過去何十年にも渡って、企業の成否を決める要因は「市場シェア」だと考えられてきた。他社に負けない製品を開発し、市場シェアを確保すれば、黙っていても利益は上がる――この成功の方程式は実にシンプルで、世界中の多くの企業がこの考え方に従って行動してきた。しかし今日、かつて優勢を誇った成功の方程式は機能不全に陥っている。もはや、市場シェアのみが利益の源泉だと信じることはできない。では今日、どのような考え方が成功をもたらしてくれるだろうか?私の答えはこうだ。「利益が生まれる仕組は多種多様だが、企業がどこで利益を上げられるかを決めるのは顧客である」。このことがあなたのビジネスにとってもつ意味は深遠である。
本書で紹介するように、利益モデルの数はゆうに20を超えており、それがよって立つ基盤も多岐に渡っている。市場シェアであれ、売上であれ、資金力であれ、技術力であれ、どんな要因もそれだけで利益を手にできる要因ではなくなったということだ。
著者のエイドリアン・スライウォッキーは、ハーバード大学卒。現在、マーサー・マネジメント・コンサルティングのバイス・プレジデントおよびボードメンバーを務める。
- 顧客を知ることが利益のはじまり―顧客ソリューション利益モデル
- ファイアウォールで利益を守れ―製品ピラミッド利益モデル
- 同じ製品で異なるビジネスを―マルチコンポーネント利益モデル
- 臨界点を目指せ―スイッチボード利益モデル
- 粘り強さが生み出すスピード―時間利益モデル
- 大ヒットを創造するマネジメント―ブロックバスター利益モデル
- 1つの資産からさまざまな製品を―利益増殖モデル
- 利益追求に驀進する情熱―起業家利益モデル
- すべてを知りつくすことの強み―スペシャリスト利益モデル
- 売り手が主導権を握る―インストール・ベース利益モデル
- 未来を計画できる立場をつかめ―デファクト・スタンダード利益モデル
- 人間の心に潜む非合理性―ブランド利益モデル
ブランド利益は、効果的な宣伝活動に投じられた資金の累積額だ。例えば、血圧降下剤β−ブロッカーの市場が良い例である。この分野は1976年に「インデラル」が登場して以来、1985年までに6ブランドが市場参入した。各部らブランドのシェアを高い順に並べると、(1)インデラル、(2)コルガード、(3)テノーミン、(4)ロブレソール、(5)ビースケン、(6)ブロカドレン、となっている。各ブランドの累積宣伝費合計の比率は市場シェアと比例する。差別化されていない製品同士の場合、累積投資がシェアの拡大をもたらす。市場シェアを決定するのに影響をもつのはセグメントすることである。例えば、医薬品部門での専門家セグメントだ。心臓科医は自分でも心臓薬をたくさん処方するが、同時に一般開業医がどの薬を処方するかにも影響を与える。
- ニッチ市場を深く掘れ―専門品利益モデル
- 点から面への拡大―ローカル・リーダーシップ利益モデル
- 信頼関係がもたらす巨大なリターン―取引規模利益モデル
- コントロール・ポイントを制する―価値連鎖ポジション利益モデル
- わずかな価格差をめぐるゲーム―景気循環利益モデル
- フォローアップの潜在力―販売後利益モデル
- 真っ先に波を乗換えよ―新製品利益モデル
- ビジネスにおける重力の法則―相対的市場シェア利益モデル
- 学習の累積がもたらす知恵―経験曲線利益モデル
- 速く動くより、早く着手せよ―低コスト・ビジネスデザイン利益モデル
- 10倍の生産性を生む源―デジタル利益モデル
著者は本書の冒頭で次の質問を投げかけている。
- 自社のビジネスはどの利益モデルを使っているか?
- 競争相手のビジネスはどの利益モデルを使っているか?
- もっと利益を上げるために、現在の利益モデルを使って新たにできることはないか?
- まったく新しい収益源をつかむために、新しい利益モデルは使えないか?
- 自分の仕事はどのように利益と結びついているか?利益と無関係な業務はないか?
- 将来の事業計画は、どのようにして自社に利益をもたらすだろうか?
- 自社の計画のなかに収益性を損なう可能性があり、中止すべきものはないか?
- 自社は業界のなかで、まったく新しいユニークな利益モデルをつくれないだろうか?
以上が本書の概要である。本書の狙いは個々の利益モデルを解明することで、「利益に対する純粋で絶対的な興味」を読者に持たせ、ビジネスと収益性の関わりを「粘り強く自らの頭で考えてもらう」ことにある。各章の物語は、若者スティーブが、“ビジネスで利益が生まれる仕組みを知り尽くした男”チャオ氏に教えを請う形の形式になっている。12の項で医薬品が例として上がっていたので、会話としてではなく、1つの文章として載せた。これが、スティーブとチャオの会話方式になっている。著者は1週間に1章のペースで読んで欲しいと願っている。それは、プロセスの共有にある。それにほとんどの章に読んでほしい本の題名が登場する。事例がふんだんに出てくるし、考え方など非常に参考になる。
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