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5年後こうなる表紙写真

5年後こうなる

著  者:日下 公人
出 版 社:PHP研究所
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−569−62637−8

5年後の日本と世界を考えてみた。日本を取り巻く世界情勢の見通しを固めていくと、その次は日本だが、これが一番難しい。「この国の問題は何か」、「この国はそれをどう克服するか」、「克服しないで放置すればどうなるか」――日本の将来が見えない原因は、日本自身の“特異性”、あるいは“先端性”にあるのである。だから将来予測は、どうしても日本の自発的・内発的な方向選択やパワーの発揮から始めなければならない。

本書は第7章、84の項目によって構成されている。
第1章 未来予測の前提が変わった
第2章 5年後 デフレは続く、けれどみんな幸福
第3章 5年後、これが次なる日本経済
第4章 5年後、成長産業はこう生まれる
第5章 そして生活はこう変わる
第6章 政治と外交はこう変わる
第7章 アメリカの落日が始まった?

今までどおり、設備投資、貿易、財政、個人消費などGDPの項目に書いてあるようなものを並べて考えていたのでは、予想が外れてしまう。それ以外の要素が重要になった。具体的に言えば、その1つは「戦争」であり、もう1つは「道義」(道徳)である。人間および国家のまじめさ、健全さ、礼儀正しさといったことを考えに入れないと経済見通しはできない。その例として、エンロン、ワールドコムの粉飾決算事件で、それがアメリカの経済にもイラク戦争にもつながっている。制度がきちんとしていても、道義が低ければその抜け穴を探す人が現れる。抜け穴がなければ、悪知恵で自らそれをつくろうとする人が現れる。

日本経済はここから回復していく。地方の中小企業から回復していく。国際的大企業はしゃぶられて終わりである。アメリカ帰りの人の言うことを聞いている会社はダメになる。EUはアメリカを離れて生きていく方向に歩みを早め、「EUスタンダード」で生きていく。マレーシアもタイも、IMFの言うグローバル・スタンダードと手を切った結果、強い通貨になっている。

世界は保護貿易に向かっている。その震源地もアメリカで、例えば昨年(2002年)3月、アメリカは鉄鋼にセーフガードをかけたが、これは議会の独走である。鉄の輸入に税金をかければ鉄鉱業者は助かっても、アメリカ国内の鉄の値段が上がって、国内の自動車がつくれなくなってしまう。これはやりすぎだとして、「鉄を保護すると自動車がつぶれる」という反対運動がアメリカ国内で起こった。それにもかかわらずセーフガードを発動した。すると、ヨーロッパも怒った。「WTOで問題にするぞ。WTOの精神に反している、自分だけ勝手に税金をかけるな」と言ったが、アメリカは聞かない。聞かない国なのである。こんなことが続くと世界は保護貿易になる。アメリカはそろそろ負ける。思い上がっている人は、いつかはやりすぎて潰れてしまう。アメリカもそろそろ、その地点にきているのではないか。攻めて、攻めて、攻めているのが、どこかで終わりになる。これを軍事用語で「攻勢終末点」と言う。経済発展の基礎にあるもの、それは平和と道義である。以上のことを言い換えれば、相互信頼社会の将来をどう考えるかである。

日本のデフレについてその原因を冷静に書き挙げると、次のようになる。

  1. 中国その他から安い商品が入ってくる点がある。しかし、これは世界中一緒だから日本だけデフレが強い説明にはならない。
  2. 日本人には欲しい物がないのである。こんな国は世界中他にない。
  3. そもそもデフレ対策をやろうとしても、できないのが日本である。これまでの経済理論とは前提条件が違いすぎるのである。5年くらいでは変化しない。デフレはなおらないし、ひどくもならない。慢性デフレでこのまま進む。
  4. 日本は世界最大の資金流出国で、その結果世界最大の海外債権保有国である。援助大国というのもある。

借金の問題として挙げられるのが財政赤字だが、これも大したことは起こらないと思っている。「借金とは何か」、である。国民が取り返そうと思ったときは確かに問題になる。しかし国民が「利息さえもらえばこれで良い」と思っている間は何ごとも起こらない。あるいは、「返ってこなくてもいい」と言えば、それで終わりになる。とすれば、「利息で十分」と「少しは返ってこなくてもいい」という境目あたりで終われそうな感じがする。財政赤字は670兆円ぐらいあると言われ、隠れ借金を入れると1千兆円を超えるという試算もある。財務省がホンネで心配しているのは、国債の利息の支払いが増加して自由に使える支出ができなくなっていくことである。

日本経済の論点として「潜在的成長率が2%から3%あるから、それを何とか実現しなければいけない」と言う。しかしGDPそのものが論点ではなくなるだろう。

  1. こんな低成長が続くなら5年後には経済成長率を言わなくなる。
  2. GDPの数値そのものがいい加減で、そんなものに振り回されて仕方ないと多くの人が気付くようになってきた。
  3. 仮にGDPが増えても、その中身が人々の生活を今までより向上させるような何らかの付加価値が伴っていなければ意味がない。中身の向上がなければただの「水ぶくれ」、あるいは「数字の独り歩き」である。どちらにせよ、GDPの成長がひとりの幸福を反映する時代は、すでに終わりかけている。

イスラエルのシャロン首相がパレスチナを主敵とする攻撃を続ければ、その戦争はアメリカ国内にも飛び火して、アラブ対ユダヤの戦いがアメリカ国内でも展開されるかもしれない。その混乱は大きい。さらに、WASPもユダヤびいきだと攻撃されるようになったとしたらどうなるか。もともとWASPとユダヤには対立の歴史があるから、それに火がつくかもしれない。キリスト教徒対ユダヤ教徒対回教徒の三つ巴の戦いがアメリカ国内で始まる?そこでどこへ行くのか。脱出先として有力なのは日本。「日本の土地は買った方がいい、株は買った方がいい」と思ってユダヤ人が5万人、10万人と来たら、今から50年間日本は栄える。

「5年後にはこんな産業が有望だ」、身の回りを見渡して、いま趣味で流行っているものが産業になるのである。ふと右をみればガーデニングが流行っている。左をむけばペットも凄い。下を見たらキャラクターグッズがたくさん転がっている。上を見ればハイテク電子機器がオモチャになっていて、横をみれば介護や奉仕が趣味という人がいる。原発に反対してデモに参加するとテレビに映るのが趣味だという人もいる。それから海外旅行もあるし、生涯学習とかで大学へ行く。資格を取る。これらを組み合わせると、手話を習ってからサッカーを観戦に外国へ行くと、外国人と手話が通じて面白いというのもある、など…。そんな調子で周囲を見渡せば、新産業の芽はいたるところに発見できるだろ。

シルバーが求めるものは、文化的に程度が高い物だ。量はたくさんいらない、しかし質にはこだわる。ところが既存産業の方は大量生産とバーゲンセールが得意で、安いのが取り柄になっているから、シルバー時代になると不景気だとおっしゃる。

これからのIM(インフォメーション・マーケット)創造の主役は日本である。特にシルバー・マーケットと、文化・娯楽産業である。なぜかと言えば、先ず第1に日本には莫大な貯蓄がある。個人金融資産は1400兆円。そのうちのある程度が不良債権になっているにしても、それでも何百兆円もの貯蓄がある。しかも、毎年20兆円、30兆円という規模で増えている。この新規の貯蓄をやめるだけでも毎年20兆円、30兆円の需要が生まれる。

戦後の日本では大学進学率が急上昇した。かつては3%ぐらいしか行かなかったのが、50%近くまで増えた。だから大学商売は倍増、倍増で高度成長した。しかしこういう条件が、まるで変わってくる。だから大学の半分潰れる。

21世紀の政治は民主主義で経済は消費主導であるとすれば、その将来予測はこうした国民意識の上に築かれたものになる。そのとき、こういう「新日本人」が求めるものは(1)かわいい、(2)気持ちいい、(3)カッコいい、の3Kだから21世紀の発展も新しい国づくりも結局はこの方向へ向かう。

「デフレ的生活とは何か」

  1. インフレのときは借金をしていた方がトクだが、デフレのときは逆に借金をしてはいけない。
  2. デフレのときは資産を持ってはいけない。新しく資産は買わないようにし、持っているものは売却する(スリムな生活)。
  3. 換金資産でなく、自分が利用する資産は別である。それは買ってもよいし、所有してもよい。
  4. 人材は資産と言えるかどうか。インフレのときは量的拡大が見込めるが、デフレのときは質的転換が必要だから、人材の意味が変わる。学術、技術、技能、資格、名声、信用などについての総点検が必要である。

 これらを個人生活に当てはめるとどうなるだろうか。
  • マイホームは売却して貸家に住み、安いのをさがしてどんどん転居する。
  • 自動車もレンタルかリース、あるいはタクシーかハイヤーを使うことにして、マイカーは持たない。
  • 必要なものは最小限をそのときどきに購入する。住宅は小さいので我慢し、大型冷蔵庫もやめて小型にする。家財道具が少ないと転居に便利である。
  • 書籍も買わないで図書館を利用する。良い図書館を見つけたらその近くへ転居する。公園でも美術館でもスポーツでも、何でも公共施設を利用する。
  • 会社で働いて功績をあげたらすぐに対価を要求する。“恩を売る”ようなことはしない。老後の処遇より現在のキャッシュである。その方が仕事にも熱心になる。
  • 濃密な人間関係をつくるために時間や交際費を使うなどはムダだからやめる。“人脈は資産だ”というのは本当だが、必ず含み益になるかどうかは分からない。変化の時代には“含み損”になるのが早い。
  • 自分の資産を、いつでもすぐ現金化できるようにしておく。
 以上をまとめて言えば、“所有から利用へ”の時代となる。

アメリカは大変な軍国主義の国である。大統領は陸軍、海軍、空軍、海兵隊、それからコーストガードと5軍の最高司令官である。だから大統領が「行け!」と言ったら部下は動く。宣戦布告も何もいらない。アメリカが嫌われている理由を挙げていくと、すぐにいくつも思いつく。まず思い浮かぶのは、アフガニスタン攻撃は反テロで正当化されるとしても、イラク攻撃の正当性は何か。それからあの辺の政治情勢をアメリカは持っていない。軍事力が強いだけである。スパイ網を持っているのはイギリスとフランスで、100年、200年の歴史がある。アメリカの攻勢終末点は意外に早くやってくると思う。攻勢終末点に近づくと何が起きるか。まず第1には、攻勢終末点に近づいた時こそ「まだまだやれる」と勇み立っている。そして第2に、追い詰められた敵は新しい戦術戦法を繰り出してくるが、勝ちに奢っているからそれに対して鈍感になっている。相手に対する研究がずさんになる。第3番目に、自分の弱点を突かれたとき怒るようになる。この3つがあるから、攻勢終末点は予想していたよりも加速して意外に早く来る。アメリカの経済は5年後には「悪い」という答えになる。そして、5年後には世界経済が大混乱になる。ただし日本だけは残る。

以上が本書の概要である。この概要をお読みいただいただけで、今までにない本の内容であると気付かれただろう。それは、最近はどの本を読んでも日本の将来に対する悲観論的なものが多いのが現実であるが、それに対し本書は楽観論的な内容となっている。これから5年後、世界がどのような変化を遂げているかは誰にも分からない。ただ言えることは、本書の中にも書いてあるが、議員1人当たりの収入は歳費2000万円、それに自動車がついて秘書が4人もついて、さらに情報収集費が1200万ぐらいついて、そのうえ政党助成金がある。それやこれで年収6000万円である。また、議員会館、議員宿舎や1回の選挙にかかる経費約700億円などを合計すると、1人の議員にかかる経費は年間10億円以上と言われる。現在日本の国会議員は衆議員議員480人、参議院議員247人、合計727人いる。6000万円×727人=436億2000万円の税金が毎年支出される。10億円とすれば727人でおよそ7300億円かかっていることになる。アメリカの国会は上院、下院合計の議員数は535人である。アメリカの議員数を国民数で割算すると、国民50万人対議員1人である。日本は17.5万人対1人である。しかも、政治家として天下国家を論じるのではなく、自分の地元にいかにお金を持ってくるかが一番の関心ごとであり、地域の利益代表になっている。だから国会議員を減らすなどといったら国会が紛糾してしまうだろう。日本の構造改革は政治家や官僚の抵抗にあって、遅々として進まない。しかし、ドラッカーが言うように「経済が社会を変えるのではなく、社会が経済を変える」の言葉通り、年金問題1つ取り上げても大変だ。先の参議院予算委員会で塩川大臣は消費税を福祉目的税として、2007年以降に導入する発言をした。しかも、少子・高齢社会である。著者の日下公人氏の言う通りの方向に行けば万々歳だが、なかなか簡単にはいかないだろう。ただし、著者の視点、切り口は参考になるし、面白い。


北原 秀猛

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•  デフレ
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