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2003年日本経済 これだけ知っていればいい表紙写真

2003年日本経済 これだけ知っていればいい

著  者:竹村 健一
出 版 社:青春出版社
定  価:1,500円
ISBN:4−413−03376−0

21世紀が幕を開けてはや2年、世界の変化の流れはますます加速していく一方だ。そんななか、世界のめまぐるしい動きをキャッチしていくことは勿論大切だが、もっと重要なことがある。いま一度、自分の足元を見つめ直してみることである。私たちの身のまわりには、まだまだ意外な宝が隠れているものだ。はからずも、2002年は、一度に2人もの日本人ノーベル賞受賞者が生まれた。これにとどまらず、日本と日本人にはまだまだ大きな可能性が秘められている。

本書の内容は、第1章:激変するアジア経済図式と日本、第2章:進むデフレ対策と日本経済の潜在力、第3章:低成長時代の新・ビジネスモデル、第4章:ポスト・アメリカ時代の日本のポジション、第5章:日本経済の行方を担う新機軸、の5章に分かれている。著者は「マスコミでは、“日本はダメになった”、“日本経済は崩壊する”…などといった悲観的な報道ばかりがながされるが、これは側面的すぎる。あまり報じられることはないが、いま私たちは、可能性を信じなければならない」と言う。

小泉首相の北朝鮮の訪問では、北朝鮮のトップ・金正日から譲歩も引き出した。最後の社会主義国家である北朝鮮を自由主義圏に引き入れるという点では、小泉首相はうまくタイミングを狙い、それが的中したといえる。金正日は、このまま国を閉ざしていては北朝鮮はダメだと悟ったのではないか。そのきっかけは、外側の人物と会ったり、世界の進展するさまを実際に見たからだったのではないだろうか。その意味で、一つ転機になったと考えられるのは、ウラジオストックにおけるロシアのプーチン大統領から「日本とはいろいろ問題があるかもしれないが、国を開いたほうがいいよ」といわれたことが大きだろう。さらには、中国の上海を実際に見たことが大きい。上海は発展のショーウィンドウのようなものだ。上海の躍進するさまを見て、「社会主義だけではダメだ。国を開き、外国からお金を入れれば、大きなビルも建つ」と金正日が思っても不思議ではない。今後、日本と北朝鮮の話し合いがまとまり、国交正常化ともなれば、日本から北朝鮮へお金が渡ることが予想される。このお金の行き先については、日本側も十分に注意する必要があるだろう。

金正日は、日本の小泉首相と会談して世界をアッと言わせた。その陰に隠れて目立たないが、金正日は他にも驚くべきことを行っている。その一つが経済特区作りである。特区となるのは、ロシアとの国境にある新義州というところで、ここにビザなしで誰でも来られるようにしたのだ。

日本でいま北朝鮮というと、拉致問題のことばかりが上がる。確かに拉致問題は重要であり、被害者やその家族にとってはあまりにも重大な問題なのだが、マスコミにも問題がある。マスコミは拉致問題ばかりで、北朝鮮の大きな変化を語ろうとしない。北朝鮮は、本気で国を開く気なのである。ともかく、北朝鮮が大きな変化をし始めたから、日朝会談が行われたのである。拉致問題は確かに日本人にとっては重要な問題だが、北朝鮮ではそれとは別に大きな変化が起きていることは知っておきたい。北朝鮮と言えば、すぐに思い浮かぶのは“危険な国”というイメージである。それは、拉致だけではない。テポドン・ミサイルや工作船問題もある。そんな危険な国と国交を開く必要があるのかと言う声も少なくないが、これからの北朝鮮は違う。北朝鮮は、危険な国家ではやっていけないと自らわかってきているからだ。

貿易問題というと、これまでは日米貿易摩擦であったが、これに新たに中国が加わってくることは必至だ。日・中・米の貿易摩擦が起きてくるのである。中国の台頭によって、日本とアメリカが悲鳴をあげるようになるだろう。これからは日本対中国、アメリカ対中国になる。日本が中国から買う品物は、農産物からハイテク製品まで輸入している。品質がよく、しかも安い。いま日本では不良債権の処理や構造改革が大きな問題になっているが、誰もが見逃している問題がある。それが、中国との貿易摩擦である。これをしのぐには、“元高”にするのが一番の方策だが、それでも日中貿易摩擦は長く続くだろう。その期間は300年続く可能性もある。それは、中国と日本との人口比較から計算できる。また、日本企業の生産部門の中国進出は、日本の政府の調査では、日本企業のうち、3割ほどは中国へ出ていくつもりであるという。

日本から工場が消えていくと、失業者ばかりが日本に残ることになりかねない。ここで重要となってくるのがサービス業である。サービス業の方に頑張ってもらって、そちらの方に雇用が移っていくことが求められる。日本はこれまで、良い製品を作り、それを海外に輸出して儲けてきたが、このところ風向きが変わってきた。中国をはじめとする発展途上国が良い品物を作りだしたからである。それも日本製品と比べて安い。となると、日本も他のもので稼ぐ方法を考えなければならないが、そこで注目したいのが、観光業である。日本に来る外国人は年間400万人程度である。その日本に来る外国人をもっと増やすようにするのである。海外から多くの人がやってくると、彼らはホテルに泊まる。飛行機や列車にも乗るし、お土産も買う。観光客が落とすお金のいいところは、特定のところだけに向かない点だ。あらゆる業種が潤っていく。それによって、日本全体も潤う。日本政府が外国人観光客に来てもらうためのPR予算は、わずか40億円ほどだという。韓国では観光の振興に200億円を使っている。特に、日本に向けての宣伝は凄い。いま、日本から韓国に向かうのは年間およそ250万人である。その一方、韓国から日本にやって来るのは120万人と、その半分でしかない。いま、フランスへの観光客は年間7500万人である。日本はこれから、観光を大きな収入とする“観光大国”の道を探っていくことが重要だ。これから10年は特にそのチャンスである。それは、2008年に中国の北京でオリンピックが開催されるからだ。その中国ツアーのついでに、日本にも来てもらうようにするのだ。

不良債権とは、簡単に言えば、企業が銀行からお金を借りたのに、返せなくなったことで生じるものである。この「お金が返せない」には2種類あって、1つは金利を払えないというもの、もう1つは元利金を払えないというものである。返す能力がない会社にお金を貸したということで、担当者の評価が下がるのだ。ここから複雑な問題が起きてくる。担当者としては、成績を下げられたくない。そこでこれまで行われてきたのが、金利が払えない会社に、金利を払えるだけのお金をさらに貸すというものである。こういう企業がたくさんあって、それが隠れた不良債権として今どんどん出てきているのである。ドイツ銀行はドイツで最大の銀行である。そのドイツ銀行では、9人いる重役陣のうち6人までがアメリカ人とイギリス人である。ドイツ銀行がなぜ変わったかというと、新しい時代に生き残るためには、新しい経営ができる人間が必要だからである。これが真のビックバンであり、改革なのである。日本の銀行はいまだに昔ながらの重役の選び方をしている。 小泉首相は自分の興味のあることには俄然乗ってくるのだが、興味のないことにはあまり反応を示さない。このことは、国民もだんだんわかってきているのではないか。小泉首相は一国の総理大臣である。日本中のいろいろな問題に関心を示し、ストライクゾーンを広げてほしい。

この10年間で日本の株価は、4分の1にまで落ちてしまった。株価というのはその国の経済力を示すものだが、日本経済の力が本当に4分の1にまで下がったのかというと、そうではない。たとえばGDPは、この10年間で10%ほど増えている。年率1%程度の伸びである。平均給与も同様に毎年1%、10年で10%ほど高くなっている。しかも10年前、日本はアメリカに次ぐ世界第2位のGDPを誇っていた。3位はドイツ、4位フランス、5位イギリスで、この3位以下の3国のGDP合計で日本のGDPに達する。これはいまも変わらない。日本人の金融資産もこの10年間で4割も増えている。いまは1400兆円になっている。ODA(政府開発援助)もこの10年間、日本がずっと世界一の座を占めていた。こうして見て行くと、日本の経済力は世界的に見て決して下がっていないのである。本来なら政治家がこうしたデータを見せて、いまの日本は不当に評価が低すぎることを示す必要がある。それをしないから、日本はいま必要以上に意気消沈しているのだ。

いま日本が抱えている問題の1つは、税金問題だ。税金については納める側がいる一方、使う側もいる。“税金を使う側”にはどんな人たちがいるかというと、その代表は公務員だ。また、公共事業によって食わせてもらっている土建業者も税金を使う側だ。問題は税金を払う側が減っていることである。赤字の会社が70%にも増え、法人税を払わない企業が増加している。また、個人の税金支払い者も減っている。税金を払っているのは、3割の個人企業と4人に3人の個人である。そんな具合で、いま日本は税金を払わない国になりつつある。

スイスはいま、連邦制をとっている。その連邦政府が、たとえば1つ省庁を増やそうと考えた場合でも、住民が「必要ない」といえば、増やすことはできないのである。役人を増やすときも同様だ。なぜ増やせないかと言うと、増えた役人の給料を払うのは住民だからだ。税金の分配法もスイスでは非常にはっきりしている。集めた税金の4分の1は政府に渡し、残り4分の3を地域が自分達で使う。豊かな地域も貧しい地域も、すべて自分たちが納めた税金の範囲でやっていくのである。いまの日本では、役人も政治家も勝手にお金の使い道を決めているのである。特に役人には選挙がないから、国民を無視して、ますます勝手なことばかりするようになるのである。

アルゼンチンが、いま大変な経済危機にあることはよく知られている。2001年には、あわや債務不履行というところまでいった。そのアルゼンチンと同じ道を辿るのではないかと心配されているのが、実は日本である。日本がいま、どれほどひどい状態にあるかと言うと、例えばこんな数字がある。IMF(国際通貨基金)では毎年、世界経済に関するさまざまな統計結果を発表していて、その1つに世界のGDPの伸び率を調べたものがある。以前は2001年度の伸びを3.5%程度と予測していたのだが、年度末近くにこれを2.4%程度に下方修正したのである。この下方修正に大きく影響を与えているのが日本なのである。IMFの予測では、日本のGDPをプラスの0.2%からマイナス1.3%に下方修正している。先進国で唯一のマイナス成長国である。アルゼンチンは、20世紀の初めごろは、アメリカと並ぶ世界屈指の経済大国だった。それが100年のうちにどんどん下がり、今日のようになってしまった。日本も100年後にはアルゼンチンのようになっているのではないかと言うのだ。その結果、日本の国債格付けはイタリアに抜かれ、先進国で最低ランクに位置づけられてしまった。そしてこの衰退ぶりを、世界が非常に危険視しているのである。

「改革」を唱えているのは小泉首相ばかりでない。日本企業も不振から抜け出そうと「改革」を唱えているが、あまり成果が上がっていない。それは、1つには日本の会社が職務の権限や分担を明確にしていないからである。何も日本の会社だけではない。政治の世界もそうらしい。日本には大臣がいて、その下に副大臣を置いて、その下に大臣政務官を置いている。日本の政務官には職務分担というものがない。全部の範囲を見るようになっている。副大臣も大臣もそうで、同じことを3人が見るようになっている。日本では、「私にはこの権限がありますから、全部、自分で決めます」ということができない。だから、何もきまらず、ダラダラと時間が過ぎてしまう。

中国からの輸入が増えているいま、これからの輸出をどうしていくかは、日本に突きつけられた大きな問題である。そんななか、鉄くずと言う意外なものの輸出が伸びているが、ほかにも意外なものの輸出が伸びている。それは、金の輸出である。いったい日本のどこから金が出てくるのか。実はそれは、みんなが使っている携帯電話の中からだ。携帯電話の半導体部分には、金がたくさん入っている。その金は宝飾用にはならないものの、工業用に利用できる。携帯電話からは、金の原石の8倍ほども金がとれるのだ。この携帯電話から金を取り出す技術は、そう簡単ではないらしい。日本のハイテク技術がこれを可能にしているのだ。この携帯電話からかなりの量の金を取り出すことができ、これを輸出にも回しているのだ。

最近、日本のサラリーマンの給料が上がらなくなったと言われる。確かにそうだが、それを嘆くことはない。と言うのも、実際の日本人の給料は他国に比べて非常に高いからだ。日本経団連の調べによると、日本のメーカーの従業員について、1時間あたりの時給は1950円になっている。月給では31万9000円である。この額がいかに高いかは、中国と比較しただけでよくわかる。中国の人たちがもらっている給料の、およそ33倍を日本のサラリーマンはもらっているのだ。同じ先進国同士でも日本は高い。ドイツよりも12%高く、アメリカよりも26%高いのである。その高い給与が日本の企業の首を絞めつつあることは知っておいたほうがいい。日本の労働分配率は90年代にはほぼ60%台だったが、現在は75%まで上昇している。

以上が本書の概要である。著者である竹村健一氏の視点は一般人と少し違う。情報はヒトにつくものである。まず彼がよく言うように、世界の新聞に毎日目を通す。それと、要人と言われるヒトとよく会っていることも挙げられよう。それらをもとに自分の視点で情報を切ることによって、未来を推測していると思われる。1冊の雑誌、1枚の新聞などを読んでも、貴重な情報を見過ごす人と、その情報を活用する人との差は大きい。本書を読んでいただくとわかるが、携帯電話のなかから金を取り出して、輸出していることとか、大臣、副大臣、政務官の3人とも同じことやっているなど、我々にはなかなか入らない情報である。彼の視点がおもしろい。


北原 秀猛

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•  竹村健一
•  貿易摩擦
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