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ビジネス・ウエポン表紙写真

ビジネス・ウエポン 生き残りたいサラリーマンのための発想術

著  者:大前 研一
出 版 社:小学館
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−093−87413−1

WEAPONとは兵器、武器のことであり、特に攻撃や防御のために用いられる武器を指す。大前研一は、ビジネスで武器=ウエポンとして使用している。その武器となるものは、倫理力と創造力であると説く。そして、彼は言う。「いまの日本人は、世界地図や地球儀を真剣に見ていない人が多いのではないか。世界で活躍する自分を夢見て、世界地図をにらみながらビジネスプランを練る訓練をすべきだと思う」。更に言う。「戒めるべきは知的な無精、知的な怠惰である」。

私が発想を磨く時は、自分を人の立場に置き換えて考える。自分がソニーの会長だったらどうするか、日本の首相だったらどうするか、と考えてみるのだ。これは頭の訓練としては非常に重要かつ効果的な方法である。私がコンサルティングの仕事を通じて薫陶を受けた戦後日本の偉大な経営者達――松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫、立石一真、それにヤマハの川上源一さんら――は、みんな強力なビジネス・ウエポンをもっていた。この人たちに共通するのは、いわば“非常識主義”とでも言うべきもので、「なぜそうなるのか」、「おかしいじゃないか」、「本当はこうあるべきじゃないか」という考え方である。この発想方法が、戦後日本の灰燼の中から世界に冠たる大企業を育てあげたと言っても過言ではないだろう。

マッキンゼーでは、求める人材の資質を「シェイカー&シェイパーズ」という言い方で表現する。まずは揺すって(シェイクして)古いものを削ぎ落とし、それから新しいものの形を作る(シェイプする)という意味である。パスファインダー(道なき道をみつける人)という言い方もできるだろう。つまり、知的にタフな人間しかマッキンゼーでは通用しないのだ。

インターネットなどに情報があふれている今日、知識はほとんど価値がない。いま価値があるのは能力、つまり、できるか出来ないかである。21世紀のサラリーマンの“三種の神器”は「英語・IT・財務」である。いまの日本人に最も欠けているものは、前例のない問題に直面した時に、それを解決していく力である。具体的に言えば、ロジカル・シンキング(論理思考)とそれを土台にした問題解決法(PSA=Problem Solving Approach)のスキルである。論理力+創造力=イノベーション

問題解決法は、かなり汎用性のある経営手法である。経営能力の中で特に大切なものだが、なぜこれをいままで企業は重視してこなかったのだろうか?それはどこかに答えがあったからである。

いまインターネットで確実に儲かるのはオークションだといわれている。アメリカではイーベイが、日本ではヤフーがこの業界を制した感がある。オークションはモールや朝市と同じで、賑わえばにぎわうほどそこに人が集まる傾向がある。最近ではユニークな商品を“エージェント”と称するコミッション制の販売員に売らせる方法が流行っている。

“売る”という行為には2通りの選択肢しかない。自社で売る(直販)か、他人に売ってもらう(代理店)である。固定費をかけないやり方が“エージェント”方式である。しかし、販売店が第2世代に入り、ハングリーでないため一律のマージン体系では成り立たなくなるのに、ダメな販売店ほど全国販売店組織などで条件交渉だけは徒党を組んでうるさく言う。メーカーもおんぶにだっこの経費負担を強いられているうちに、アメとムチの報奨金で何とか活力をつけたい、となる。その制度を使って、想定していなかった元気な経営者がディスカウント量販店と化してしまったのである。これがディスカウンター台頭の理由である。

インターネットでの商売が難しいことは、すでにアメリカのドットコム企業の多くが崩壊したことでよく知られている。いまそれなりに流行っているサイトは次のうちどちらかである。(1)普遍的商品=どこで買っても同じものを安く売る、(2)特殊品=どこにもないものを売る。例えば、2月23日アメリカン航空のシアトル発ロサンゼルス行き76便の15Aという座席は世界で1つしかない。しかも、誰からどのように買うかで内容が違うわけではない。安く買ったからといってサービスが悪くなるわけでも、出発時刻がその席だけ遅くなるわけでもない。このようなものが代表的な普遍的な商品であり、インターネットで大流行している。株もまた、どこで誰から買っても同じものである。むしろ売買のしやすさとコミッションだけの競争となる。

いままでの企業社会では、リーダーシップを発揮するのは、見かけ、年齢、経験、学歴、実績、話し方、気風(スタイル)、身なり(服装)などであった。しかし、サイバー社会になると、そうはいかない。メールや添付資料に現れた論旨、緻密さ、文章を通しての説得力などがすべてとなる。サイバーリーダーに要求される資質の1つ目は、何回かのやりとりを通じて見えない人々の置かれている状況を把握する力である。そして、いろいろな人の意見を聞いたうえで、大胆ではあるが最大公約数にもなっている改革案を思い切って提案する能力である。2つ目には、論理的思考能力と、それを表現する語学力が要求される。話すのと書くのとは大違い、ということはみんなわかっていても、サイバー社会では話し言葉よりよほど丁寧に論旨を展開し、しかも簡潔に言いたいことを表現する言葉を使わないと、読んで反発される傾向がある。これは日本語でも英語でもまったく同じだ。3つ目は英語力だ。英語はロジカルな言葉だから構成、論旨、言葉の選択においてかなりの神経を使わないと、読む人がどこまでも誤解の輪を広げてしまう。

日本人は国際的な場で説得力がない。その最大の原因は、ロジカル・シンキング(論理思考)の回路がないことである。次に数字や財務に弱い。日本の財政は500万円の年収しかない家庭が毎年1000万円の出費を続けているのと同じ状況で、もはや超インフレにでもならない限り、返すめどが立たなくなっている。東大出の秀才の塊のような財務省が簡単なツルカメ算ができなくなってしまったのである。

ITの特徴は情報化社会の進展によって知的な産業がコモディティー化することだ。コモディティーとは日常品という意味だが、同時にあまり価値のない、値段の取れない普及品という意味にも使われる。言い換えれば、従来の資格のほとんどがネットワークの中に取り込まれるか、CD―ROMのようなものに置き換えられてしまう、ということである。一方ITはコミュニケーションのツールでもある。また、あと10年もたてば、選挙、預金の出し入れ、税金の納付、知識の吸収、買い物、チケット購入、エンターテーメントなど、すべての分野でこれなしでは生活できなくなる。

小泉首相の丸投げ方式が問題提起されているが、丸投げするときの質問の出し方の「前提」が違っている。道路公団の場合「民営化してください」という「前提」が基本的に間違っている。例えば、通行料について民営化委員会は、「恒久的に有料化する」と言っている。これは小泉首相の頼み方が悪い。「民営化する」という以上は収入がないといけない。つまり有料でなければ、民営化会社が上場しても誰も株は買わない。公団の経営をどうしたらいいのかとか、道路はどうあるべきか、といった本質論な議論はできない。私の提案は、高速道路をただちに廃止し「国道0号線」として道路関係予算の中ですべてやってしまう。そして借金部分に関しては「ナンバープレート課金」するという構想だ。自家用車に年1万円、タクシー・バスに10万円、トラックに30万円課金する。日本には約7500万台あるので、それで年間6.5兆円の収入だから、金利3%で現在の道路公団の債務39兆円を7年で完済できる。

いまは、世界的にどの業界にもダントツ1位の人がいる。バスケットボールならマイケル・ジョーダンだし、若い女性ミュージュシャンならブリトニー・スピアーズ。日本では、あゆ(浜崎あゆみ)かもしれない。ゴルフならタイガー・ウッズだ。そうした1位に対して、2位の人は名前さえも知られていない。

いま関西では、阪急電鉄などが中心となって「スルットKANSAI」というICカードの導入を進めている。これは阪急と京阪電鉄、近鉄、南海電鉄、阪神電鉄の関西私鉄大手5社と大阪市営地下鉄の乗換えに使える共通のICカードで、将来はこちらのほうが本命になると思う。このICカードは、定期券機能のほかにプリペイド機能とクレジットカードの機能を持ち、さらに、デビットカードの機能も持っている。しかも、それをポストペイ(後払い)で精算してくれるのだ。関西では2003年10月からこの方式になるが、これがどのくらいすごいカードかというと、これまでの「定期」という概念がなくなってしまうと思う。このカードで1か月間、通勤・通学するとしよう。そして1ヶ月後に「あの人は20回、改札を通った」という記録が出ると、月末に公共料金の引き落としと同じように1か月分の定期券の料金だけ引き落とされる。その後、2ヶ月、3ヶ月後に記録を見直し、「この人は3ヶ月定期を持っていても良かったのだ」と判断して、3ヶ月定期の分だけ割引いてくれるのである。さらに6ヶ月後にはまた同様の方法で割り引いてくれる…という優れたものなのだ。したがって、このICカードで各種の支払い方式は“決まり”だと私は思う。おそらくJRも、いまの「Suica」が同じ方式になる。

以上が本書の概要である。大前研一氏は少し傲慢なところがあるが、目の付け所や分析力などに人を引き付けるものを持っている。彼の出身が理科系ということも、文科系にない着眼点があるように思う。今日の環境の変化、そしてそのスピードの速さについていくには、自分がいま持っているスキルだけではダメであることははっきりしている。それだけに、自分に不足しているスキルを自覚し、それを補うための課題を自分に課して、挑戦していく行動力が求められている。本書を読むとわかるが、自分に不足しているスキルが何であるかを気づかしてくれる。

本書の中で3つのテストがでてくる。

  1. 不要なアメリカ子会社のアメリカ企業への売却を交渉する担当者に突然指名された。英語で1人でやりぬく自身があるか?
  2. ドイツの3大化学企業のうち、まだ日本メーカーの手のついていないところを見つけ、要らなくなった九州工場を買ってもらいたい。インターネットだけでその相手を見つけ、交渉のテーブルにつかせることができるか?
  3. 1.と2.のケースに関して適正な売却価格を算出せよ。そして交渉でどのような算出根拠を、どの順序で出すのか述べよ。

大前研一は言う、こうしたことが簡単にできなければ、ゼネラリストの管理職とは言えない。40歳にもなってこれができなければ、いままでさぼっていたとしか言いようがない。さあ!皆さんには出来ますか?


北原 秀猛

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