、インサイドアウトの発想である。「世の中がこうなるから、我々はこう進もう」というのではなく、「我々が理想と考える方向に、世の中を変えていこう」という発想である。もう1つは、予測は当たらなくても、将来を真剣に予測する努力をすることである。それによって、世の中の動きについて理解が進み、世の中の様々な現象に目を向ける。そのことによって不測の事態への対処能力を高められる。尚、予測について深く考えるために「本当か」「なぜか」という疑問を投げかけることが重要だ。ビジネスは、競争の世界である。成果を得るためには、他の人々より深い読みが必要である。

以上が本書の概要である。本書が示す通り予測は難しい。2002年の1〜3月、4〜6月、7〜9月、までのGDPが発表されている。実質で、それぞれ、0.2%、1.0%、0.7%の伸長率である。7〜9月のGDPのデフレーターは前年同期比マイナス1.6%である。これは、18期連続下落であり、デフレが深刻の状況にあるということで、名目成長が実質を下回る「名実逆転」は変っていない。本書で示した上場企業の2003年3月期の経常利益が6割増になる「V字型回復」を見込んでいるが、急激な回復は難しくなっている。当然税収入にも、またまた暗雲が立ち込めることになる。2002年も収入予算額より、2兆8000億円の不足である。結論的にいえば、2003年も景気回復は難しいと言うことになりそうだ。

企業は現環境をよく理解し、従来型の経営から脱却するべく、創造性を発揮し、政府に頼らず自助努力により、新しいビジネスモデルを構築すべき努力をしなければ経営に春はやってこないだろう。


北原 秀猛

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•  マイナス成長
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